イベント2 クランマスター
別の人視点です。
俺はユリウス。
不肖ながらクラン『アリアンロッド』のクランマスターをしている。
今はイベント中で作戦会議をしていた。
「とりあえず作戦は決まったか」
作戦はこうだ。
まずは敏捷の高いプレイヤーに偵察に出てもらう。
そこから得た情報をもとに戦力を割り振っていく。
エネミー砦を一つ落としたらそこを足掛かりに敵本陣に迫っていく。
他の砦はそこそこの攻略にして、スピードで攻めていく。
さらにもう一つ先の砦も偵察に出てもらい、
相手陣営がどの砦の攻略に注力してるのか確認し、防衛戦力を向かわせる。
イベント中はチャット機能やメッセージ機能、掲示板の使用が封印されている。
そうなると敏捷が高いプレイヤーには偵察を頑張ってもらうことになるだろう。
うちのクランがそれなりに有名であることが功を奏したのか話を聞かないやつは少なかった。
「今回は前線で戦うよりも後方で指揮するのが主になりそうだな」
少し不満だが陣営が勝つためにはしょうがないと思おう。
「そ、そんなー!」
少し離れた場所から悲鳴が聞こえる。
「あれは、アーサーとマリーンか?」
目を向けると、赤く長い髪を流してる大剣を背負った少女と、
もぐらを抱いた三角帽子をかぶった魔女が中央の砦への道を歩いていっている。
前回のイベントでアーサーとマリーンに敗北した記憶がよみがえる。
「敵でないことを喜ぶべきかもしれんが、戦いたかったという気持ちもあるな」
もやもやとした気分を振り払い生産職の集まりに目を向ける。
すでに方針は決まっているのか砦の修理に取り掛かっているようだ。
幸い周りには森や岩山などがあり、素材には困らないようになっている。
キーパーをだれにするか生産職の人たちと話し合いがしたく足を向ける。
「砦の詳細な図面は描けたから、あとは必要な素材を集めて!
石工の人たちはなるべく早く砦の壁の修復を始めて!」
そこで見たのは青虫のピヨが陣頭指揮を執っているところだった。
「指揮の最中にすまない、本陣の防衛とこの先の砦を落とした時の場合について話し合いをしたいのだが」
「ふー、とりあえずの指揮は終わったから大丈夫。で、キーパーやってくれるんでしょ?」
「話が早くて助かる。今回のイベントは初動が大事な気がしてな」
「どんなことでも初動をおろそかにしていいことなんてないわよ」
ピヨは呆れたようにものを言う。
「それもそうだ。必要なものはあるか?といっても戦闘職のほとんどは出払ってしまったが」
「壁を修理する石、支柱に使う木材、万が一のための武器用の鉄材、
足りないものならいくらでもあるわ」
「ふむ、そこまでか」
あごに手を当て考える。
「ま、その辺は私たちが考えるからあなたが考えることはないわ」
「ぐ、まぁ餅は餅屋というし、しかたがないか」
「とりあえずさっさとキーパー登録してきて。勘のいい頭悪いやつがキーパーになったらたまったもんじゃないわ」
「それもそうだな・・・わかった。要石のところに行ってくる」
ぼろぼろの砦に向かう。
中に入ると外見と同じようにボロボロだった。
ひびの入ってない壁はなく、戦争でもあったのかと思うような傷が多くみられる。
そんな中を生産職の人たちが忙しそうに走り回っている。
俺はなるべく邪魔にならないよう要石に向かい歩いていく。
「これが要石か」
一番奥の部屋に入ると、青色に光っている大きな石が浮いていた。
要石に触れる。
『プレイヤー、ユリウスをキーパーに設定します
残りのキーパー枠は5名です』
「ふむ、複数人キーパーになれるのか」
新情報を頭の隅に入れつつ、次のことを考える。
アーサーとマリーンが中央に行ったということは、
あの二人は相手本陣までの距離が短いルートを一直線に進むらしい。
「ん?そういえばあのモグラは何だったんだ?」
少し気になるが問題はないだろうと忘れることにする。
「北にはなるべく第2陣に多く行ってもらったが果たして行けるだろうか」
エネミーが集まっているという砦の戦力がわからない以上、
なるべく戦力を分散させず一点突破で行くのがいいのかもしれないが、
戦力の薄いところを狙われて一気に本陣に攻められるなんてこともあっては困る。
「まぁなるようになるだろう」
本来こういった作戦は自分の本分ではないのだ。
いつも頭脳労働をしてくれるクランのサブマスターが相手の陣営に行ってしまったのが少し怖いところだ。
砦の中を探索する。
どこを見てもぼろぼろだ。
何かないか隅々まで探索をしようとしていた時。
「ユリウスさん」
話しかけられ顔を向けるとそこには犬2匹と馬1頭の3人のプレイヤーがいた。
おそらく偵察に行っていたプレイヤー達だろう。
「偵察から戻ってきたのか?すまないが報告をしてくれ」
「はい、俺は北の平原に行ってきました。そこにいるエネミー、というかモンスターは最初の平原と変わりないようでしたね。
砦の中までは見れませんでしたけどそこまで強い敵はいないかと思います」
「ふむ、次は?」
「自分は南の海沿いの砦まで行ってきました。水生のモンスターが海から攻撃してたのがやっかいでしたけど、
魚のプレイヤーたちが海にいたようでわりと善戦してましたね。モンスターの強さはそこまででもないようです」
「砦の様子は?」
「砦は中に川が流れているようで魚のプレイヤーでも内部に入れる仕組みになっていました」
「つまり南側は水生型のプレイヤーが主になるようだな。次は中央だな、報告してくれ」
「えーっとですね、中央手前の砦に行ってきたんですけどもぉ」
中央に偵察に行ったと思われる犬のプレイヤーは言葉を濁す。
「どうした、何か問題があったのか?」
イベントが始まってまだ20分くらいだ。
アーサーとマリーンが向かったのでたいした問題は起こらないだろうと思っている。
が、万が一ということもある。
「あ、モンスターはですね、強めのモンスターが多かったです。第2エリアのモンスターがメインだったようにも思えます」
「そうか、それは予想通りだな。中央の攻略には時間がかかりそうだし、戦力を少し集中させるか?」
「いえ、そのなんていうかですね」
「?」
「中央手前の砦。制圧しました」
「・・・すまんもう一度言ってくれ」
「だからですね、中央手前の砦、マリーンさんが制圧しました」
「・・・・・・・」
「え、早くない?」
思わず素が出てしまうくらいの情報だった。