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第149話 最前線へ

 森の中を淡々と進んでいく。その歩みはまるで迷いがない。

 ただその歩みが速すぎて、一部の学生が脱落しかけている。付き添う騎士見習いたちが遅れ始めている学生を気遣っている。


「ジークさん、速すぎませんかね?」


「ああん? ……そうみたいだな。気を付ける」


 見習い騎士から指摘されると、不機嫌そうに反応したものの、非を認めて歩く速度を落とした。

 このやり取りを見て、俺は思わず首を傾げてしまう。


「どうした、アリス」


「あっ、いえ。なんでもありません」


 隣を歩くドラゴニルが聞いてくるものだから、俺は適当にごまかしておく。

 しかし、今の指摘のおかげか、俺はある事に気が付いてしまった。


(おかしいな……。なんでこんなに歩く速度が速いんだ? 普通は周りを警戒してゆっくり行軍となるはずだ。……まるで魔物が襲ってこない事が分かっているかのような?)


 俺が訝しんでいると、ドラゴニルが顔を覗き込んでくる。


「うわぁ」


「アリス、それは恐らく正しい。だが、今は黙っているのだ」


 俺が驚くと、ドラゴニルが口を塞いでくる。そして、俺の考えている事を見抜いた上で話をしてくる。

 なんでドラゴニルは俺の考えている事が分かるんだよ。怖えぜ。

 だが、今はドラゴニルの言うように、俺は黙っておく事に決めたのだった。どうにも嫌な予感が止まらないからな。


 時々休憩を挟みながら進んでいると、ようやくジークの動きが止まる。


「ここがそうか」


「ですね。禍々しいまでの空気が流れてきます」


 ジークが呟くと、フリードも前方の空気を感じ取っているようだった。

 俺も焼けつくような空気を感じ取っている。油断をしようものなら、口の中を焼かれそうな感じの、実に嫌な空気だった。

 それだというのに、明らかに雰囲気の違う人物が一人……、いや二人居た。


「ふん、ずいぶんと骨のある奴が居る感じだな。これは暴れがいがあるというものだ」


「うふふ、これはずいぶんと楽しめそうですわね。ドラゴニル様、わたくしもお手伝い致しますわ」


 ドラゴニルとブレアだった。

 まったく、ドラゴンという連中は相変わらず好戦的な連中ばかりだな!

 ここにニールが居なくてよかったぜ。あいつまで居るとさらに収拾がつかなくなるところだったぞ。

 そう思う一方で、俺はどうしてもここまでの道のりの事が引っ掛かっていた。

 まったく魔物に出くわす事なくたどり着いてしまったのだ。

 普通ならばはぐれた1体2体には出くわすはずである。それすらもなくこの場所に到達できた。それでいて、これから進む先にものすごい数の魔物が待ち構えている。


「ねえ、お父様」


「なんだ、アリス」


「おかしいですよね。これってもしかして……」


 俺がドラゴニルに疑問をぶつけようとしたその時だった。


「グルアアアアアッ!!」


 魔物が突如として現れる。しかも、俺の居る真横からだ。


「くっ!」


 ドラゴニルに話し掛けようとしていたところだったので、俺の反応が少し遅れてしまう。


(なんでこんなところから?! あまりにもタイミングが良すぎるぜ!)


「ふんっ!」


 俺が慌てていると、ドラゴニルが拳一発で魔物を吹き飛ばしてしまう。


「大丈夫か、アリス」


「あ、はい。まったく問題ございません、ありがとうございます」


 俺は助けられたので素直にお礼を言っておく。


「あら、アリスさんってば顔が赤いですわよ?」


「えっ?! そ、そんな事はありませんよ。何を言っているんですか、ブレアさん」


 ブレアに突っ込まれて慌てる俺。そんなに顔が赤くなっていたのだろうか。

 でも、指摘されるのもなんとなく分かる。さっき助けられた時のドラゴニルの姿に、思わず惹かれてしまったのだから。正直ありえないとは思ったのだが、ブレアに指摘された事で余計に意識してしまいそうだ。

 俺は気を紛らわせるかのように首を横に激しく振る。


「それにしても、こんなタイミングで私に襲い掛かってくるなんて……」


「こいつは、この魔物を率いている奴が居ると見て間違いないだろうな。そうでなければ、自由意思で暮らす魔物どもがまったく姿を見せぬという事はありえん話だからな」


 ドラゴニルすら違和感を感じる状況だ。それを聞いて、俺とブレアは揃って警戒を強めている。


「いい心構えだな。ここから先は恐らく魔物が大量に居る。気を抜くと死ぬからな」


 ジークの言葉に学生たちがどよめく。


「おい騒ぐな。下手に騒ぐと気付かれて今みたいに襲い掛かられる。強い奴はなるべく俺たちが引き受けてやるから安心しろ」


 今度は一斉に静かになる学生たちだった。


「おい、フリードよ。準備はいいか?」


「ここまで来てできていないなど、言語道断です。いつでもいけますよ」


 既に柄に手を掛けているフリード。

 その姿を見て、ジークはにやりと笑う。


「よし、これから魔物の討伐作戦の結構だ。学生どもは俺らの後ろに控えろ。先輩どもが手本を見せてやるからよう!」


「あなたにばかりいい格好はさせませんよ。せっかく同期の三人が揃ったのですから、思い切り暴れようではありませんか」


 ジークに続いてフリードも剣を抜く。冷静なタイプかと思ったら、お前も脳筋型かよ。騎士ってこういうやつらばかりなのか?

 俺は正直頭が痛くなってくる。


「さあ、行くぞ!」


 ジークの合図で突撃が始まるのだった。

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