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第12話 命の危機、そして……

 俺を深く腰を落として、剣を握る手に力を込める。


「やああああっ!」


 そして、声を出しながら、襲い来るハイウルフの群れへと剣を一閃する。


「ギャイン!」


 飛び掛かってきたハイウルフたちが、剣の風圧だけで吹っ飛んでいく。身体強化だけではここまでハイウルフが吹き飛ぶ事は考えられない。俺はうまくもう一つ先の力を使いこなせているようだ。その力の正体はよくは分からないが、とにかく魔物を打ち倒してくれる特別な力には違いなかった。でなければ、いくら身体強化をしていたとはいえ、ハイウルフを何匹もなまくらの剣で薙ぎ払えるわけがないのだ。

 とはいえ、さすがはハイウルフといったところか。木の棒ごときで真っ二つになったウルフと違い、剣を使っているのに吹き飛ばされるだけで済んでいるんだからな。

 それに加え、俺の懸念はこれだけには留まらない。


「あ、ぐぅ……」


 小さいながらにも、俺の体に痛みが走ったのだ。


(くそう、やっぱりこの体じゃ、まだ耐え切れないか……)


 9歳の少女の体では、この大きすぎる力を扱い切れなかったのだ。ましてや10数匹ものハイウルフが相手となると、想像以上に体に負担が掛かってしまっているようだ。正直この状態だと、あと数回使えたらいい状況だと思う。そのくらいのダメージが俺の体に襲い掛かっているのだ。

 さっき俺が薙ぎ払ったハイウルフどもは、ダメージを受けてはいるもののまだ動ける状態だった。一方の俺の方はというと、戦力にならないお袋と自警団のおっさんを抱えた上で、俺自身にもダメージが発生しているという状況だ。はっきり言ってきつすぎる状態である事は間違いない。このまま決め手を欠けば、全員揃ってハイウルフの餌食になっちまう。俺の中に徐々に焦りの色が出始めてくる。

 だが、俺はここでは終われない。いや、終わるわけにはいかないのだ。やりたい事がある。護りたいものがある。俺はその想いを胸に、さらに剣を強く握りしめた。


 目の前の状況は実に絶望的すぎる状態が続いていた。俺たちを取り囲むハイウルフの数が1匹たりとも減っていないのだから。


「ガオォーンッ!」


 ハイウルフの第二陣が襲い掛かってくる。さっきからあまり間を置かずにである。

 こうなってくると、後先考えずにがむしゃらに剣を振るうしかない。俺は体に走るわずかな痛みを堪え、再び剣を構えた。


「ママたちは、私が守るんだから!」


 俺はそう叫んで、第二陣のハイウルフへと剣で薙ぎ払う。

 すると今度はどうだろうか。横薙ぎ一閃を食らったハイウルフたちが、断末魔すら上げられずに真っ二つにされてしまっていた。同時にズズーンという重い音が響き渡る。どうやら俺は、周辺の木々も巻き添えにしながらハイウルフを斬っちまったらしい。どれだけの威力なんだよ……。

 さすがにこれだけの威力の攻撃を出せば、ハイウルフの中にも怯える個体が出てきた。よし、牽制としてはものすごく効いている。事態が好転しそうになったので、俺の中に余裕が生まれた。

 だが、それもほんの一瞬の出来事に過ぎなかった。


「うっ、ぐ……」


「アリス? どうしたのよ、アリス!」


 俺の体に突如として大きな痛みが走り、俺を見たお袋が大声を上げている。急に力を使った事で、体にその代償のような現象が起きているようだ。さすがにこの体ではもう立っている事も厳しくなってきた。思わず俺は、剣を支えにしてその場に座り込んでしまった。

 この俺の様子を見たハイウルフどもが、怯えていた連中も含めて再び襲い掛かって来る。絶体絶命の大ピンチである。

 だが、その時だった。


「汚らしいウルフどもが! 我が領民には手出しはさせぬぞ!」


 どこからともなく男の声が聞こえてきた。そして、その次の瞬間、すべてのハイウルフが倒されてしまっていた。

 一体何が起きたのか、まったく分からない。俺も、お袋も、自警団のおっさんも、呆然とその場に座り込んでしまっていた。


「そなたたち、無事だったかな?」


 そう声を掛けてきた男は、20~30歳くらいの年だと思われる、きっちりとした服装の男性だった。顔が整い過ぎていて、つい見とれてしまうくらいのいい男である。


「は、はい。どうにか……無事、です……」


 俺は剣を支えにしたまま、男性の問い掛けに答えている。


「り、領主様……。こ、こんな所にまでおいでとは、い、一体どういう事ですか?!」


(は? 領主?)


 自警団のおっさんの言葉に、俺は思わず固まってしまう。目の前の男性は、俺たちの村を含めた地域を治める領主らしい。まだ若い気がするんだが?


「この辺りで魔物の目撃情報が増えていたからな、我自らが警戒にあたっていたのだ。そしたらば、ウルフどもの遠吠えが聞こえたので、こうやって駆けつけたというわけだ」


 なるほど、この領主と呼ばれる男性は、魔物の警戒にあたっていたというわけか。つまり、偶然俺たちと鉢合わせたってわけか。俺は必死に痛みを堪えながら状況を確認していた。


「しかし、こんなところで会うとは思ってもみなかったな。この娘がアリスか……」


 領主と呼ばれた男が、俺をじっくり見てくる。しかし、どういうわけか、俺にはその視線が不快には感じられなかった。むしろ、引き込まれるといった感じだった。


「この辺りにはまだ魔物がうろついている。これらの魔物の処理は我が兵に任せ、私自らがそなたらを村まで送り届けよう」


「そ、そんな、恐れ多すぎます……」


「気にするな。このような幼子も居るのだ。我が放っておけないのだから、ありがたく受け取っておけ」


 領主はこう言うと、解体にあたる兵士から馬を借り、俺とお袋を乗せて一路村へと向かっていったのだった。

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