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第122話 向上心なら負けないぜ

 俺とニールの真剣勝負からしばらく、実に俺の周りは静かだった。

 なにせニールが姿を見せないからだ。気が付くと視線を向けてきていただけに、それがぱったりと止むとどこか寂しく思えた。


「ニールさんならドラゴニル様に連れて行かれたようですわよ」


「はい?」


 数日経った日、ブレアから思わぬ話を聞かされる。

 なんでも、俺とニールの戦いを見ていたドラゴニルが興味を持ったらしい。それで、ニールを学園から連れ去って鍛えているらしいのだ。何やってんだよ、あのドラゴンは……。

 話を聞いた俺は、思い切り頭を抱えてしまった。ドラゴンの一族ってのは本当にめちゃくちゃだな。


「これは、当分帰って来なさそうですね」


「ええ、わたくしもそう思いますわ」


 俺たちは揃って大きくため息を吐いた。

 居ないなら居ないで平和なんだけど、ニールとの打ち合いは楽しかったから寂しくもある。複雑な気持ちを胸に、俺は学園の授業と向かい合う事になったのだった。


 そういえば、ピエルとマクスもかなり腕を上げてきた。ブレアが普段相手にしているセリスとソニアの方もそうだ。まだまだ俺たちには遠く及ばないものの、1対2での戦いならそこそこ善戦できるようになっていた。俺たちが鈍っているというわけじゃない。彼らの成長速度の方が速いってわけだ。

 なぜそうなるか。

 単純な話、この学園には俺とブレアより強いのが教師たちしか居ないからだ。教師たちは俺たちの相手をしてくれない。となると、当然ながら俺とブレアの伸びが鈍くなってしまう。その分、俺たちは格下を相手にする事になるので、みんなの方が伸びるというわけだ。

 うん、これははっきり言ってどうしようもない。だからこそ、俺たちも少しでも伸びを期待して、こうやって複数を一斉に相手にしているわけなのだ。


(うーん。このままじゃ俺たちが思ったように伸びないな。今度フリードかジークに戦いを挑んでみるか)


 俺はこのままでは伸びが期待できないとして、思い切った事に出てみる事にしたのだった。


 次の合同講義の時だ。


「フリード教官、ジーク教官、ちょっとよろしいでしょうか」


「なんですか、アリス・フェイダン」


 俺が話し掛けると、露骨に嫌な顔をするフリード。これは間違いなく察していそうな感じだ。


「断る」


「いいぜ、勝負しようじゃねえか」


 対照的な反応をするフリードとジーク。フリードはジークを睨んでいた。


「いいじゃねえかよ。学生の面倒見てるだけってのもつまらねえ。たまには体を動かさないとなまるってもんだ。アリス・フェイダン、お前ひとりか?」


 ジークはものすごく乗り気である。


「ブレアさん、どうしますか?」


「えっ、わたくし?!」


 急に話を振られて戸惑うブレアである。しかし、その時向けた俺の表情を見て、理由を察したのかこくりと頷いた。


「分かりましたわ。わたくしたちも騎士を目指す者。いつまでも教官たちの後塵を拝してばかりもいられません、胸をお借りしますわ」


 ブレアはしっかりとやる気になっていた。

 それを見たジークが笑っている。


「面白い。二人揃って俺が相手をしてやろう。いつもっていうわけにはいかないが、お前たちだって強くなりたいものな」


「汲んで頂き、ありがとうございます」


 ジークの言葉に、俺は素直に礼を言っておく。


「ってわけだ、さっさとかかってこいや!」


 気が早えよ。こいつも相当普段からうっ憤溜めてやがったんだがな。それに、どこからその木剣を出したんだ。

 よく見ると、ジークは木剣を構えて立っていた。速すぎてどこから木剣が出てきたのか見逃しちまったぞ。


「自分から言い出した以上、やるしかありませんね。ブレアさん、準備できてますか?」


「できてますわよ。いつでもいいですわ」


「よし、かかって来いや。お前らもよーく目を開いて見ておきな。これが騎士の戦いってもんよ!」


 余裕たっぷりのジークに対して、俺とブレアが揃って攻撃を仕掛ける。以前は簡単にあしらわれたが、俺たちだって成長しているんだ。

 ところが、ジークの方はまったくもって様子が変わらない。平然と俺たちの動きを見ているようだ。


「甘えなぁ。二手に分かれて俺の混乱を誘おうって魂胆だろうが、考えが分かってたら簡単に対処できるものなんだよ!」


 俺たちの攻撃を、木剣と左腕でいとも簡単に防いでしまうジーク。これには戦いを見ている学生たちから歓声が上がり、フリードは顔を押さえていた。


「お前らの持つ力は確かに強力だ。だが、まだ経験というものは俺に及んでいないようだな!」


 弾かれてからすぐに仕掛けた二撃めも、ジークは完全に読み切って対処していた。

 ……まったくなんて奴だ。

 あれから1年以上経つというのに、現役の騎士との間には、まだここまでの力の差があるというのかよ。

 はっきりいって、俺たちはこの現状が信じられなかった。騎士というものは、それほどまでに高みに居る存在なのだと思い知らされたのだ。

 とはいえ、さすがに二人掛かりでの攻撃なので、ジークを何度か焦らせる事はできた。しかし、思うように崩す事はできず、今回も俺たちの完敗で幕を閉じたのだった。

 くそう、上には上が居るもんだな。

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