第124話 あいつが戻ってきた
2年目の野外活動の時期が近付いてきた。
そんな時だった。知った顔が学園に戻ってきたのだった。
その姿を見た学生たちは、騒めきながらもその姿を凝視して一歩も動けなくなっていた。
「久しぶりに戻ってきたが、なんだか小さく感じるな」
実に堂々とした姿で校門に立つニールである。
ドラゴニルに相当鍛えられたのか、その風貌は以前とは明らかに違った感じになっていた。
そのニールは、近くの学生に近付いていく。
「おい」
「は、はい!」
声を掛けられた学生が震え上がる。
「アリス・フェイダンとブレア・クロウラーはどこだ?」
「そ、その二人でしたら、今の時間なら訓練場に居ると思います。お、お助けを……」
ニールに質問された学生は震えながら答えるが、まさかの命乞いみたいな言葉を漏らしていた。そのくらいに今のニールは強烈なオーラを放っているのである。
「分かった、訓練場だな」
すっと学生から離れて訓練場へと向かうニール。質問された学生は、力が抜けたようにそのまま膝から崩れ落ちたのだった。
ニールが訓練場へとやって来た。
そこでは俺とブレアがいつものようにセリス、ソニアの同室二人と、ピエル、マクスの取り巻き二人を相手に訓練を行っていた。
その最中、突如として身の毛もよだつような気配を感じて、俺とブレアはつい体を震わせてしまう。
打ち合いの最中では大きな隙になるのだが、俺たちはそこを狙ってきた四人を容赦なく返り討ちにしていた。
「この気配、ニールさんですわね」
「ええ、そうみたいですね」
俺たちは訓練場の入口を見る。そこには間違いなくニールが立っていた。
だが、容姿はそのままだというのに、ずいぶんと雰囲気が以前とは変わってしまっていた。
俺たちを見つけたニールが、ゆっくりと近付いてくる。その威圧感といったらかなり半端ないものだった。ドラゴニルの奴、どんだけ鍛えやがったんだよ。
「久しぶりだな、アリス・フェイダン、ブレア・クロウラー」
挨拶をしてきただけでも、強めのオーラが襲い掛かってくる。思わず身構えてしまうくらいだった。
「ニールさん、ずいぶんと鍛え直しましたわね」
わずかに冷や汗を流しながら、ブレアがニールに声を掛ける。その言葉に、ニールはにやりと笑っていた。
「俺はドラゴニル様にこの数か月みっちりしごかれたのだ。お前たち相手でも簡単には負けはしないぞ」
ずいぶんと自信たっぷりに言い放つニール。少しカチンと来たのか、ブレアがニールに突っ掛かっていく。
「そこまで仰るのでしたら、ここで一戦交えませんこと? どこまで強くなったのか、この目で確かめてさし上げますわ」
「いいだろう。やってやろうじゃないか」
「はあ、本当に戦う事しかしないんですね。みなさん、危ないですから下がりましょう」
呆れてものが言えなくなってくる。人の事は言えないが、ドラゴンってどうしてこういう連中ばっかりなんだよ。
ともかくかなり危険な予感しかしないので、セリスたちを壁際まで避難させる。俺とブレアの打ち合いでもかなり危険なんだ。あのニール相手じゃもっとひどい被害が出そうだぜ。
「アリス・フェイダン。合図をしてもらってもいいか?」
俺の持っていた木剣をニールに渡すと、そんな事を言い返された。他に誰が居るわけでもないので、俺は仕方なくそれを引き受けた。
ブレアとニールがある程度離れたのを確認すると、俺は開始の合図を送る。
「やああっ!」
ところが、動いたのはブレアだけだった。ニールの方はまったく動かない。これにはブレアが頭に来ているようだ。
「やる気がないのですか? かなり舐めていますわね」
ニールはまったく動いていない。そこへブレアが段々と近付いていく。
次の瞬間だった。
何か閃光が走ったような感じがした。
「くっ……」
ブレアの声だけが響き渡る。
それからしばらくして、何かが地面に落ちる音が響き渡った。
ブレアの持っていた木剣が、柄の部分を残して無くなっていた。セリスたちが音のした方へと近付いていくと、そこには木剣の無くなっていた部分が転がっていた。
そう、あの一瞬のうちに、ニールは木剣を真っ二つにしていたのである。
たった一振りで木剣を真っ二つにしてしまうとは、恐ろしいまでの剣速だったと思われる。ドラゴニル、いくら何でもやりすぎだろうが……。
「武器がもたないのでは、勝負以前の問題ですわね」
「ふっ、それだけお前のオーラが弱いという事だ。たとえ木剣でもドラゴンの鱗くらい裂けるようにならねば、お前は半人前以下というわけだ」
「なんですって?」
ブレアとニールの間で険悪な雰囲気が漂い始める。こいつらドラゴンの血筋だからか、妙に張り合いやがるんだよな……。
「まあまあ、とりあえずニールさんが無事に戻ってきた事を歓迎しましょう。お父様ったら全然遠慮がなかったでしょう?」
俺はブレアの気を逸らすためにわざと話題を変える。すると、ニールの奴は思い出したのか苦笑いをしていた。
「ああ、まったくだ。遠慮がなさすぎて、こんな感じになっちまった。それでも勝てないんだから、ドラゴニル様というのは偉大な存在だよ」
「そうですか……」
やっぱりなという状況で、俺は本当に呆れ返るしかなかった。
とりあえずニールが戻ってきた事で、俺たちの雰囲気は少し戻ったような気がしたのだった。