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SHADOW -Wizard girl-  作者: 柳生 音松
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第五話 少年


 “ゴールドスターズホテルの件”は、もう三人で解決したのだろうか?


 そんなことを考えながら、学校からの帰り道を歩いてる夕紀。


 チームの誘い話が出てから二日が過ぎていた。


 今日は土曜、授業は午前で終わり、昼時の今、少しお腹が空いていた。


 どこかに寄り道でもして、お昼でも食べようか、そんなことを悩んでいたが、結局自宅のある近くまで来てしまった。


 あとちょっとで帰宅、というところで、前から小学生の男の子たちが自転車で向かっているのが目に入った。


 その内の一人は、知った顔だ。


「お!ゆうねーちゃん!」


 母子家庭の子で、幼少の頃から知ってるしゅう、小学四年生だ。


 保育所のない日曜祝日など、母親の仕事でどうしても子供を見れない時に、人の良い祖父がたまにならと、預かっていたことがあった。


 夕紀は、その時に脩の面倒を見て一緒に遊んでいたという過去があった。


「お、皆でどっか行くの?」


「うん!ちょっと“肝試し”に」


ーー肝試し?


 夕紀が子供たちの自転車の籠に目をやると、懐中電灯ライトが入ってた。


「…そう。気をつけてね」


 脩はとても元気な笑顔で自転車を漕ぎ去った。


 誰あれ?めっちゃ可愛いなど、年上の女子が魅力的だと興味が湧く年頃の少年たちの会話が耳に入ってきた。


 脩が昔から自分を好いてることは、夕紀は彼の態度で知っていた。


 昔は母親と過ごせない寂しさからの愛情の飢えや、安心していたい衝動だったのだろうが、それがいつしか恋心に変わっていたのだろう。


ーーま、なんだかんだ、チビの頃から見てるから、かわいい奴とは思うんだけどね。


 夕紀は、軽く微笑んだ。




 ピンポーン…、ドンドンドン


「…!」


 帰宅してから、お昼を作るついでに夕飯の仕込みをし、珍しくを魔術に関する書物を見ながら横になっていたら、寝入っていた夕紀。


 インターホンの音でハッと目を覚ました。


 部屋は既に薄暗く、僅かなオレンジ色の西日だけが部屋の一部を照らしていた。


 夕紀は一瞬、今が朝か夜か理解できないでいた。


 帰宅した時から留守だった祖父はまだ戻らず、店は閉まったままだ。


 制服のまま寝てしまってことに気づき、フラフラ立ち上がった。


ピンポーン…、ドンドンドン

「ごめんくださーい」


 インターホン、そしてノックのあとのドアの向こうから聞こえた女性の声は聞き覚えがある。


「はあい…」

 

 夕紀は部屋の電気の紐を引いてから、玄関に向かった。


 鍵を外し、ガラスの引き戸をガラガラと開けると、脩の母親がそこにいた。


「夕ちゃん、こんばんは」


「あ…ご無沙汰してます、脩君のお母さん」


 挨拶をするものの、顔に笑顔がない脩の母親。インターホンだけではなくドアを叩く様子からも、何かあったことは窺えたが。


「ごめんね、夕ちゃん。まさかとは思うんだけど、うちの子来てないかしら?」


ーー脩?


 夕紀は首を振った。


「…そう」


 脩の母親は肩と視線を落とした。


 一緒に遊びに出た友達たちの家にも行ったが、同じくまだ帰宅していないという。


 他の親御さんたちも、今可能性のあるところを当たってみたり、警察に連絡をしてるとのこと。


 夕紀は振り返って部屋の中の壁時計を見た。時間は十八時半過ぎ。


 小四が出歩く時間ではないが、まだ大騒ぎすることでもない気もした。


 稀に遅く帰宅して怒られるヤンチャな思い出は、誰にでもある。


 しかし、今日は偶然だが久しぶりに脩に出くわした。それを思うと、少し気になりはしたが。


「ひょっとしてと思ったんだけど、そうよね、夕紀ちゃんが高校生になってからはあまり遊ばなくなってたものね」


 母親が落ち込む様子を見ると、夕紀は軽くため息をついて、サンダルからローファーに履き替えた。


「お母さん、私も探しますよ」


「え?」


「そこまで遠くには行ってないと思うんです。幾つか私も思い当たりそうなところ見て周りますから」


 それで見つかるとも思わないが、母親が少し安心するかもと思って出た行動だ。


 礼を言った母親は、一旦自宅に戻ってみると帰宅した。


 夕紀は、(さてどうしたものか)と、考えた。日中会った時に“肝試し”と言っており、懐中電灯を自転車の籠に入れたことを思い出す。


「…それって暗いところってことかしら」


 この界隈で、肝試し、暗いところ…。思い当たる所はいくつかあるが。


 夕紀は戸締まりをし、まずは商店街から入った路地裏のゲームセンターだった古びた空きテナントに向かった。時々、不良たちが屯してて、そこで絡まれてトラブルに合ったかもしれないと考えてのことだ。


 だが、そのテナントには誰もいる様子はなかった。


 乗っていた自転車も見当たらず、当てが外れた結果だった。


「おや、女子高生がこんなところで…と思ったら夕紀かい」


 顎に折り曲げた人差し指を当てて考え込んでいる夕紀の後から、声が掛かった。


 振り返ると、小汚い男が立っていた。この界隈でホームレスをしている“ダンさん”だ。


「あ、ダンさん」


 長年この界隈でホームレスをしている初老の男。大抵は上野駅にいるのだが、界隈を出歩き、店裏の掃除などを積極的に行って余り物をもらったりしているので有名な人物だ。


 社交的で人当たりも良く、なぜホームレスなのかと思わされる人物。


 裏の情報を持っていたりし、夕紀の祖父も時々仕事の際に話を聞きに行くこともあった。


「女の子が、こんなところで一人でいちゃ危ないよ」


「私は大丈夫ですよ」


「まぁそうだろうとは思うが…。ところで、本当、どうしたんだい?難しい顔をしているように見えたが」


 夕紀は、ダンさんに、脩たちのことを説明した。


「ほう…なるほど。それなら自転車に乗った小学生の子たちが、ここから少し離れたところで見かけたが、その子らかなぁ?」


「どこで見ました…?」


「二丁目辺りだったかなぁ」


 “二丁目”と聞き、夕紀はゾワッとした。


「…中島病院のある?」


 ダンさんもハッとした。


「まさか…?探検ってあそこに?あの建物はホームレス連中も近づかないので有名だ」


 表情を険しく雰囲気が一変した夕紀を見て、ダンさんは掌を前に出した。


「行く気かい?まだ俺の見かけた子らが、あんたの探してる子らと決まったわけじゃない」


「そうだけど、とりあえず見てきます。まぁ違ったらそれでいいし」


「…あそこの出来事を知らないあんたじゃあないだろ?」


「深追いはしませんよ」


 微笑みながら去る夕紀のことを心配そうに見つめるダンさん。


 夕紀の向かった二丁目にある中島病院は、五年前に閉院した元中規模病院である。閉院以来、建物だけがそのまま残されて廃墟と化していた。


 通りに面してはいるが、柵が設置されて人が入らないようになってはいたが、色々と噂の絶えない建物であった。

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