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SHADOW -Wizard girl-  作者: 柳生 音松
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第七話 放たれる炎

 廊下を歩いていると、パキパキッとガラスを踏んだ感触を感じた。その音は廊下に響き、夕紀は鳥肌を立てた。


ーー嘘でしょ、普通電気落ちる?


 天井の蛍光灯が落ちて割れていて、それを踏んだようだ。


  廊下の壁には所々、スプレーペンキで描かれた落書きがあった。閉院後にも人の出入りが会った証だ。不良たちだろう。


 受付や会計をする広いフロアに出ると、ビニール性の長椅子等がそのまま置いてあり、本当にここがかつては病院だったことを感じた。


 辺りを炎で照らすと、壁も天井も劣化して、床や椅子は埃で汚くボロボロで、相当に不気味な雰囲気があった。


ーー五年で、こうも劣化するの?


 受付カウンターの横に“施設案内”があるのが目に入り、夕紀は側によって確認をした。


「…地下もあるのね」


 より闇に包まれる窓のないところには行きたいと思わなかった。


 地下は会議室、警備室、霊安室などがあるようだ。かなり広い。


 その広い場所をどう探すか。ただ一つ、一番避けたい“入れ違い”に関してだけは、まずないであろうことは、ある意味安心材料だった。


 こんな場所で助けに来たつもりが、一人残されるのはさすがに御免だと夕紀は思った。


 しかしこの敷地、特に建物に関しては何らかの理由で、濃い呪いがかかっていることは、夕紀が専門家でなくても十分理解出来た。


 心の弱い者、好奇心の強い者など、引き摺り込まれることはあっても、外に出られることは、恐らくないだろう。


 だが、それだけ危険な場所ということだ。


 夕紀は、地下室に行くのに躊躇があったが、しらみ潰しに探すことを決意した。


 地下に通ずる階段を下りて行く。窓もなく、電気も止まっていて非常灯もない。炎の灯りがなければ、指先も見えない暗闇と化している。


 子供たちが入った時間がまだ日中だったのだろうが、地下は変わらず暗闇だったろう。肝試しなら、むしろその方が好奇心を駆り立てるのだろうか?と考える夕紀。


 爪先に何かが当たった。階段を二、三段、転がり落ちる音がする。


 夕紀は屈んで見ると、それは懐中電灯だった。


「…これは」


 右手の炎を消し、それを手にする。綺麗だ。もともとここに転がっていた物ではない。四人の子供たちの内の誰かの物だろう。


 スイッチは、ONのままだ。単純な電池切れなのか…。


 夕紀は、懐中電灯を階段の端に置き、地下の廊下まで下りて行った。


 最後の一段を下り、廊下の床に足をつけると、物凄い悪寒感じた。悪寒というより、本当に寒い。


 使われていない地下だからというには不自然な寒さだ。


ーー何か感じる…


 夕紀は警戒した。


 階段のある場所から廊下の左奥を目指して歩くと、何かがぼやっと目に入る。


 人影だ。


 背丈から少年のシルエットだと判る。


 廊下の真ん中で、夕紀に対して後ろ向きで突っ立っている。


 炎を照らすと、何となくだが、日中に見た脩の友達の中で同じ柄のシャツを着ていた男の子がいたような気はした。


 だが、夕紀は歩み寄る足を止めた。


 こちらを向かないのだ。


 夕紀は両手足から炎を発している。明るい灯火や、メラメラと炎から出る音に気づかないはずはない。


「…君、そこで何してるの?」


 足を止めたその場所で、声をかける夕紀。だが、反応はない。


 夕紀は訝しげな顔をしながら、仕方なく、少年に近づき肩を叩いた。


 すると、少年はそのまま手を付くでもなく、前にそのまま倒れた。


「……っ!」


 それを見て、夕紀は驚いた。


 ドサッ…ではなく、ドチャっという音がしたのだ。床に倒れた少年は、前半分がなかった。


 裏社会で人死には見ている。六堂たちと会った際にも惨殺遺体の写真見せられた平気だったが、これは夕紀も思わず口元を抑えた。


 頭からギロチンのような大きな刃物で横に真っ二つ…、スライスしたかのように前がないのだ。


 床に打ちつけた顔のない頭部からは、血が飛び散った。


ーーダメだ…これは本当にダメだ。


 凄惨な少年の遺体を見た夕紀は、ここに長く留まってはいけないと判断し、息を深く、深く吸った。






「しゅーーーうっ!夕ねえちゃんだよ!返事しなさーーーい!」






 思い切り叫んだ。


 声が地下に響き渡ると、再び無音となる地下廊下。


 だが、少しして、何かの音が聞こえてきた。


 その音と共に、黒い人影が廊下の奥から複数現れた。夕紀は、炎を強くし、廊下を明るくした。


 人影は裸のようにも見えるが明るくしてさえ尚黒く、目は穴が空いたようになっていた。


 夕紀が声を出さず静かに脩達を探していたのは、こういうことだ。


 霊的なものや、呪いの類は、声にも反応する。声には力があり、それらに感知されることがある。


 夕紀は、体中から炎を発し、複数の人影に向かいそれを放った。


 燃え上がる炎は、闇に包まれた廊下を赤と橙色に染めた。


 複数の人影は、声とも音とも言えない不気味な悲鳴を上げ、次々と姿を消していく。


「こんなの気休めでしょうけど…」



 夕紀は、再度、脩の名を叫んだ。


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