イベント1 再会?
「どうやら俺たちは青組のようだ!
戦闘職と生産職は分かれて集まってくれ!
生産職は目の前の砦を何とかする方法!
戦闘職はこれからの動きについて作戦会議だ!」
白い鎧を着た金髪の男性が即座に大声をあげる。
ぼろぼろの砦に目が釘付けになっていたプレイヤーたちはその声でハっと我に帰る。
自分もあっけにとられていた一人だったが自分を取り戻す。
「レイジ、ここから別行動だ。頑張れよ」
「はい、ドリューさんも」
レイジと別れ戦闘職が集まっている場所に行く。
ちらりと生産職が集まる場所を見ると、見覚えのある青虫と白衣の女性がいた。
「よかった、同じ陣営だな」
知り合いが敵陣営にいないことを喜びつつ移動する。
そこではすでに作戦会議が始まっていた。
「さて諸君、いきなり砦がボロボロで驚いただろうが、
そこは生産職にがんばってもらおう。
我々はどうやって攻めてどうやって守るかを考えるぞ」
先ほど大声をあげていた金髪の男性が音頭を取っている。
「私はクラン『アリアンロッド』のクランマスターをしているユリウスというものだ。
勝手ながら今回の作戦会議のまとめ役を務めさせてもらう。
とりあえずみんながどのように動くかを決めていきたいと思う。
もちろん会議に参加せずに自由に動き回ってもらっても構わない。
だがここで決定した作戦に沿うように動いてもらえると助かる」
ユリウスと名乗った男性はインベントリから地図のようなものを出した。
「これは公式からの情報をもとに作った今回のイベントの簡易的な地図だ。
確認するが最初の砦までの道は3本ある。
北は起伏の少ない平原を通る道。
中央は山岳地帯を通る険しい道。
南は海に面した砂浜のような道だ!
まずはそれぞれどこに向かうかで分かれてくれ!
それと敏捷が高い奴はできれば砦に偵察に行ってくれ」
ユリウスはてきぱきとみんなに指示を出す。
さすがクランマスターというべきか、指示の仕方は慣れている感じだった。
「アリアンロッドって有名なクランなのかな」
「ユリウスはー、一番最初にー、大フォレストベアを倒した人でー、そのままー、
アリアンロッドっていうクラン作ってー、一番前で戦ってる人だよー」
後ろからゆったりとした女性の声がかかる。
「うおっ」
振り返って見ようとすると、自分の体がひょいっと浮き上がる。
「ふふー、お久しぶりですねもぐらさんー」
ふよん。
ふいに背中に柔らかい感触が当たる。
「!?」
その柔らかさは水風船ともマクラとも違う。
温かくて、いつまでも触っていたくなるような、
今まで感じたこともないような至福の柔らかさだった。
「な、何が・・・」
「こらマリーン!勝手に動かないでっていつも言ってるでしょ!」
後ろから人が走ってくる音が聞こえる。
「あーちゃんあーちゃん。ほらー前に言ったもぐらさんだよー」
ぐるんと視界が回る。見ている向きが変わり、
ずいっと前に突き出される。
柔らかな感触が遠ざかっていく。
すると目の前には一人の少女が立っていた。
長く赤い髪をたなびかせ、きりっとした目つきでこちらを見ている。
彼女は黒い鎧を着ており、背中には大剣を背負っていた。
「これが?いったい何が気に入ったのかしらね?」
「あのー、自分あなたと会ったことありましたっけ?」
目の前の女性の姿は記憶にない。
「私じゃなくて、今あんたを持ってるのがあんたと会ったことあるって言ってるの」
「へ?」
首だけ後ろに向ける。
そこには三角帽子をかぶり、いかにも魔女と言える恰好をした女性が見えた。
特に注視するのはその豊かなお胸だろう。
「つまりさっき背中に当たってた柔らかいのは・・・」
ダメだ!意識するな!垢BANされる!
「もぐらさんー、どうしたのー?」
むぎゅ!
再び訪れる至高の柔らかさ。
考えるな!感じるんだ!
いや違う、感じてもダメだどうすればいいんだ!
目の前にいる少女に目で助けを求める。
少女は仕方ないなぁといった顔をして、
「はぁー、こらマリーン、そのモグラ困ってるでしょ?離してあげなさい」
後ろの女性に離すように言ってくれた。
「えー、いいじゃんかー、モグラさんもーべつにいいよねー?」
「いや、その、じ、自分はですね・・・」
動きたくても動けない!
「いーから!ほら!」
少女は自分のことをつかみ女性から奪い取る。
「あー」
マリーンと呼ばれた女性は残念そうに、こちらに手を伸ばした体勢で止まっていた。
「た、助かった。ありがとう」
「お礼はいいから自分で立ってよね」
少女はゆっくりと地面におろしてくれる。
「あの、マリーンさん?でしたっけ?どこかで会ったことありましたっけ?」
「えー、おぼえてないのー?わたしのことーナンパしてきたのにー?」
「え、ナンパ?」
ナンパ
面識ない者に対して、公共の場で会話、遊びに誘う行為。
その行為を行う者は軟派と呼ばれる。
「自分が、あなたに?」
「そうですよー、あんなにー、熱烈にー」
マリーンさんはにこにことこちらを見てそう言った。
まったく!記憶に!ございません!
「あなた、多分ログインした初日にマリーンに道聞いたでしょ?
そのことをマリーンはナンパされたと勘違いしたらしくてね。
それ以来あなたのことが忘れられなかったんだって」
「いやー、ナンパされるなんてー、初めてのことだったからー」
マリーンさんは顔を赤らめ体をくねくねと揺らしている。
「ログイン初日・・・道を聞く・・・。あっ」
確かログインして何もわからないときにやさしそうなお姉さんに道を聞いた記憶が、
あったような・・・なかったような・・・。
それがこのマリーンさんだったということか。
「えっとですね、あれはただ単に道を聞いただけででして、別にナンパが目的だったわけではなくてですね」
わずかな記憶を頼りにマリーンさんに説明をする。
「えー、ナンパじゃなかったのー」
「はい、その、すいません」
説明を聞いたマリーンさんはがっくりと肩を落とし落ち込んだ。
「はいはい、話は終わった?」
パンパンと手をたたき、赤髪の少女が話を進めようとしてくれる。
「とりあえずユリウスの話からどの道に行くか決めないとね」
「そうだねー、もぐらさんはーどこに行くのー?」
肩を落として落ち込んでいたはずのマリーンさんはもう立ち直ったのか、
ニコニコしながらこちらに聞いてくる。
「そうですね・・・まぁ北に行きますかね」
このイベントは自分のような第2陣も参加している。
勝手な予想だが北が平原ということは、出てくるエネミーはおそらくウサギやウルフといった最初の平原に出てくるやつが多いはず。
削
ということは自分でも活躍できる可能性があるかもしれない。
「だめー」
またもヒョイっと体に浮遊感。
「もぐらさんはー、私とー中央に行くんですよー」
むぎゅ!
三度至高の柔らかさに包まれ体を硬直させる自分。
「はー、しょうがない。行くよマリーン」
「あの!このままいくんですか!」
「こうなったマリーンはてこでも動かないからね、あきらめなさい」
「ふふー、いくよー!」
「そ、そんなー!」
暴れると柔らかい場所でぐにゅぐにゅして大変なことになりそうなので動けない。
仕方なく自分はマリーンさんに連れていかれることになったのであった。
ちなみに、周りにいる男性陣は血の涙を流しながら一匹のモグラを睨みつけていたという。