第144話 騎士たちの話し合い
養成学園の学生たちが寝ている間、ケイルたち村の駐屯の主要人物に加え、遅れてこっそりやって来たドラゴニルや学園の教師たちが集まって話をしていた。
その表情を見る限りはかなり真剣なようである。
「ケイル、村の近隣の状況はどうなっている?」
最初に口を開いたのはドラゴニルだ。フェイダン公爵領の領主である以上、確認をするのは当たり前だから当然だろう。
それに対して、ケイルの表情はあまりよくない。夕方にアリスと話をしていた時とは、まるで別人のような表情をしている。
「非常に思わしくない。警邏に当たっている連中からの報告では、必ず何かしらの魔物と遭遇している。その強さもまちまちらしい。……これまでには見た事のない状況だった」
「ふむ……。やはり魔物の氾濫の兆しがあるという事か?」
顎を抱えるドラゴニル。ケイルは黙ったままこくりと頷いた。
実に深刻そうな表情をしているドラゴニルとケイルだが、学生を引率してきたフリードやジークたち教師たちの方は困惑が隠しきれない。
魔物の氾濫が起きると、相当数の魔物たちが押し寄せてくる事になる。そんな場所に未熟な学生たちを送り込むなど、どうしてできようかというわけだ。
「しかし、ドラゴニル様。魔物の氾濫が起きるのはまだ先の事だよな?」
ケイルがドラゴニルに確認を取る。
「うむ。我の勘では2年後のはずだ。今はまだ魔物がちらほら増えてきているといった感じだから、そう危険はあるまい」
腕を組んだまま話すドラゴニルだ。しかし、ドラゴニルにしては珍しく歯切れのよくない、憶測まみれの発言である。
「だからこそ、万一に備えて我がやって来ているのだ。多少増えているだけなら、学生どもに魔物に対する戦いを経験させるいい場になるはずだからな」
だが、すぐにいつものドラゴニルになっていた。
このドラゴニルの発言は、地味に騎士たちにとっては心強いものなのである。なんだかんだ言っても、みんなドラゴニルの強さは認めているのだ。
「ケイル、明日は学生たちと村から近い場所で鍛錬をしていろ」
「はっ、承知致しました。それで、ドラゴニル様は?」
ドラゴニルの指示に元気よく了承の返事をするケイル。
「我は近くを見て回ってくる。あやつらの訓練に丁度よさそうな場所を探しにな」
質問をされたドラゴニルは、にやりと笑いながらそのように返していた。
「その辺はドラゴニルに任せておけばいいでしょうね」
「だな。俺らはあくまでも学園の教師だからな」
フリードとジークも静かに反応していた。他の教師陣は黙って頷いている。
「この村での防衛に当たるのは俺たちだ。学園の教師たちにはあまり負担を掛けたくないので、基本的には俺たちに任せてほしい」
「それは俺も賛成だ」
ケイルの言葉に、ジークは腕を頭の後ろで組みながら頷いている。
ここで一度場が静まり返る。話題が尽きた感じだった。
「とにかくだ、明日は学生たちは村周りで鍛錬をさせ、明後日には我の見つけてきた魔物たちへの討伐へと向かう。この村に駐屯する騎士たちもそれに数名ずつ付き合わせてやってくれ」
あまりに静かなものだから、しびれを切らしたドラゴニルが予定を勝手に決めてしまう。
「この村への滞在は7日ほどだ。その間にきっちり学生どもを魔物との戦いに慣れさせる。ウルフやスライムばかりでは物足りんだろうからな」
腕組みをしながら話すドラゴニル。片目を開けると、ちらりとケイルを見ていた。
その視線に気が付いたケイルは、仕方がないなと言わんばかりにため息を吐きながら頭を掻いていた。
「……ドラゴニル様がそう仰るんでしたら、俺には拒否権はないですね。未来の騎士たちのためだ、一肌脱ぎますかね」
ドラゴニルが言えば、それはもう決定事項である。この状況にはケイルどころが、ドラゴニルをよく知るフリードとジークも諦めモードだった。
「はあ、ドラゴニルは一度言い出すと聞きませんからね。もうその方向で進むしかないでしょうね」
「まったくだな……」
頭が痛いと言わんばかりに額に手を当てているジークとフリードであった。
しかし、ドラゴニルがそもそも強引な上に対抗できる意見もないとあって、結局はこの方針で確定してしまった。ドラゴニルは満足そうにドヤ顔を見めていたが、周りは全員が頭が痛そうにげんなりしていた。
これにて大人たちの集まりは解散となったが、ドラゴニル以外は疲れ切った表情をしていたのだった。
この会議の終了をもって、ここから7日間の野外実習が始まる。
村の周りには常に魔物の気配が耐えないとはいえ、村の中は現状ゆっくり安心して眠れるほど平和である。
これもひとえにフェイダン公爵家の騎士団が日々奮闘しているからなのだ。
そのフェイダン公爵家の騎士団と一緒に行われる今回の野外実習。今回の野外実習ではアリスたちには一体どんな成長がみられるのだろうか。
そして、特に問題も起こる事なく、無事にこの7日間を過ごしきる事ができるのだろうか。
ドラゴニルも同席する悩ましい野外実習の第2ラウンドが、ここに始まったのであった。