第126話 再会の騎士
俺は一人だけランドルフ邸に閉じ込められ、朝は勉強、昼は訓練というスケジュールを組まれていた。
とはいえ、昼にはブレアたちと合流できると聞いたので、朝の勉強タイムはなんとか乗り切れそうだった。
ただ、その昼の訓練の講師にあんぐりとしたものだ。
「お久しぶりですな、アリスお嬢様」
なんとフェイダン公爵家の騎士団のルイスが立っているではないか。
「る、ルイス?」
俺が困惑顔で指を差しながら反応すると、ルイスはにこにこと笑っていた。
「今回はわたくしめがアリスお嬢様とブレア様の相手を致します。これでもフェイダン公爵家では強い方ですからね。お二人の相手にとって不足はないと思いますよ」
ルイスはこう言っているが、どうも少し信用ができない感じだ。
「アリスお嬢様たちもご存じではないと思いますけれど、フェイダン公爵家の中にいる人物たちは、多くがフェイダン公爵家の傍流の血筋でございます。私もドラゴンの力を使おうと思えば使えますから、そう簡単に勝てると思わない事ですね」
「まあ、そうなんですの?!」
俺は無言で驚いた顔をしていたが、ブレアはついつい声に出してしまっていた。クロウラー伯爵家でも知らなかった事なのか。
「類は友を呼ぶというやつですね。ドラゴンの一族は散り散りにはなりましたが、結局はこうやって大本であるフェイダン公爵家に集まってしまうのですよ」
思わず感動のため息を漏らす俺とブレアである。そこへ、ニールがやって来た。
「俺もここでいいのかな?」
「はい、ドラゴニル様から仰せつかっております。これでもドラゴンの血族の一員でございますから、甘く見ないで下さい」
「それは楽しみだな」
礼儀正しく騎士として振る舞うルイスに、両手を腰に当てて自信たっぷりに話しているニール。実に対照的な姿である。
「あのドラゴニル様に鍛えられたその実力、しかと確かめてさし上げましょう」
そのニールに対して不敵な笑みを浮かべるルイス。これにはちょっとカチンときたニールである。
しかし、相手はフェイダン公爵家の正式な騎士だ。いざこざを起こすのは得策ではないと、ニールはぐっと我慢したようだった。意外とそういうところはしっかりしているようだった。
ルイスは部下に訓練用の剣を持ってこさせる。刃を潰した金属製の剣だ。ドラゴンの力を本気で扱えば、木剣など蒸発して消えてしまうのだから、これは当然だろう。実際、俺たちの訓練で何本の木剣が犠牲になったのやら……。
「学園からはお話を伺っております。アリスお嬢様方が訓練をされると、木剣が何本あっても足りないと」
ルイスからそう言われて、俺たちはついつい苦笑いをしてしまう。
「今回ご用致しましたのが、フェイダン公爵家の騎士団公認の模擬剣です。それなりにドラゴンの力を解放しても簡単に壊れる事はありませんよ。その代わり、どんなに力を込めても相手を斬る事はできませんけれどね」
なんとも不思議な剣らしい。しかし、あのドラゴニルが関わっているだろうから、多少不可解な点があっても不思議と納得できてしまう。そもそも、ドラゴニルという存在が理不尽なのだ。
「そうですね……。今回は初めてですし、みなさんの今の実力を確認したいと思います。一人ずつ、本気で来て下さい」
剣を構えたルイスは、俺たちに向かってそう話し掛けてきた。
俺とブレアと会うのは実に1年半ぶりだ。だからこそ、成長ぶりを確認したいのだろう。
ルイスの言葉に最初に反応したのはブレアだった。
「それでしたら、わたくしからお願い致しますわ」
「ブレア様ですか。よろしいでしょう、さあ構えて下さい」
俺とニールは後ろに下がり、ブレアがルイスと向かい合う。
まだ戦いが始まってもいないというのに、ブレアとルイスの間には凄まじいまでの気迫のぶつかり合いが展開している。
剣を握りしめ、気合いを入れていくブレア。ドラゴンの力を徐々に解放しているのである。一方のルイスは構えたままほぼ棒立ちである。何かをしているという様子はない。
「さあ、いつでもいらして下さい。不意にも対応するのが騎士というものですから」
かなり余裕のある態度のルイスだ。ルイスの言葉に応えるように、次の瞬間、ブレアは一気に飛び込んでいった。
ブレアはドラゴンの力をかなり解放しているというのに、ルイスはその攻撃を軽く凌いでいる。
「すごい……。1年半は見ていませんでしたが、ルイスさんもかなり実力を上げていますね」
「ドラゴニル様の騎士を務めるんだ。これくらいできて当たり前だろう」
驚きと感心を漏らす俺に対して、実に偉そうに喋るニール。そういえば、ドラゴニルにこっぴどく鍛えられたんだったな。だから、こんな風に言えるんだろうな。
そうやって見ているうちに、ブレアはルイスによって剣を弾かれてしまっていた。
「くっ……」
「勝負あり、ですね」
「参りましたわ……」
結果はブレアの惨敗だった。明らかに攻めていたのはブレアだというのに、ルイスの方はそれを的確にあしらい、効果的に反撃を入れていっていたのだ。
これが騎士というものなのか……。俺は改めて意識をする事となった。
「さあ、次はアリスお嬢様ですかね。それともニール様ですか? 私はどちらでもいいのですがね」
「だったら俺が行こう。やる気が出て、気持ちが抑えられねえからな」
「承知致しました。では、ニール様、……かかってきて下さい」
その瞬間、ルイスの雰囲気が変わったのが分かった。
この飲まれそうな空気……。一体これからどんな戦いが繰り広げられるというのだろうか。