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第145話 ドラゴニルの珍しい事

 翌日のことだった。

 ドラゴニルは朝食後に村の外へと出て行く。しかも護衛も無しに単身である。


「夕方には戻る。アリスたちの事を頼んだぞ」


「はっ、お任せ下さい。公爵様、どうかご無事で」


 門番が元気よく答えると、ドラゴニルはそのまま無言で村を離れていった。

 さすがドラゴンというべきか、その姿はあっという間に見えなくなってしまった。その姿を見送った門番も、ドラゴニルなら大丈夫だろうと思う一方、その身を案じながら仕事に戻ったのだった。


 ―――


 村の中では、俺たち学生は宿舎の前で整列させられていた。


「よーし、全員揃ったな。今日はこの辺りの空気慣れてもらうために、村とその周辺で鍛錬を行う」


 そう喋るのは、村の駐屯部隊を率いるケイルだ。フリードたちは隣で黙って立っている。

 王都の騎士たちは王国の所持する兵力の中ではトップになるのだが、騎士であるなら基本的に立場としては同格、同位だ。それがゆえに、フェイダン公爵領内では、フェイダン公爵の騎士団の方が優位になるというわけなのである。

 それに加えて、今回やって来ている学園の教師陣はたったの七人だ。騎士という肩書はあるが、学園の教師である以上はフェイダンの公爵家の騎士団に従うのが道理というわけである。

 まずは学生たちを二組に分けて、走り込みなど村の周囲で過ごす者と、村の騎士団の訓練場で過ごす者とに分ける。

 学生たちの人数は80人ではあるものの、村の中には十分な訓練場を用意する事はできなかった。村との約束で、あまり生活に影響させない事になっているからだ。

 それに加えて、そもそも村に駐屯する騎士たちが居るので、訓練場の容量を超えてしまっている。だから、学生たちは40人ずつに分けて行動させる事になるのである。

 その組み合わせは、俺たちを含む2年生とニールたちのいる1年生ですっぱりと分けられた。


「くそっ、お前たちとは別々か」


「仕方ありませんよ。学園ごとに分けるのが一番悩まなず早く決められますからね」


 ニールの愚痴にしれっと言ってのける俺である。


「まあ、学園と騎士たちの決定なら仕方がないな」


 反発するかと思ったニールだったが、意外とすんなり受け入れていた。ドラゴニルに鍛えられてからというもの、すっかり精神的に成長した気がする。

 ……あのドラゴニルに鍛えられて精神が成長する意味が分からないぞ。

 あまりにも不可解な現象に俺はつい腕を組んで首を捻ってしまう。


「アリス・フェイダン、早くしなさい」


「あっ、はい。今参ります」


 フリードに呼ばれたので、俺は仕方なくニールと別れて2年生の集団の中へと合流したのだった。


 ―――


 アリスたちの現地での野外実習が始まった頃、ドラゴニルは村の近所を探索していた。

 昨日の夜の時点で、騎士団の持っていた情報はすべて頭の中に叩き込んでいる。その情報ひとつひとつを元に、ドラゴニルは実地調査を行っているのである。

 魔物に逃げられては意味がないので、ドラゴニルは普段の放っている覇気をかなり抑えている。とはいえ、それでも弱い魔物たちはドラゴニルの気配が近付くと一目散に逃げだしていた。


(ふむ、この辺りにはそれほど目立った魔物は居ないか)


 最初の目的ポイントにやって来たドラゴニルだが、それらしい魔物の反応を見つける事はできなかった。


(移動している可能性はあるな。だが、移動しながら生息しているとなれば、それは魔物氾濫とは違う。……という事は、現状では問題ないという事なのだろうな)


 脳筋の戦闘狂であるドラゴニルだが、こういうところでは地味に頭が回る。

 とはいえ、戦う事が最優先な思考回路なので、戦うためにわざわざこういう考察をしているのだろう。本当に戦う事が最優先事項なのである。

 そうして辺りの状況を逐一確認していくドラゴニル。だが、今まで報告のあった地点のどこへ行っても、魔物の反応らしきものを見つける事はできなかった。さすがにこれだけ事態が重なってくると、鈍いドラゴニルでもおかしいと思うようになってくるというものだ。


(さすがにおかしいな。発見されたというポイントは10は回っている。そのどこにも魔物らしき気配はほとんどない。逃げたか? ……いや)


 考え事をしているドラゴニルが、突如として何かを捉えた。

 何かを感じた方角……。そこにあるのは女だった事の自分が身を隠していた山岳地帯だった。


(あれは見覚えのある山々だな。確か、公爵家を追われた我が身を隠していた山だったか……)


 それを思い出したドラゴニルの口角が上がっていく。何かに勘付いたようだった。


(なるほどな……。我ほどの巨体が隠れられるような場所だ。魔物どもはそこを根城にしているというわけか……)


 ドラゴニルは迷いなく山の方へと一直線に向かっていく。すると、読み通りに魔物気配がどんどんと濃くなっていく。

 気配を殺したまま山へと近付いたドラゴニル。そこには魔物たちが出たり入ったりする不思議な場所があった。

 どうやらそこが、村で目撃されている魔物たちの根城のようだった。


(ふむ、この数はさすがにアリスたちには荷が重いか? ……いや、魔物を滅する力を操れるのであるなら、この程度わけはないな)


 魔物たちの勢力を確認したドラゴニルは、いろいろと分析している。珍しく頭を使うドラゴニルである。


(今日の我の目的はあくまでも偵察だ。見逃してもらえる事を幸運に思うのだな)


 しばらく魔物たちを観察したドラゴニルは、静かにその場を去っていったのだった。

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