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第142話 合宿の地、故郷

 翌日はいよいよ野外実習へと出発する。2回連続のフェイダン公爵関連の地という事で、少なからず文句を言う者は居たのだが、それは本当に少数だった。

 数日間を掛けて目的地である村に到着する。

 そこで俺たちが目にしたのは村というには不相応すぎる防壁を兼ね備えた、もはや要塞というのが正しいくらい場所だった。


(はあ? これが故郷の村か?!)


 思わず顔を歪めてしまう俺。

 だが、門をくぐって中に入れば、確かにそこは故郷の村だった。

 防壁だけがかなり立派になったものの、中の光景は駐屯用の兵舎が増えたくらいで昔のままだったのだ。これにはついつい胸を撫で下ろしてしまう。


(ああ、よかったぜ……。これでこそ俺の知る村の姿だぜ……)


 ついついほっとしてしまう俺。その姿を見たブレアが俺の顔を覗き込んでくる。俺を挟んで反対側に居るセリスとソニアも同じだ。


(そういえば、俺のお袋と同じ名前だな、ソニアは。親父が呼んだらきっと反応しそうだな)


「どうなさいましたの、アリスさん」


 ほっとした後に急に笑い始めたものだから、ブレアが困惑した表情で俺に声を掛けてきた。


「いえ、故郷に着いたので昔を思い出してしまっただけです。心配は要りませんよ」


「あれ、アリスさんってこちらの出身だったんですか?」


 俺がブレアに言葉を返すと、今度はセリスとソニアが反応していた。

 そういえばこの二人は知らなかったんだっけか。


「はい、私はそもそもはただの村人でした。それを突然お父様がやって来て、養女にしたんですよ。村のみんなが突然な事で驚いていましたね。もちろん私も」


 当時の事を思い出しながら、ちょっと思い出し笑いをしてしまう。だが、俺があまりににこやかに話しているものだから、セリスもソニアも呆気にとられたように黙り込んでしまった。そんなに意外な事だったのか。

 俺が不思議に思ってブレアを見ると、目を閉じてぶんぶんと首を横に振っているではないか。それを見て、俺もなんとなく悟ってしまった。

 ただの村人が公爵家の養子というのは普通はあり得ない事なのだろうと。


「ま、まあ、意外な形でしたけれど、みなさんを故郷に案内できて嬉しいですよ、私は」


 微妙な雰囲気になっているのを俺は必死に立て直そうとはするものの、結局その空気はまったく改善しなかったのだった。……なぜだ。


 村の中心に到着すると、ケイルたち村に駐屯するフェイダン公爵家の騎士団の面々が整列して俺たちを出迎えた。

 ケイルたちはきれいに整列して出迎えており、さすがは騎士団という雰囲気を醸し出している。脳筋フェイダン公爵家の騎士たちとは、とても思えないくらいだった。


「お待ちしておりました、騎士学園の学生諸君。我らは君たちを歓迎致します」


 声までしっかり揃っている。本当にフェイダンの騎士なのか疑いたくなるくらいの揃いっぷりに、俺は驚きの表情を崩せなかった。

 ちらりと横を見ると、ブレアも同じ感想を持っているようだ。まあ、この中でフェイダンの騎士がどういったものか知っているのは、俺とブレアだけだもんな。俺たち以外は、しっかりとした騎士たちの姿に感動しているようだった。


(やればできるんだな……。これが騎士ってやつなのか)


 冷静さを取り戻した俺は、目の前の騎士たちの行動に感心しきりだった。

 歓迎の挨拶が終われば、俺たちは兵舎へと案内される。ただ、環境はかなり過酷だ。

 兵舎はそれほど大きくないので、当然のように部屋が足りないために、一部屋に八人という大所帯になる。ものすごく狭い。広さ的には学園の寮の部屋より広いものの、一部屋に八人となれば、一人当たりのスペースは寮より狭くなった。

 寝床に関しても、寮のようにベッドはなく薄い毛布が一人当たり2枚あるだけだった。それでも、野営に比べれば断然ましだ。さすがにこれまで何度か経験している学生たちから苦情が出る事はなかった。なにせ、騎士たちだって同じ条件なのだから。

 部屋に落ち着こうとした俺だったが、ケイルに呼び出されてしまう。


「あら、アリスさんってばお呼び出しですの?」


「そうみたい。何なのでしょうかね」


 とりあえず事情は分からないが、俺は部屋を出てケイルの部屋へと向かった。


「アリス・フェイダンです。お呼びでしょうか」


「おお、よく来たな。入れ」


 ルイスとは違ってずいぶんと砕けた言い方をするのが特徴だ。

 入室許可が出たので、俺は部屋の中へと入っていく。


「久しぶりだな。どのくらい強くなったか楽しみだぞ」


「ええ、お父様を含めていろいろな方から鍛えて頂いております。慌てなくても、そのうちご覧に入れましょう」


「うーん、すっかりお嬢様って感じだな」


「何か問題ですか?」


「はっはっはっ。いや、別に問題じゃないな。立場上は公爵令嬢だものな」


 ケイルはさっきから笑ってばかりだ。何だろうか、気分が非常に悪い。


「まぁ、細かい事は置いておくとしよう。とりあえずは、お前に会いたいという人物を呼んでおいたから、少しゆっくりと話をするといい。どうせ今日の予定は休息だけだからな」


 ケイルがそう言うと同時に、俺の後ろの扉が開く音がした。

 その音に反応して振り返ると、視線の先には懐かしい顔ぶれが見えたのだった。

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