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第139話 魔物を滅する力

「アリスの持つ力は、我の先祖と礎となった、この国の当時の王女が持っていた能力だ」


「な、なんで……もがっ」


 ドラゴニルの衝撃的な言葉に、つい大声が出そうになった学園長。だが、すんでのところで自分で口を押さえていた。


「そ、それは真か?」


 落ち着いてから、手を離してドラゴニルに確認する学園長。すると、ドラゴニルは黙ったまま真剣な表情で頷いた。

 あまりにも衝撃的な事実だった。


「強大なドラゴンの力に対抗できる、数少ない力の持ち主、それが当時の王女だったというわけだな。我が一族が強大な力を持ち続け、なおかつそれを求め続けるのはその時の名残なのだろう」


「ふ、ふうむ……」


 ドラゴニルの話をすぐには飲み込んで信じられない学園長。

 無理もない話だ。かなり昔の話であり、夢物語とも思われているのだから。


「まぁ信じられんのも無理はない。だが、我が家には代々の家系図が残っておるからな、証明自体は簡単ぞ?」


 ドラゴニルが強く言えば、学園長はただただその話を無条件で信じるしかなかった。というのも、ドラゴニルは言いっぷりが豪快ではあるものの、嘘の類が嫌いだったからだ。なので、信じざるを得ないというわけである。


「……して、その王女の持っていた能力というのは一体何なのだ?」


 信じた上で学園長は疑問をぶつける。当時の王女の記述はほとんどが残っていないがために、その真実を知るものはほぼ皆無なのである。

 学園長の質問に、ドラゴニルはもったいぶるかのように少し間を置く。


「……魔物を滅する力(デモンズスレイヤー)、それが当時の王女が持っていた能力だ」


「なんと!?」


 能力の名前を聞いて驚く学園長である。どうやら、この能力に関しては認識があるようだ。


「まさか、その力が実在していようとは……」


 顎を抱えて考え込む学園長である。


「実在しておるのだよ、コーレイン侯爵。あの力は我すらをも倒せてしまうほどの可能性を秘めておる。実際に倒してしまった事があるしな」


「それは……どういう事だ?!」


「実はな、我の持つ力を使って時間軸を遡ったのだ。前の時間軸では我はアリス、当時は男だったアルスという青年によって、我は倒されておるのだ」


「なん……だと……?」


 衝撃的な事を告白されて、学園長は頭が真っ白になりそうになる。時間を遡るなど、神にも等しい能力だ。だからこそ、信じられずにいるというわけなのだ。

 ただでさえ、それ以外にも信じられない単語がいくつも出てきて驚いているのだから、まるで止めを刺された気分だった。


「我を倒せるほどの力を持ち、その力がこのフェイダン公爵家の起こりとなる王女と同じものなのだ。これほどまでに運命的なものはないであろう?」


「ま、まあ……、確かにそうではあるがな……」


 さすがの学園長も反応に困っている。衝撃的過ぎて放心状態にあるから仕方がないというものだ。


「なるほど、それでお前はあの娘を一度自分の養女に迎え入れたのか」


「そういう事だ。当時は他の選択肢が思い浮かばなかったのでな。今ならクロウラーのところでもよかったと思うぞ、あそこの娘であるブレアと仲が良いのでな」


 頭を抱える学園長とは対照的に、大口を開けて笑うドラゴニル。両者の空気が違い過ぎる。


「しかし、なにゆえそういう選択肢になったのだ?」


「遡る前は多くの貴族に裏切られたのでな、信用ならなかったというのが大きい。あの時はフェイダン公爵家が取り潰される事態にまでなるなど思ってもみなかったからな」


「そのような事があったのか……」


 ドラゴニルの話に同情するような言葉を呟く学園長だが、内心はやっぱりかと思っていた。そのくらいにはドラゴニルは強引で自分を押し通すのだ。ずいぶんと敵は多いのである。


「ともかくだ。我とアリスの出会いは衝撃的だった。お互いに死力を尽くして死にそうになっておったからな。お互いの願いを魔力に変えて時間遡行の魔法を発動したというわけよ。きっと、あやつと早く出会っておれば、前の我も取り潰されてみじめに死ぬ事もなかっただろうからな……」


 ドラゴニルは再び窓際へと歩き、空を見上げていた。


「我が相打ちになるなど、ここまで生きてきてもあの時だけだ。だからこそ、我はアリスに強くこだわるのだ」


 ドラゴニルは振り返って学園長に強く言う。その圧力は、さすがの学園長も腰が砕けそうになるくらい強力なものだった。


「我とアリスの婚姻は邪魔させぬ。邪魔をするというのならば、たとえ国を敵に回す事になってもいとわぬぞ?」


「分かった分かった、分かったからそう興奮するな。陛下たちの説得はこちらに任せておけばいい。性格に難はあるが、実績自体はあるから、意見を押し通す事はそう難しくあるまいて」


「うむ、任せたぞ、コーレイン侯爵」


 ドラゴニルはそう話を終わらせると、ゆっくりと学園長室を出て行った。

 ドラゴニルが出て行った後の学園長室では、学園長ががっつり疲れた様子で座っている。


「まったく、とんでもない事を聞かせてくれおって……」


 学園長は大きくため息を吐いている。


「それにしても、魔物を滅する力(デモンズスレイヤー)か……。その能力を聞くのは久しいものだ」


 顔を上げた学園長は、もの悲しそうに窓の外へと視線を向けたのだった。

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