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第146話 警邏

 ドラゴニルの行動を知らない俺たちは、初日の訓練を終える。

 その日の最後に教えられた事は、村の外に出ての警邏という事だけ。十人くらいずつの班に分かれて行うという話らしい。

 まあ、俺たちは未熟だし、魔物が出てくるかもというのならそのくらいの人数にはなるだろうな。

 俺が男だった頃なんて、常に一人だったからぬるい気もするがな……。


 訓練を終えた俺たちは部屋へと戻る。

 女性だけで集められた部屋には、俺やブレアたち四人以外にフェイダン公爵家の騎士団の女性が二人ほど同室に割り当てられていた。

 とはいえ、この部屋は元々彼女たちの部屋だ。部屋が確保できないからという事で、俺たち四人がここへ押し込められたというのが正解なんだよな。ホントにすまない話だよ。

 俺はそう思っているんだが、当の彼女たちはそういう感じではなかった。そもそも騎士には女性が少ないという事情があるので、自分たちの後輩となるかも知れない俺たちに興味津々のようだった。

 とはいっても、この二人は正式な騎士ではない騎士見習いだけどな。フェイダン公爵家の騎士は二人しか居ないし、その二人は今も公爵邸に居るらしい。見習いだからこの辺境に回されたという事なのだろう。

 この日の夜は余裕があったので、いろいろと話をして盛り上がっていた。見習いとはいえ現役騎士の話に、セリスとソニアは聞き入っているようだった。


 そして、夜が明けて翌日を迎える。

 十人くらいずつ8班に分かれた俺たちは、いつも警邏に当たっている騎士たちに連れられて、一緒に村の近くの見回りへと出て行く。

 さすが辺境の地という事もあって、辺り一帯は森が広がっている辺鄙な場所だ。鳥のさえずりや小動物の姿など、実にのどかな田舎の風景が広がっている。とても魔物が居るような場所には思えなかった。

 俺の班は俺以外の学生はみんな男だが、ピエルとマクスが居るのでまったく知らない連中というわけではなかった。あと、気を遣ってか引率の騎士は見習いの女性だった。女性でも警邏の任務には当たれるようだ。


「人手不足ですからね。この辺りの地理が頭に入っていれば、女性兵士でも新人兵士でも警邏任務はできますよ」


 聞いてもいないのに、女性見習い騎士はそのように説明してくれた。どうやら俺の思考を読まれたというよりは、みんなが不思議そうな顔をしているので悟ったという感じった。


「さて、そろそろ魔物の目撃があった地点ですね。息を潜めていたら気付かれずに去っていったらしいですので、みなさんもそのように対処を願いますね。なんでも数体くらい群れて行動していますし、下手に手を出して仲間を呼ばれても困りますからね」


「手を出さない方針が固まったのは、仲間を実際に呼ばれたからですか……」


 女性見習い騎士の説明を聞いて、俺は瞬時に理解した。

 警邏といえば2~3人は必ず固まって行動している。その状態であっても手を出さないという事は、相手の数が異様に多い時だ。つまり見かけた数が少なくても、攻撃を仕掛けた時にすぐに援軍が駆けつけて不利になったのだろう。


「ええ、その通りですね。斬りかかった次の瞬間には、あっという間に他の魔物が駆けつけて劣勢になりました。しかし、ある程度まで移動すると縄張りから外れたためなのか追ってこなくなりました。それで、基本的には警邏では魔物の種類と数を報告するだけとなっています」


「なるほど……」


 具体的な説明を聞いて、今の仕組みに納得がいった。

 村に駐屯しているという事もあって、魔物の規模が見えない以上はへたに手を出せないといったところだろう。

 そういった事情で手をこまねいているからこそ、今回俺たちをここへ向かわせる事にしたというわけか。実にすべて腑に落ちた。

 騎士学園の学生が加わるだけで80人もの戦力が増えるわけだもんな。そこには王都の騎士団の騎士が教師としてついている。大幅な戦力増強と言っていいだろう。

 しかし、そうしなければならないほどに、フェイダン公爵家の騎士団の戦力は極端なのだ。


(そういえば、この公爵家の力って、ほとんどがドラゴン頼りだもんな……。俺の知る限りじゃ団長のケイルさんだけか、この村に居るドラゴンの血筋の人間は)


 そう、ドラゴンの血を引く者以外の戦力は極端に低いのだ。それがフェイダン公爵家の騎士団の最大の問題なのである。そして、この村に常駐する戦力は、その筆頭であるケイルが団長という立場のために、ほとんど村から動けない。となると、魔物に対応できる力などたかが知れているというわけだった。

 まったく、こういうところまでドラゴニルの脳筋采配が影響しているようだった。家令のドレイクがまだマシそうなのに、どうしてこうなったのか。


(くっそう、大体ドラゴニルのせいじゃないかあぁっ!)


 俺は心の中で頭を掻きむしっていた。外見は公爵令嬢、さすがにそんな事はできやしないからな。

 さて、俺がいろいろ考え事をしていると、突然引率の騎士が動きを止める。一体何があったのか。


「……前方に魔物が居ます」


 その声に俺たちが視線を向けると、確かにそこには魔物が居たのだった。

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