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第135話 貴族もいろいろ

 またドラゴニルの暴走でめちゃくちゃになるかと思われたが、ルイスが出てきてドラゴニルに意見をしていた。それでもごねようとするドラゴニルだったが、ルイスが根気良く説得していた。


「ぐぬぬぬ……。まったく我が居ないと回らぬとはな! ルイス、ここは任せたぞ!」


「はっ、承知致しました!」


 ものすごく悔しそうな表情を浮かべながら、ドラゴニルはランドルフ邸の中へと戻っていく。

 その姿を見送ったルイスが、ほっと安心した表情をして胸をなでおろしていた。


「ドラゴニル様はどうなされたのですか?」


 思わぬ展開にブレアがルイスを問い質す。


「王都で騒がしい人が居ますので、その人の対応に向かって頂いたのですよ。アリスお嬢様の除爵に対して反発する勢力が根強く居ますからね」


「あー、なるほどな……」


 ルイスの説明で納得がいってしまうニールである。

 だが、俺はまったく理解ができないので首を傾げていた。


「どういう事なのですか?」


 俺はニールに質問する。


「権力の集中ってやつだよ。ドラゴニル様は公爵だ。貴族の中では王族の次に偉い身分になる。だというのに、養子とはいえ子どもが爵位を獲得したんだ。そりゃ、他の貴族どもが動くのも無理はないって話なんだよ」


 なんとなく分かったけども、やっぱり分からない。俺はブレアにも視線を送る。


「法衣貴族ならそれほど気にはなさらなかったでしょうけれど、アリスさんが送られたのはランドルフという領地持ちの名前ですものね。しかも、ドラゴニル様のフェイダン公爵家と隣接した土地ですわ」


「そう。ドラゴニル様の影響力がそれだけ強まったってわけだ。貴族どもが騒ぐのも無理はないってわけだ」


「な、なるほど……」


 ここまで説明されても、俺はなんとなくしか理解できなかった。俺はどうもこの辺の認識が薄いようだった。


「それはよく分かりますわね。わたくしのクロウラー伯爵領も、実質はドラゴニル様のフェイダン公爵領みたいなものですもの。このランドルフ子爵領改め男爵領も加えれば、小国規模の面積にはなりますものね。ましてやドラゴンの血を引く者が治めているのですから、戦力はけた違いですわ」


「ああ、下手をすると、国内での分裂戦争の危険性すらある。これを防ぐためには、ドラゴニル様が直に出て行かれて説得なさるしかないというわけだ」


 さすがは生まれながらの貴族は理解が違う。俺はその説明に間抜け面を晒して聞き入っていた。


「さすがはブレア様とニール様ですね。その通りでございます」


 手を叩きながらブレアとニールを褒めるルイス。


「フェイダン公爵家は王位継承権も有する正統な家柄です。ですので、王家転覆などを企んでいるのではないかなどの杞憂をでっち上げる貴族が多いのですよ。あのドラゴニル様にそんなお考えがあると思われますか?」


 ルイスが言い放つ言葉に、俺たちは無言で頷く事しかできなかった。

 何といってもあのドラゴニルだ。国家転覆なんて事を考えるような頭があるだろうか。それこそ、自分に対して剣を向けられない限りはそんな事はないだろう。

 周りが変な事をでっち上げた方が、よりその危険性が高まるというものだ。実に愚かしい行為であると思われる。

 特に今のドラゴニルは、俺絡みになればなるほど余計に熱くなる傾向がある。ここまでのドラゴニルの態度を直に見ていれば、俺へ手を出すのは悪手だと判断できるはずだ。つまりは、騒いでいる貴族たちはそういった事情を知らない連中なのだろう。


「とりあえずドラゴニル様を王都に向かわせましたので、この件はそのうち沈静化するでしょう」


 ルイスは手を叩いて話を終わらせる。


「というわけで、ここからは私と稽古を行います。さあ、剣を取って下さい」


 切り替えの早い奴だな。

 ルイスの言葉で俺たちは剣を構える。

 ルイス一人に対して俺たち三人が同時という稽古だ。俺たちの力も強まっているというのに、ルイスは実に余裕の表情だ。何かあるのだろうか。


「今日は地面がぬかるんでいますからね。経験の差というものを見せてあげましょう」


 なるほど、俺たちがこの地面に慣れていないと見てって事か。甘く見ないでくれよな。このくらいの地面なら、男の時に何度となく経験しているんだからな。

 そして、俺たちの稽古が始まった。

 結果は酷いものだった。ブレアとニールは地面に慣れていないせいで、足を取られてこけるなど散々なものだった。ここまでのぬかるは、経験する事がないからな。


「ほう、アリスお嬢様はやりますね」


「当たり前ですよ。これでも田舎の出身ですよ。このくらいの地面なら慣れています!」


 俺とルイスの打ち合いを、自爆でさっさと脱落したブレアとニールが眺めている。


「私たちも、慣れないといけませんわね」


「まったくだな……」


 全身を泥だらけにしながら、二人はずっと俺たちを眺めていた。


「はあはあ……、負けました……」


 最後は結局体力で負けてしまった。力はそれなりに発動させてたので、なかなかいいところまではいったんだがな……。これが女の体力ってやつか。


「いや、ここまで食い下がられるとは驚きでしたよ。お疲れ様でした」


 ルイスに褒められて、俺は疲れてはいるものの少し笑顔を浮かべた。


「では、屋敷に戻って泥を落として下さい。今日の訓練はこれで終わりです」


 ルイスはこう言って立ち去ったものの、悔しい俺たちはしばらくぬかるんだ地面で走り込みをしたのだった。

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