表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/175

第14話 ともだち、できるかな?

 ひとまず領主であるドラゴニルの活躍で、村には平和が戻ってきていた。そのおかげで、俺も日々の鍛錬を再開する事ができたので、ひと安心というものだ。

 だというのに、俺にはいろいろと気になる事があった。

 その一つがあの魔物の発生だ。ハイウルフは確かに群れるのだが、村の近くで20匹近い数が一斉に発生した事は、間違いなく異常な事だ。

 それともう一つがその領主だ。ドラゴニル・フェイダンと名乗った公爵だが、あの雰囲気とフェイダンという名前に俺は引っ掛かりを覚えたのだ。まったく、どういう事なんだろうかな。

 ところが、俺はまったく思い出せなかったので、その話題はさっさと考えるのをやめた。その代わり、男の16歳の時に起きた魔物の大量発生に備えて自分の能力を磨く事だけを考えるようにした。

 その16歳の魔物の大量発生の際には、俺こそ特殊能力が目覚めて無事だったとはいえど、村にはかなりの犠牲を出してしまっていた。親しかった友人だって失ったからな。

 ……ところで、今の俺に仲のいい友だちっていたっけか?

 いろいろと一度目の人生を思い出していた俺は、急にそんな事を思ってしまった。

 男だった時は一緒に駆け回ったりしてそれなりに仲のいい連中は居たのだが、今の状態ではそういう思い出がまったくないのである。女と付き合うといっても、俺の男の意識が邪魔をしてなかなかうまく接してこれなかったのだ。……そう、俺は今気が付いてしまったのである。自分がぼっちだという事に!

 将来的に騎士になるのが目標だとはいっても、さすがに地元に友だちの一人も居ないというのはさすがに寂しくはないか?

 正直これはまずいなと思った俺は、そっちも頑張ってみようと考えた。

 だが、どうやって友だちを作ろうかまったく思いつかなかった俺は、お袋に相談を持ち掛ける事にした。分からない時はやっぱり親だな。この日の鍛錬を終えた俺は、家に帰るなりお袋に声を掛けた。


「ママ、ちょっと相談があるの」


 俺が声を掛けると、お袋は驚いた顔をして俺の方を見る。


「何かしら、アリス」


「あのね。私、友だちが欲しいの!」


 俺の言葉に、お袋は驚き戸惑っている。まさかこんな相談を持ち掛けられるとは思ってみなかったのだろう。お袋は驚きのあまり、ふらふらとよろめいていた。その姿に俺はつい慌ててしまう。


「ま、ママ! 大丈夫なの?」


「ええ、大丈夫よ。ちょっとびっくりしただけだから……」


 お袋は額に手を当てながら、空いた方の手で俺を牽制していた。本当に大丈夫そうだ。ああ、びっくりしたぜ。


「そうね。あまりご近所づきあいもさせてこなかったし、そのせいでアリス自身も興味もないようだったから気にしてなかったわ。やっぱり欲しいのね、お友だち」


「うん、欲しい!」


 俺は元気にお袋の言葉に頷いた。しかし、さすがに9歳ともなるとこの狭い村の中では新たにお付き合いを始めようとするとなかなか大変である。ご近所同士なら、毎日のように顔を合わせる事になるし、その過程で勝手に親しくなっていくものだったからだ。実際、一度目の俺の人生もそんな感じだった。それで、近所のガキどもを連れてよく走り回ったものだ。あの頃は今みたいに魔物にそんなに警戒しないで済んでいた事も大きかったな。

 ところがだ。この二度目の人生は一度目とは大きく違っていた。5歳の時に村のすぐそばで魔物が出現してしまった上に、俺はその時に数日間気を失ってしまった。そのせいで両親が過保護になってしまったので、俺は外へ出られなくなってしまったのだ。その事が、このぼっちの状態に拍車をかけてしまい、現在の俺には友だちというものが一人も居なかったのだ。今は女だからといっても、泣くわけないだろう?

 そういうわけで、翌日からは友だちを作るべく、俺は努力を始めた。頑張って作るものでもないのだろうが、今の俺はとにかく頑張らないと作れないと思い込んでしまっていた。

 ところがどっこい。初日はなんと全滅と惨敗。笑顔で話し掛けたものの、みんなに逃げられてしまった。一体何が悪かったんだ。

 とにかく理由が分からない。俺を見ただけでみんな逃げていったのだ。女どころか男でさえ逃げていく。おいおい、一体俺が何をしたというんだ!

 そんなわけで、俺はしょぼくれた状態で家へと帰る事になってしまったのだった。まったく、気晴らしにと塀の内側をもう一周してきたっていうのに、まったく気が晴れなかったぜ。


「ただいま……」


「おかえりなさい、アリス。……何か元気がないわね」


「あ、うん。なんでもない……」


 不思議そうに俺を眺めてくるお袋だが、そんなお袋に構う事なく、俺はそのまま寝室へと向かって転がった。なんかもう、話す元気すらなかった。そのくらいショックだったのである。

 結局その日の俺は、夕ご飯を食べる事なくそのまま眠ってしまっていた。


 俺が眠っている間に、この日の俺の様子について、両親は話をしていた。


「アリスはどうしたんだ?」


「分からないわ。帰ってくるなり寝ちゃったものだから……」


「友だちを作るって意気込んでたよな? という事は、まったくできなかったって事だろう」


「ああ……、それで落ち込んで寝ちゃったのね」


「やっぱり、あの話が影響しているのかしらね」


「かも知れないな。だが、俺たちはアリスにはそれを話せない」


「そうね……」


「でも、それがアリスを傷付ける結果になるとしたら、……いつまでも黙ってられないな」


「まったくだわね」


 両親がこんな苦悩を話していた事を、俺はまったく知らなかった。たとえこの話を聞いていたとしても、何の話をしているかは分からなかっただろう。

 俺は知らない間にとんでもない状況に置かれていた事を、後に知る事になるのである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ