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SHADOW -Wizard girl-  作者: 柳生 音松
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第十六話 その後の夕紀

「大華…」


「……」


「おい大華ぇ!」


「………」


大華だいけ 夕子ゆうこ!!」


 大きな声で名前を呼ばれ、突然起きたかと思えば「は、はい!わ、わかりません!」と席から立ち上がり即答する夕子こと、



夕紀。



 静かだった教室内は、生徒たちの笑い声で賑やかになった。


「大華ぇ、何が“わからない″んだ?俺は問題なんぞ出しとりゃらせんぞ」


「す、すみません」


「お前が居眠りなんて、珍しいな。ついでに、俺の授業、英語じゃないぞ」


 教師に指差された教科書は、前の授業のものだ。また生徒たちの笑い声が響いた。


 夕紀はどちらかといえば優等生だ。学年トップとはいかないが、成績はそれなりで生活態度も問題はない。


 だから居眠りをしていた彼女の姿は、だらしない生徒とは違い、笑いのネタになった。


 浮いた話もなく、何名かの男子が玉砕させた夕紀が、寝不足になるほどに恋に落ちたのではないか、という噂もちらほら出るほどになった。


 その噂を加速させたのが、数日後に六堂と行くことになったハンバーグ名店“タカノイエ″の食事だ。二人で歩いていたのを、噂話好きな女子生徒に目撃されてるのだ。


 “あれ″から十日が経過していた。


 取り憑いていた呪いはもう残ってはないというのだが、どうにも眠い。居眠りもそのためだ。


 何か“後遺症″的なものだのだろうかと考える夕紀。魔力の感覚も鈍い気がしていた。


 帰り道というわけではないが、何となく中島病院の前を通って帰宅していた。


 今でも現場保存のテープが貼られ、人の出入りがないよう警察官が常時立っている。


 こんな危険な場所だが、大勢の人間が一気に入ると、悪霊も呪いも何もしなくなるのは、人間の生命力が優っているからだと聞いた。“数の多い方が勝る″という単純なものらしい。


 しかし、大勢でいても、時折取り憑かれる者はいる。人気のない部屋にいたり、用を足す時、取り憑かれたアイテムに触れてしまったり等。


 だが、この現場は涼子が上手く、福田牧師を招き入れて、聖なる術で、建物内の浄化をしていた。もちろん呪いの元凶はわからないし、恐らくそれは残っているだろうが、人が入ったくらいで簡単に取り憑かれたり、連れ去られるようなことはなくなった。


 確かに建物の前を通ると、前ほど負の何かを感じることはなくなった。


 放っておけばまた一人、一人と犠牲者が出て、負の念は増え重なって闇と化すのだろうが、どうやらこの建物の取り壊しが早急決まったらしい。

 

 建物の使い道はないが、土地は買い取って使いたいという企業があり、話は水面下で進んでたようだが、この機会に話が一気に進んだ。もう少し細かい捜査、調査を終えてからことにはなるだろうが。


 今回の件の犠牲者である脩は、自宅療養中だった。退院しても、心の傷が大きく、学校に行くのが辛いという。


 それはそうだろう。学校に行けばいつも会えていた武、聡、信二がいなくなったことをより実感するからだ。


 だがあの絶望感の中に現れた夕紀、そして六堂の戦う姿が忘れられず、何か憧れを感じていた。


 その良し悪しは置いておくとしても、あの絶望を体験した子供が、今も精神を保てているのは、二人のその強き姿を目の当たりにしたからというのは、紛れもない事実だ。


「私もお爺ちゃんも、ここに住めなくなっちゃうから絶対誰にも言わないでね。二人の秘密だよ」


 見舞いに来た時に、夕紀にそう言われ、互いの小指を結んだ昨日。


 “魔法″については、絶対口外しないとを約束した脩。


 十歳程度の子供なら、つい喋ってしまいそうなものだが、脩は“夕ねえちゃん″に恋焦がれ、憧れている、母親を除けば絶対存在だ。


 だから“二人の秘密″ということが嬉しく本当に口外することはなかった。


「ただいま……あ、」


 帰宅すると、店に福田牧師が来ていた。


「こんにちは…先日は色々とどうも」


 どうやら福田牧師は夕紀に用があったようで、祖父とお茶を飲みながら帰りを待っていたようだった。


「どうだい、調子は?」


「ちょっと、まだ…」


「そうか。まあ、あれだけの呪いに直に触れられたのだから、何かしら影響はあるだろう。栄養のあるものをしっかり食べて、早めに寝て過ごしなさい」


 夕紀は魔力を持っていたから助かったが、普通の人間なら、即死している力だったそうだ。


 それでも死にかけたことを思い出し、少しゾッとする夕紀だが、あの悪霊と、専門家でもないのに躊躇することなく戦った六堂に、感謝はもちろん、何か気になるものを感じた。


「今日はこれを君に渡そうと思ってね」


 福田牧師は布に包まれた物を、鞄から取り出した。


 受け取った夕紀は、布を取り、中身を見た。


 ナイフだ。


 銀の装飾が施された鞘と、左右非対称にくるりと渦を描いたようなデザインの鍔は、まるで“パイレーツダガー″のようだ。


 何より軽い。


「これは?」


「古のナイフだよ、ミスリル銀製だ」


 ミスリルコーティングのナイフが一刺しでダメになったことを聞いていた福田牧師が、協会の倉庫に眠っていたものを持ってきてくれた。


「魔力を直に使える武器を失ったのは痛いだろうと思ってね、使ってなかったのがあったと思って探して持ってきた。君が使いなさい」


「あ、ありがとうございます」


  魔導士の夕紀が、進んで霊や呪いと対峙することはそうそうないとは思うが、ミスリル銀の純度の高いものは、持っているだけで、そういった物から身を守る力があるのだそうだ。


ーーそういえば…


 六堂が“あの刀″を抜いた時も、朧げだが耳に入ってきていた複数の霊の声が小さくなったような…そんなことを思い出した夕紀。


 福田牧師が帰ったあと、祖父は今夜の食事の準備はしなくていいと気遣ってくれた。


「え!お爺ちゃんご飯作るの?いいよいいよ!」


「そこまで嫌がるか!角の来々軒に出前を頼むつもりだったよ」

 

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