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SHADOW -Wizard girl-  作者: 柳生 音松
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第二話 お断り

「美味しい!」


 Secret story本日のケーキ、ベリーのタルトを一口食べた、夕紀は思わず言った。


 見た目に派手さはなく、一見、百貨店や、有名店のショーケースに並ぶような“キラキラ感”はないが、鼻から抜けるタルト生地のバターの香りは最高だった。


 カスタードと程よく酸味のあるベリーの組み合わせが、フォークの運びをやめさせない、夕紀が初めて食べた味といえた。


「紅茶も美味しい」


 夕紀の素直な感想にオーナーは嬉しそうだ。


「な、これ食べるためでも来た甲斐あったろ?」


 木崎は珈琲を啜りながら、自慢気に言った。


「あらあら、あなたが作ったケーキじゃないでしょう」


 夕紀はケーキを口に運びながら「これ、オーナーさんが作るんですか?」と聞いた。


「まあね。でも一日一種類、限定十個くらいよ」


 少し距離を取ってたような雰囲気だった夕紀が、すっかりご機嫌になった。若い娘には甘い物、ではないが、この店のオーナーの作るケーキはそれだけ美味しいということだ。


 気持ちも緩んだところで、渡辺は話をチームの件に戻した。


「皆どうだ?さっき話した通り、この四人でチーム組を組む…。概ね非合法な活動、人の命も奪うことになり、それで稼ぐ。金は基本当分だ」


 木崎は、少し怪訝な顔をした。


「ちょっとお互い知らなすぎじゃないか?俺、渡辺のことは知ってるが、実は実力は知らない。彼女…夕紀は魔法の力は本物だけど、戦いになった時に対応出来るか疑問だし、この…六堂については、話だけじゃどうもなぁ」


 渡辺は、(ごもっとも)と言う顔で、写真をポケットから出した。


「これは?」


 木崎は写真を手にして尋ねた。


「俺のところに来た依頼さ」


 写真にはまるで袈裟斬りでもされたような、血塗れの男が写っていた。


「写真の遺体ほとけさんは、“ゴールドスターズホテル”のオーナーの娘の護衛をしていた、まぁ俺と同じような男たちだ」


 六堂が手を伸ばすと、木崎は写真を渡した。受け取った写真を、夕紀も顔を覗き込み確認した。


 正直酷い。夕紀は口をへの字に、少し引いた顔をした。


 しかし具合悪くするでもなく、惨殺遺体の写真を見れる女子高生の姿に、渡辺と木崎は一瞬顔を見合わせた。


「今、“男たち“って言ったよな?」


 六堂が尋ねると、渡辺は頷いた。


「ああ、その男はリーダーで、他メンバー三人も殺された、そうだ」


「…自社のセキュリティや、警備会社に護衛を頼まなかったのは、最初はなっから、ヤバい奴に狙われてると知ってたんだな?」


 六堂は、写真をテーブルに置いた。


「そういうことになるんだろうな。依頼は二点。ゴールドスターズホテルオーナーの娘を守る。そして迫り来る相手を排除する」


 要するに、渡辺が言いたいのは、“この依頼”がチームを組めるかのお互いの試験になるということだった。


「…ちょっと、待って。展開早すぎて、考える間ないわけ?」


 三人の男たちは、夕紀に注目した。


「いきなり来い、そしてチームを組もうって、ありえないんですけど」


 ケーキを平らげて、紅茶を飲みながら間を空ける夕紀。


 ティーカップを皿の上に乗せ、鼻でため息をつくと、椅子から立ち上がり、足下の鞄を手にした。


「私じゃなくても、裏社会に無名の実力者は他にいるでしょ」


 そう言うと夕紀は、オーナーに「ご馳走様」と言い、店を出て行った。


 扉のベルが鳴ると、店内は静まり返る。


「…木崎、送ってかなくていいのか?」


 渡辺が言うと、木崎は(え?)って顔をした。


「ここまで車で連れて来たんだろ?」


「そうだったなぁ」


 半目で頭を掻く木崎は、少し面倒そうな反応をした。


 すると六堂は千円札をテーブルの上に置き、立ち上がった。


 後ろのテーブルに立てか掛けていた刀を手にして、彼も店を出て行った。


「…チーム組みたいっつったの、あいつだよな?」


 木崎は、片眉を下げて、渡辺にそう言った。


 渡辺は珈琲を啜りながら、頷いた。




 店のある裏路地から出た夕紀は、深くため息をついた。


 興味がなければ帰っていいと言われてたけど、自宅から随分離れた場所につれてこられたなと、表通りの商店街を見て、不快に思った。


「送ってくよ」


 後ろからそんな声が掛かった。振り向くと、六堂と名乗った男が近づいて来た。


「あなた…」


「謎の男の車に乗って来たんだ。俺の車でも別に平気だろ?」


「まぁ…」


 夕紀の反応に、六堂は軽く笑みを見せた。


 店に現れてから表情に変化がなかったので、夕紀は少しだけ驚いた。


 六堂に車を止めてる駐車場まで案内され、助手席に乗る夕紀。六堂も後部座席に刀を置くと、運転席に乗り込んだ。


「免許あるんだ?」


 夕紀の素朴な質問。


「あった方がいいからな。お前は取らないの?もう三年生だったよな」


「え?ああ…まあ」


「あ、そうか、魔導士だ。あれか、瞬間移動ルーラみたいなのあるのか?俺、送らなてもよかった?」


 わざとらしく言う六堂に、夕紀は苦笑した。


「あなた、そういう魔法ないの知ってて言ってるでしょ?」


 随分と普通に話すんだと、夕紀は六堂に対する印象が少し変わった。


 エンジンを掛けて車を出発させると、六堂は「家はどっち方面?」と尋ねた。


「とりあえず、上野駅行ってくれれば、あとは帰れる」


「了解」

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