第129話 爆発する力
よりにもよってドラゴニルと戦う事になってしまった俺。ドラゴニルはルイス以上に隙が無い。それどころが、とても攻め込めるような雰囲気ではなかった。これが最上級のドラゴンの力の持ち主の圧力か……。
ひしひしと威圧感を感じる。とても動けるような雰囲気ではなかった。
「ふははははっ! どうした。我が怖いか?」
高らかに笑うドラゴニル。
「だ、誰が怖いものですか。少し……驚いただけです!」
どうにもドラゴニルの態度が気に入らない俺は、精一杯強がってみる。
しかし、それはあくまでも強がりでしかない。ドラゴニルを前に冷や汗しか出なくて困ったものだ。体が動かせる気がしないんだものな。
「ふん、その強がりがいつまでもつかな?」
ドラゴニルが剣を構える。
「さあ、お前の持つ力を解放せねば……、死ぬぞ?」
さっきまでとは打って変わって、ドラゴニルの目が鋭くなる。間違いなく本気だ。俺は思わずつばを飲み込んでしまう。
「いくぞ……」
「消え……た?」
一瞬で目の前からドラゴニルの姿が消える。
「くっ!」
だが、俺は気配を感じ取ってドラゴニルの剣をしっかりと受け止める。
……重い。手がものすごく痺れている。
(さすがドラゴニル。なんとか気がつけて対処できたが、遅れていたら真っ二つだったぜ……)
剣を弾いて距離を取ろうとするが、ドラゴニルはそれにしっかりとついて来る。速すぎんだろうが。
俺について来たドラゴニルは、剣を振り回しながら俺に迫ってくる。その剣を捌くのに精一杯の俺は、どんどんとドラゴニルに押し込まれていってしまう。
「さあさあ、どうした? お前の力はこの程度のものなのか、アリス。我を倒した時のように力を解放せねば、死ぬぞ?」
「ぐっ……!」
鬼気迫る表情のドラゴニル。服装の事もあってか、俺は本当に防戦一方だった。
(くそっ、力を解放するとはいっても、あの時は意識的じゃなかったから感覚が分からねえ。段階的に解放はしてきたが……、一体どうすりゃいいんだよ!)
ドン!
そう言っている間に、俺は壁際に追い込まれていた。ランドルフ邸の壁である。
(げっ、いつの間にこんなところまで!?)
思わぬ状況に追い込まれて、俺は思わず混乱してしまう。このままでは屋敷に被害がいくし、俺だってただじゃ済まないだろう。
……まったく、どうしたらいいんだろうか。
「ふははは、しょせんその程度か。あの時はまぐれだったというわけだな!」
ドラゴニルが迫ってくる。さすがにこうも馬鹿にされ続けると、女になってから気長になった俺だって限界を迎えてしまう。
「うるさいですね、お父様!」
ブチ切れた。
その瞬間、俺の体から何かが放出された気がした。
「ふふっ、そうこなくてはな」
突然の事に、ドラゴニルが動きを止める。
遠くで見ていたブレアとニールも目を丸くして驚いている。
「な、何なんですの、あれは……」
「分からん。だけど、俺の力を凌駕している事はよく分かる」
ニールの口が開いて戻らなくなっている。そのくらい、俺から放出された力というものが凄まじいのだ。
(な、なんだこの力は……。だけど、なんだか懐かしい感じがする)
思わず俺も戸惑ってしまう。そのくらいに思いがけないものだった。
「ようやく本格的に目覚めたか。そのオーラの強さ、我と相打ちになった時とほぼ同じのようだな。これならいい勝負ができるというもの!」
ドラゴニルが一気に俺に迫ってくる。それに対して、俺は素早く反応をする。
……体が軽い。
完全に反応が遅れたと思ったのに、きっちりとドラゴニルの剣を受け止めていた。これにはさすがに驚いてしまう。
「そうだ、この感覚だ、我が求めていたものは!」
ドラゴニルが更なるオーラを放つ。このままドラゴン化するのではないかと思えるくらいに凄まじいものだった。
「あー、困りましたね……。こうなったドラゴニル様は止められませんよ」
「ルイスさん、放っておかれるのですか?」
ルイスの言葉に、思わず尋ねてしまうブレアである。
「死にたくありませんからね。あの中に入っていって無事で済む人物など居ません。とっとと退避するか、このままここで見守るか、2つに1つですよ」
ブレアの質問に答えるルイス。もうすっかり諦めてしまっているのがよく分かる答えだった。
その言葉に、表情をぐっと引き締めるブレア。どうやらブレアの心の中は決まっているようだった。
「それでしたら、わたくしは最後までこの戦いを見守りますわ。アリスさんの友人として、ドラゴンの血を継ぐ者として」
「それだったら俺もだな。ドラゴニル様の後継を自称していたんだ。それなのにここで目を背けては、その資格を失うだろうからな」
二人の覚悟に、思わず大きなため息を吐いてしまうルイスである。
「はあ、分かりました。でしたら、ここを動かないで下さいね。私が精一杯守らさせて頂きますので」
ルイスはそう宣言すると、ドラゴニルと俺の戦いへと視線を移す。ドラゴンの力を持つ者ならだれでも感じられる異様な雰囲気が、そこには広がっていたのだった。