装備作成依頼と裁縫士ピヨ
「ところで結局何を作るんですか?」
「あぁ、それはだな」
背中に何かうすら寒いものを感じつつも、装備の制作依頼をすることにする。
「このフィンガーアーマーっていうのをさ、
この体でも使いやすいようにして欲しいんだ」
レイジが作ったフィンガーアーマーを装着する。
腕はすっぽり入るし、曲げることもできるのだが、
いかんせん人間用に作られたものなので微妙に違和感がある。
「それと、これを使って作って欲しい」
インベントリから「大フォレストベアの爪」を取り出す。
「え、え、これ!大フォレストベアの爪って、エリアボスのドロップ品じゃないですか!」
「そう、これを使ってフィンガーアーマーだっけ?を作って欲しい」
目を白黒させているレイジに正式に依頼をする。
「期間は、来週のイベントまでに仕上げてほしい」
「来週ですか」
イベントに関しては公式からの発表があり、
陣取り合戦のようなものが来週に行われるらしい。
そこである程度の活躍をしようと思ったらそれなりの装備を身に付けなければならない。
「あとは防具だな。自分でも着れて丈夫な奴がいい」
何せ他の店ではフリフリのドレスやら着飾る系のやつしかなかったのだ。
「うーんそれなんですが。ぼく細工師なので多分防具は作れないと思うんですよ」
「なんでだ?その人形の服とか作ってるし作れるんじゃないのか?」
改めて露店に並べられた人形を見てみる。
ちいさなウサギの人形には軍服のような立派な服が着せられている。
よく見ると腕には時計までつけられておりレイジに技術の高さがうかがえる。
「あぁ、その人形の服はですね。知り合いの裁縫士に頼んで作ってもらったものなんです」
「裁縫士?」
裁縫士
服の作成や布を使用した物を制作することに特化した職業。
おしゃれ目的の服や冒険にも耐えうる服なども作成することが可能。
鍛冶士の作る鎧より防御力は低いが、動きやすい軽装などを作成することが得意である。
「つまりこの人形の服はレイジが作ったわけじゃないのか」
「はい、そうなんですよ。小さな膝当てとかは作ることはできますけど、
全身を覆うような防具の作成はぼくにはできないです。すいません」
なぜかしゅんとするレイジ。
レイジも自分も何も悪くないんだがなぜか悪いような気がしてくる。
美少女ってずるい。
あ、こいつ男だった。
「いや、別にレイジが悪いわけじゃないよ。
うーん、その裁縫士を紹介してもらうわけにはいかないかな?」
とりあえずダメもとで聞いてみて、ダメだったら違う方法を考えよう。
「いいですよ」
「え、いいのか?」
二つ返事でOKを出すレイジ。
「言っちゃあなんだがかなり厚かましいことお願いしてるぞ?
武器作成依頼しといてその上別の生産職紹介してくれーなんて」
「大丈夫ですよ。ドリューさんは悪い人じゃないですし」
悪い人じゃないって断言されたがそれはそれでいいのか?
「まぁいいや、紹介してくれるんだったら紹介してくれ。
あ、紹介料とかいるか?」
「いえいえいえいえそんなものいりませんよ!
大丈夫です。ちゃんと紹介しますから」
自信満々に宣言するレイジ。
「それはいいんだが武器のほうは大丈夫なのか?
ちゃんと依頼という形をとるし依頼料も払うよ」
「大丈夫です!構想はもう出来てますからあとは作るだけです。
大フォレストベアの爪なんてものを使わせてもらうんですから、
むしろこっちがお金を払いたいくらいですよ!」
「それはやめとこうな? ちゃんとお金は払うぞ?」
いろいろと不安だがお金が絡むことだからちゃんとしておく。
ここがなあなあになってしまうと良い関係とは言えない。
せっかくフレンドになったんだから仲良くしていきたい。
「じゃあその裁縫士を紹介してくれ」
「わかりました。えッと今は・・・居ますね。
じゃあさっそく行きましょう。露店をたたんでっと」
レイジはウインドウを出し露店の店じまいをした。
そのままレイジに連れられて露店通りを歩く。
「この辺りは裁縫士が多い区画なんですよ」
「へーそうなのか」
周りの店を見ると確かに売っているものは服関係のものが多い。
きらびやかなドレスもあれば皮鎧といった防具までいろいろある。
明らかに浮浪者がつけてると思われる布が売られているのはどういうことなんだろうか。
「あ、ここです。おーいピヨさーん!」
「ピヨさん?」
裁縫士の人って鳥なのかなと思いつつ店を見る。
その店に並んでる商品は様々なものが置かれていた。
先ほど見たようなドレスや皮鎧はもちろん、魔法使いがつけてるようなローブや指ぬきグローブなんてものもある。
すると奥から店主らしき人物が出てきた。
「この声は、レイジくん? どうしたのこんな時間に、いつもは露店開いてるよね?」
女の人の声がする。
のそのそと現れてきたのは大きさは50センチはあるであろう、
青虫だった。
「む、虫?」
「あら、お友達? モグラねぇ、・・・もぐら?」
青虫のお姉さん?は自分とレイジを交互に見つつ首?を動かしている。
「モグラってもしかして掲示板に出てたあのモグラなのかしらちょっと待ってまさかうちに来るなんて思ってなかった心の準備ができてない待ってかなり仲良さそうもしかしてもしかしてもしかするのかしら」
青虫の店主はぶつぶつと何かをつぶやいている。
「あの、ピヨさん? 今大丈夫ですか?」
「はっ!えぇ、大丈夫。何でもない。それよりも何か用?」
自分の世界に入っていたと思われる彼女はレイジの声で戻ってきたようだ。
特に気にした様子もないレイジは彼女に話を続ける。
「あのですね、この人に防具を作ってほしくて、っとそうだ、紹介しますね。
この人はフレンドのドリューさんです」
「モグラのドリューです」
レイジに紹介してもらい頭を下げる。
「どうも、私はグリーンワームのピヨです。よろしく」
ピヨと名乗った青虫店主は小さな足?手?を伸ばしてこちらと握手しようとしてくる。
「よ、よろしく」
こちらも手を伸ばし手と思われる突起を握る。
「はい握手。これで君も友達だね」
ぶんぶんと突起を上下に振り喜びを表現している。
「いやーこの姿に驚いて帰っちゃう人もいるからね、
私と握手できる人とはなかよくしとこうかなって思ってるんだ」
おそらく笑顔なのだろう。
口と思われる穴が横に広がっている。
「そうなのか?このゲームで人を外見で判断しちゃいけないと思うんだが」
外見で人を判断した結果性別が違ったなんてこともあるし。
「そうなんだけどね、どうしても虫がだめっていう人はいるみたいでさ、
虫が作ったものなんか装備できるか!っていう人も結構いるんだよね」
顔を少し地面に向け残念そうな顔をしている。
と、思う。
(いかん、全く表情が読めない。)
確かに巨大な青虫というだけで忌避する人もいるんだろう。
こちらとしては装備を作ってくれるんだから外見は関係ないと思うんだが。
このゲームは様々な種族が入り混じるゲームだ。
外見だけで判断していては痛い目をあうだろう。
「それで、防具作成だっけ?」
「あ、はい。自分の防具を作って欲しいんです」
握手しつつ改めて装備品作成の依頼をする。
「あっはっは、敬語なんていらないよ。普段通りのしゃべり方でいいと思うな」
ピヨさんはレイジと同じことを言ってきた。
うーむ自分の敬語はそこまで違和感が強いのだろうか?
「わかったじゃあ改めるとするよ」
「うんそれがいいよ、さて依頼の件だけどもちろん受けるよ。
レイジくんの友達だしね」
「よかったですねドリューさん!」
レイジがまるで自分のことのように喜んでくれる。
・・・やけに懐かれたがやはりあの会話が原因か?
いやよそう。また恥ずかしくなってくる。
「私に話を持ってきたってことは作って欲しいのは体装備だね」
「あぁ、来週のイベントまでになるべく丈夫なのを作って欲しい」
「素材はどうする?ウルフとか、ウサギとかなら在庫あるけど」
自分はインベントリから「大フォレストベアの毛皮」を取りだす。
「これを使ってくれ」
「わぁお、エリアボス素材だよ。これどうしたの?」
「前に倒してな、それのドロップ品だよ」
「へぇ、なるほど。うん、実力もあると」
ピヨさんはまたぶつぶつと独り言を言っている。
癖なのかな?
「よし分かった、それでドリューの装備を作ろうじゃないか」
「本当ですか、ありがとうございます」
「ちなみに予算はどれくらいある?」
「一応2000Gまでなら何とか出せます」
「第2陣にしてはお金持ちだねぇ、あ、エリアボスのクエスト報酬か。
よし分かったそれで収まるように作るよ。
何か希望はあるかい?」
すでにどんな装備にしようか悩んでいるのかそんなことを聞いてくる。
「じゃあオーバーオールでたのむ」
「なんでまた?」
「モグラと言ったらオーバーオールだと思ったので」
「そうなのかい?」
これは他のゲームに出てくるモグラのイメージだったのだがどうやら伝わらなったようだ。
「ま、いっかわかったそれで作るよ」
「よろしくお願いします」
これで装備品関連は何とかなるだろう。
「あ、フレンド登録しとこっか。連絡とるのも楽になるし」
「了解だ」
さっそくピヨさんとフレンド登録をする。
一応簡易ステを確認。
名前:ピヨ
種族:グリーンワーム
職業:裁縫士
性別:女性
「ほ、女性だった」
「ん、なんだい?」
「いや、独り言だよ」