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第127話 ドラゴンの血族の秘密

 ニールとルイスが睨み合っている。ドラゴンの力が場にあふれているせいで、空気が異常なまでにピリピリとしている。

 その空気の張りつめ方は、ブレアの時とはケタ違いだ。思わず足がすくみそうになってしまう。


「さあ、ニール様。いつでもいらして下さい。ドラゴニル様に鍛えられているのは私も同じ。子どもであるあなたに負けるつもりはありませんよ」


「はっ、さすがはドラゴニル様の騎士だな。では、全力で行かせてもらうぞ!」


 ニールとルイスの剣がぶつかり合う。その瞬間、衝撃波が一気に周囲に広がっていく。

 凄まじいまでの衝撃だ。俺のドレスの裾がばたばたと……って!

 次の瞬間、俺は必死にスカートを押さえていた。うっかり勉強の時の格好のまま来ちまってたようだった。なにせ公爵夫人の教育があったから、ずっとドレス姿だったんだよ。

 衝撃波が収まった時に後ろを振り返るが、誰も居なくてほっと安心したものだ。中はドロワーズとはいえ、見られるのは困りものだからな。


「すっかり忘れてましたわ。アリスさんってばドレスでしたわね」


 今さら思い出すブレアである。最初からこの格好だったんだけどな! 誰も突っ込まねえから、俺も忘れてたよ!


「しかし、剣をぶつけ合っただけでこの衝撃。わたくしなんてまだまだ足元にも及びませんわね……」


 ブレアの顔が青ざめていた。

 しかし、それは正直言って俺もだった。力が違い過ぎる。

 この力違いははっきり言って悔しすぎた。騎士になるためといって学園に通ってはいたが、あの環境はさすがにぬるすぎたというわけだな。

 騎士になるためには一応制限のようなものがあるから仕方がないが、それなら見習いでもフェイダン公爵家の騎士団に入っていればよかったと思う。そのくらいには、目の前の戦いが凄まじすぎた。


「何を焦っているんだ、アリス」


 急に声が聞こえてくる。

 後ろを振り向くと、そこに立っていたのはドラゴニルだった。


「ドラゴニル様、どうしてこちらに?」


 ブレアが驚いてつい尋ねてしまう。


「我が未来の伴侶が訓練を受けるというのだ。心配になって当然だろう?」


「あら、お父様にもそういう感情がございますのね」


 ドラゴニルが意外な言葉を口にしたものだから、ついつい俺はケンカ腰に言葉を返してしまった。


「ドラゴンの血を引き継ぐとはいっても、我とて人の子よ。それにだ。ドラゴンの血を継ぎし者たちがちょうどここに揃っておるからな、我の後継として相応しいかを見に来たのだ」


「暇人なんですね」


「どうとでもいえ。それより、あの二人の戦いを見てどうだ?」


 ドラゴニルは気を取り直して、ニールとルイスの戦いに俺たちを注目させる。

 さっきから激しい金属音が響き渡っている。ルイスは騎士団の中でもかなりの実力者だ。そのルイスを相手に一歩も引けを取らない感じで応戦するニール。明らかに戦いのレベルが高すぎる。


「学園で頑張ってきたお前たちからすれば、それは次元が違うと感じるだろうな。二人とも我が直接鍛えてやったのだからな」


「私たちもお父様には手ほどきを受けましたが、どうしてここまで差が……」


 ドラゴニルの言葉に、疑問を投げかける俺。すると、ドラゴニルはそれにすんなりと答えを返してきた。


「一つとしては年齢だな。能力が目覚め始めるのは12~14歳といわれている。12歳の時はこちらに居たが、影響はたかが知れていたという事だろう」


 なるほど、能力の覚醒時期に受けた刺激が少ないというわけか。それはどことなく納得のいく理由だ。だが、『一つ』という言い回しが気になる。


「もう一つは性別だな。ドラゴンの力は女性では目覚めにくい。まったく目覚めないというわけではないが、過去の事例からしてもそういう傾向がある。おそらくは我が一族の始祖がドラゴンと王女だった事が原因だろうな」


 なるほど……。一族の始まりにおいて女性の方が人間だったから、女性だとドラゴンの力に目覚めにくいというわけなのか。……でも、俺には関係ない話だよな?

 ドラゴニルの話を聞いているうちに、どうやらニールとルイスの戦いの決着がついたようだ。


「ぐっ!」


 ニールは剣を弾き飛ばされてしまったようだった。


「いやあ、さすがにドラゴニル様から直接指導されただけありますね。ですが、まだまだ甘いです。経験が足りない分、動きが素直すぎますよ」


「くそう……。まだまだか……」


 痺れる手を押さえながら、ニールは本気で悔しがっている。


「力は十分ございます。後は経験を積めば、私くらいなら簡単に越えられますよ」


「本当だろうな」


「ええ、保証します」


 ニールの睨むような視線に、ルイスはまったく動じないでいい笑顔を返していた。

 そのルイスは、ニールとの戦いの余韻に浸る事もなくこちらを見てくる。


「さて、最後はアリスお嬢様です。準備はよろしいでしょうか?」


 おい、ルイス。その笑顔はさすがに怖えぞ。

 さっきのニールとの戦いはすさまじかったし、俺の格好の事もあるので、ついちらりとドラゴニルを見てしまう俺。だが、


「がはははっ、何を怖気づいている。お前は我が伴侶に選んだ相手ぞ。ルイスごとき、簡単に捻ってやれ」


 俺の背中を叩きながらとんでもない事を言ってのけていた。


「お前の力もまだまだ眠っている部分が多い。それが目覚めれば、我も正直言って勝てる気がせんのだ」


「えっ?」


「とにかくさっさと行ってこい」


「わわっ!」


 ドラゴニルはごまかすようにして俺の背中を勢いよく強く叩いていた。痛えってばよ……。

 叩かれた勢いで俺はルイスの前まで出てきてしまった。こうなったらやるっきゃねえな。

 覚悟を決めた俺は、ドレス姿のまま剣をしっかりと構えたのだった。

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