表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SHADOW -Wizard girl-  作者: 柳生 音松
7/38

第六話 危険な場所

 中島病院。


 昔から“死亡者が多い”という噂はあった。


 入院中の患者が行方不明になるという話も。


 だが噂だ。事実であるという根拠はない。


 しかしそんな噂が、まるで真実だったんじゃないかと思わされたのが、閉院だった。その理由が院長兼理事長、中島 亨の自殺だ。


 その後に判ったことだが、看護婦、助手、患者にも自殺をした者が数名いたのだと、あとから警察の捜査で判明している。病院側は、自殺者の多さに変な噂が広まらないよう、心不全や、事故死と隠蔽していたのだ。


 中島 亨の自殺後、妻と娘も、自宅で合わせたかのように発作で亡くなっていた。


 話はそこだけに留まらず、閉院後に屯していた不良やホームレスの変死体も出てきていた。


  ダンさんが、ホームレスも近づかないと言ってた理由はそこにあった。


 それだけのことがあれば、事業者など建物は借り手も付くわけもななった。新しい病院経営が出来るよう都が中島家から買い取り、経営には補助金も出すという条件も提示したが、今も尚廃墟のままだ。


 変死体も出たことから、都は柵を設置し、人が侵入できないようにしていた。


 だから子供らが入るわけはないと、夕紀は自分に言い聞かせていたが…


「マジか…」


 嫌な予感は当たった。


 通りに面した場所は、柵がしっかり設置して入れないようになっていたが、裏路地を回って建物と建物の隙間を抜けると、そこに四台の自転車があった。


 敷地の裏手の金網は、どうしたのか破れて穴が空いていた。


 夕紀は、掌に僅かな炎を灯した。破れた金網の劣化具合から、当然子供らが空けたものではないのは判るが、閉院後に屯してた不良連中が壊したのか…。


「ここを彼らの誰かが見つけた…ってわけか」


 子供の冒険心とは、時々大人の予想を上回ることがある。そのまま子供たちの思い出の冒険で終わることもあれば、事故に繋がることも少なくない。


 小柄な夕紀でも、この穴を通ると、切れた針金に制服を引っかけそうだったが、仕方なく、手と膝を着いて敷地の中へと入った。


「…空気が重い。出来れば、不安がハズれて欲しかったな」


 夕紀は膝と手の汚れを払いながら、そう言った。


 “空気が重い”とは、不気味な雰囲気に飲まれて言ったことではない。


 夕紀は魔導士。魔術を使う者。魔術はこの世の物理法則とは異なる力であり、それに近い性質の、霊的、呪い等も感じることができる。


 この建物からは、そう言った中でもあまりよくない強い“負”の念を、通りか、常に感じていた。


 そういったものに対する、専門の術を使う僧侶や坊さん等はいて、魔導士は少しそれらとは異なるので、もし“何か”が現れたとして、100%の対応は出来ない。


 それを思うと、夕紀は少し怖さを感じた。


 夕紀は、手のひらの炎を少し大きくし、建物の周囲を歩いて回ることにした。


 建物の外にいてくれればいいが、きっと中に入ったのだろう。脩の友達か誰か、ここに入れると既に事前に調べていたのかもしれない。それが子供らの中で噂になっていたか。


「ここか…」


 建物を一周することなく、それらしい侵入口は見つかった。職員専用の出入り口だ。


 扉は鍵が掛かっているが、足元のガラスは割れている。


「……?」


 夕方は炎で足元を照らした。


 これも金網と同じ人物が破壊したものかと思ったが、どうもおかしい。


 破片は建物の中ではなく、外側に散っている。


「他に侵入口が…?」


 中から破壊して出た者がいるのか?そう思ったが…


 突然、割れた中から誰かが自分の“腕を掴もうとする”ような感覚を覚えた夕紀。


ーー…わ!


 驚き思わず腕を引っ込めた。


 普通の人なら解らないであろう感覚。夕紀は血の気が引くのを感じた。


 たまに通りを歩くと、この建物から感じてるものは確かにあった。だが、初めて敷地に入って理解した。



 ここはヤバい。原因は判らないが、相当危険だ。



 夕紀は、高鳴る鼓動を落ち着かせようと、静かに、深く深呼吸をした。


 そして屈んで、割れた扉の下部から中へと入った。


「……」


 暗い。


 もちろん日が沈み、暗い時間なのだが、それ以上に暗い。何かしらの強い負の念が生み出してる闇の現象だ。


 懐中電灯の灯りでは、飲み込まれそうな。


 そして、何かが聞こえる。


 小さな、しかし無数の声のような…。息で喋る囁き声のようなものが、幾つも重なるように耳に入ってくる。


 夕紀は恐怖を感じていた。これなら殺し屋を相手に戦う方が楽だと思った。


 掌の炎を握りつぶすように消すと、夕紀は身体のあちこちから、炎を発した。


 魔術を子供たち見られるかもしれないが、そう言っていられる状況ではない。子供らの命に関わる状況だ。


 一瞬、炎は天井に届きそうなほど大きく発したが、すぐに小さくなり、両手、両足からメラメラ炎が出ている状態になった。


 すると、小さな無数の囁き声は聞こえなくなり、炎の灯りとは別に、廊下の闇が少し明るくなった。


 夕紀の放つ炎は、力そのものは自然界と変わらない。だがこれは魔術を秘めている。霊的なもの、呪いといったもの対しても効果はあった。


 無論、夕紀も知識としてそれを知ったやったことだった。


 「…ここを一つ一つ探すのは、ちょっと骨が折れるわね」


 不安気な顔で苦笑する夕紀は、廊下の奥へと歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ