表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SHADOW -Wizard girl-  作者: 柳生 音松
4/38

第三話 私に固執する理由って?

「六堂…くん、だっけ?」


「ん?」


「…あなたは、裏社会に身を置いて浅いらしいけど…」


 車は止まったり、ゆっくり進んだりを繰り返す。


 夕方の退勤時間と被り、車の進みが今ひとつの中、夕紀は話を振った。


「…理由か?」


 ハンドルから左手を離し、少しだけ夕紀の方を振り向いた。


 “どうして裏社会に?”その理由を知りたいのか、と尋ねた。


「まあ…そう」


「気になる?」


「いや、その…」


 正直、そこまでは興味はない。


 車内で、知り合ったばかりの男と黙って乗ってるのも息苦しさを感じる。だから話題振ったまでだった。


「…だって、高校生だったんでしょ?ついこないだまで。高卒後の進路、裏社会って闇深すぎ。私の場合、裏社会に身を置いてるのは、生まれた家柄が理由だけどさ」


 六堂は、少し考える。信号が青になり、車列が進み出すと、放してた片手をハンドルに戻しアクセルを踏んだ。


 渋滞を作っていた交差点を通り越すと、進みがスムーズになった。


「…理由を話したら、俺とチーム組んでくれる?」


 質問で返されて、夕紀は眉根を寄せた。


「何で私?私のこと知らないでしょ?」


「知らないよ」


 即答され、夕紀は少しムッとした。


「そんな顔するなよ」


 夕紀の顔を見て、六堂は宥めた。


「前、ちゃんと見て運転して」


 不機嫌な口調で、脇見運転を注意され

、六堂は正面を向いてため息をついた。


 日が沈みかけ、車内も薄暗くなってきた。少しずつヘッドライトを点灯させる車両が目につく。


「ある人物って?」


 沈黙にならないよう、夕紀はまた質問をした。


 チームの話をしていた時、“ある人物”を探すというのがあったのをふと思い出したのだった。


「探してる人いるんでしょ?」


 六堂は人差し指で頭を掻きながら、少し答えるのに躊躇している様子だ。


「…それを、教えたら、チームのこと考えてくれる?」


「そればっかりね、あなた。わかった。じゃ、その人物と理由によっては、考えないこともないわ」


 夕紀は冗談っぽく言ってみた。


 だが六堂は、それを本気と捉えたかのように真剣な顔で答えた。


「わかった。言うよ」


「…」


「…阿修羅あしゅら 才蔵さいぞうだ」


 夕紀はその名前を聞き、息を呑んだ。


「…本当それ?」


「ああ」


 阿修羅 才蔵。夕紀はその男を見たことがあるわけではない。だが、その名は聞いたことがあった。


 才蔵の存在、それは“強さ”。その言葉だけが、裏社会では浸透している男。


 裏社会には、あいつが強い、あいつが最強、逸話や伝説を語られる存在は数多くいるが、才蔵という男は、くどい話はなく。ただ強く、戦えば確実な死を迎えるという。


「へ、へえ…」


 あまりに突拍子のない人物の名前故に、夕紀は返す言葉が出てこなかった。


「本気だと思ってないでしょ?」


「…わからないよ。あまりに、その…凄い名前出すんだもん。本気かどうかなんて」


「だよな…」


「まさか、見たことあるの?」


「…会ったことがあるよ」


 夕紀は目を丸くした。


「え?会った?」


「そんなに驚くことはないだろう。“阿修羅家”はちゃんとした家だし、別に空想や神話の人じゃあない」


 夕紀は(一体何なのこいつは?)と思った。


 裏社に身を置いて日が浅いと言ったくせに、どういう経緯で才蔵と出会すのか。


「一応訊くけど、その、才蔵を探してる理由は?」


 質問に六堂はさらっと「仇打ちさ」と答えた。


 仇…正直、一瞬“誰”のことか気になった。しかし、彼にとっての特別な人間が、才蔵の手に掛けられたことを意味する。


 だから、夕紀がそれ以上訊くことはなかった。


「…チーム、私が必要なら、私でなきゃ、ダメな理由、とってつけたものでもいいから、言ってみてよ」


「縁、じゃだめ?」


 六堂は少し微笑みながら言った。


「それって、こうして出会ったんだからってやつ?」


「そうだよ」


「それじゃ、私じゃなかったら、別な人に同じこと言ってたってことよね?」


「かもね」


「それじゃ、私じゃなくてもいいってことじゃない?」


「そうだね。でも、今日こうして俺と出会ったのは君だ。君以外はもういないってこと」


「…まぁ確かに」


「…ぶっちゃけ、俺と歳も近いし、いいなって思った。いやぁ、正直さ、裏社会の人間って、ヤクザっぽい奴とか、如何にも殺し屋みたいな、悪そうな格好のおっさんばかりだと思ってたんだよ。それが夕紀みたいな、俺と変わらない歳の子がいて、ちょっと嬉しくてね。だから縁を感じたわけ」


 説得力があるのかないのか、よくわからないが、率直な理由を聞いて、夕紀は少しだけ、彼となら面白く仕事ができそうな気がした。


「…まぁ、そこまで言うなら、少し考えさせて。私は二重生活してるし」


   

 上野駅付近に到着すると、脇道に車を停めた六堂は、ダッシュボードからペンとメモ帳を取り出し、電話番号を書き記した。


「チームのこと、どうするか決まったら、ここに」


 番号を書いた紙を剥がして、手渡され、受け取る夕紀。


「わかった…」


「渡辺と木崎には、考えてくれるって伝えておく」


「うん、送ってくれてありがと。…チームのことは、あまり期待しないでね。」


 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ