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第150話 魔物使い

 突撃した目の前にはたくさんの魔物が群れている。

 勢いでなだれ込んだ学生たちの中には、魔物の姿を見て怖くなったのか動きを止める者も居た。まあ、初めて実物を見りゃそうなるってものだ。スライムとかウルフとか、まだ可愛げのある方だからな。

 でも、ここに居る魔物どもは大きいし威圧的な表情の連中ばかりだ。怖くなるのも無理はない。

 そんな状況の中でも、ジークとフリードは果敢に攻めに打って出ている。さすがはドラゴニルと同期の騎士たちだ。俺やブレア、それにニールですらもまだ負ける事の方が多いのも頷ける戦いっぷりだと納得させられる。


「ふん、さすがは我が同期。見事な戦いっぷりだな。ぬうん!」


 ドラゴニルは余裕でその様子を見守っている。そして、近付いてくる魔物がいれば、剣すら使わずその拳で叩き潰していた。相変わらず怖えな、こいつは!

 学生たちのサポートは村に駐屯している見習い騎士とブレアがやっている。

 俺はというと、戦いたいのにドラゴニルによって阻止されている。おい、戦わせろよ。


「アリスよ。お前は体力を温存しておけ」


「はあ?!」


 焦る俺に対して掛けたドラゴニルの言葉。まったく意味が分からないときたものだ。

 どうして体力を温存する必要があるのか。この時点での俺は、ドラゴニルの意図をまったく理解できなかったのだ。

 そうしている間にも、どんどんと魔物は倒されていく。

 ところが、ある程度数が減ったところで異変が起こる。


「なんですか。地面が光っています」


「ふん、どうやら我らに対して罠を張っていたようだな」


 慌てるフリードに対して、この状況でも冷静なドラゴニル。

 次の瞬間、地面から光があふれ、俺たちはまったく身動きが取れなくなってしまう。


「これはバインドの魔法ですか。こんなものが仕掛けられているとは、どこの誰が……」


 フリードたちを含めて、全員が厳しい表情をしている。

 ……ただ一人を除いて。


「はっ、こんなに簡単に引っ掛かってくれるとはな」


「ジーク? お前はなぜ動けるのですか」


「さあてな?」


 ジークはとぼけている。


「おい、連れて来てやったぞ。拘束もしたんだから、さっさと出てこいよ」


 ジークがゆっくりと魔物の方へと歩いていく。

 普通に考えれば危険な状態だが、どういうわけか魔物はまったく動く気配がない。拘束した今なら絶好の機会だというのに、一体なぜなのだろうか。

 その答えが次の瞬間現れる。魔物の隙間からローブを身にまとった人物が現れたのだ。


「くくく、こんなに早く叶うとはな」


「何者ですか、その男は」


 声を聞いたフリードが質問をする。だが、それに答える者は居なかった。


「……そうか、その魔力はランドルフの者か」


 ドラゴニルがランドルフの名前を出すと、男はぴくりと反応したようだった。


「……いかにも。あの傲慢な男にこき使われていたものだ。ドラゴニル、お前は絶対に許せない。ここで恨みを晴らさせてもらおう!」


「ふん。あやつごときの話で、なぜ我を狙わねばならぬ。理解できぬ話よな」


「うるさい。あいつとお前のせいで、俺は何度も魔物を集めさせられたのだ。都合よく能力を使われたものの気持ちが、お前に分かるというのか?!」


 ドラゴニルが冷めた態度でいると、男は段々と感情を高ぶらせていく。


「この俺の復讐劇も、ここに終わりを告げるのだ。ドラゴニルを殺し、フェイダン公爵領を滅ぼし、王国に大きな傷跡を残してくれる。ふはははははっ!!」


 狂ったように笑い始める男。その姿に恐怖を感じるどころか、どこか哀れに思えてくる。


「さあ、ジークよ。俺とともにこやつらを皆殺しにするのだ」


「ジーク、お前……」


 フリードがジークへと視線を向ける。

 だが、ジークはその視線にまったく動じることなく剣を構えている。

 なるほど、昨日感じた違和感はこういう事か。魔物使いとつながっているから、ジークは魔物に攻撃されずに行動できていたってわけか。

 だが、騎士たる者のくせに、仕える者への反逆ともいえる行為が許されるわけがない。そう思うと、俺の中で何かが湧き上がっていく。


「悪いなフリード、死んでくれ」


 ジークが剣をフリードへと突き刺そうとする。

 周りは信じられないという表情でその光景を見守る事しかできない。


「うおおおっ!」


 そんな中、俺の中で何かが弾けた気がした。

 次の瞬間、俺はフリードとジークの間に割って入っていた。


「へえ、そんな動きができるとは。さすがあの男が危険視しただけの事はあるな」


「ジーク……!」


 冷淡な表情のジークに対して、俺は歯を食いしばった顔で睨みつけている。

 その光景を見て、魔物使いの男は慌てている。


「バカな。この魔法の中で動けるとは……」


 戸惑う男に対してジークは声を掛ける。


「こいつは俺が引き受けますから、とっととそいつら殺しちゃったらどうなんですかね。それが目的なんでしょうが」


 淡々と言うジークに、ようやく男は冷静さを取り戻す。


「そ、そうだったな。よし、お前たち。ドラゴニルたちを皆殺しにするのだ!」


 魔物使いがそう叫ぶと、魔物たちが一斉に雄たけびを上げながら動き始めた。

 動きを封じられて絶体絶命のピンチ。この危機を乗り越える事はできるのだろうか。

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