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第2話「陰陽寮」・・・推定読了時間約7分

ようやく2話目が完成しました。


今回は、ほとんど会話のパートとなります。

伏線を張りながらも、伏線を回収することを心がけてます。

うまくできるかな。

とりあえず頑張るのみです。

「まずは何故、お前達がこの森に入り、鬼と出会ったのか説明してもらおうか」


 紫色の狩衣(かりぎぬ)を纏う白髪の男が桃眞に訊ねる。紺色の座布団の上で正座をし、終始穏やかな口調だ。

 蝋燭(ろうそく)の灯りが和室の四隅から室内をゆらゆらと照らす。


 今の桃眞には、ここが何処なのか、目の前の老人は誰なのか、それ以前に、森で起こった事全てが理解できるわけもなく、ただただ困惑していた。


 そして、何よりも既に生きてはいないだろう同級生達の事が気がかりだった。あの森に置いてきたままだからだ。


「……鬼って、あの化け物は鬼って言うんですか」


 桃眞は溢れんばかりの不安と疑問がないまぜになっていたが、その聞き慣れない言葉に反応し、逆に問いかけた。


「我々は鬼と呼んでいる。あの角が生えている鬼を思い浮かべるかも知れないが、怨霊や物怪(もののけ)、あらゆる怪異を引き起こす存在の事を言う。それ故、お前達を襲ったあの化け物も鬼と言う事になるのだ」と、男は桃眞にも理解できるように、丁寧に説明をした。


「そんなモノが、本当にいたんですか……」そう言いながら、必死に納得しようと俯き、大きく深呼吸をした。


 普段なら、鼻で笑って受け流すだろう。だが、今の桃眞は経験してしまっている。その事実を受け止めるしかないのだ。

 納得するしかないのだと、自分に言い聞かせる。

 

「それに、あれは……あれは何ですか」と顔を上げる。


「あれとは」


「俺を助けてくれた人達。魔法使いですか」


「我々は陰陽師(おんみょうじ)だ」


「おんみょうじ……?」


 桃眞にとっては、初めて耳にする言葉だった。

 すると、男は立ち上がり、和箪笥(わだんす)を開け、メモ用紙と筆ペンを手に取り、再び座布団に尻を下した。そして、紙に字を書き始めた。


 ――『陰陽師』と書き、桃眞に見せた。


「森羅万象、この宇宙の万物には必ず、陰と陽、影と光が存在する。互いが持つ性質を理解し、読み解くことで、あらゆる星の動きから、それが指し示す吉凶、時には未来までもを知ることができる。そして、時にはその光と影のバランスが崩れれば世の理をもって正す。簡単に言うとそれを陰陽師と呼ぶのだ」


 本来は、もっと複雑な説明が必要だが、今の桃眞には理解はできないだろうと、できるだけ分かりやすい言葉を選びながら男は説いた。


 難しそうな表情で沈黙する桃眞が、ゆっくりと重い口を開いた。


「……森羅万象って……なんですか」


 その質問に息が詰まった男。このままだと全ての言葉の意味を聞かれるのか、そんな不安が男に過る。

 二人の間に妙に長い沈黙が起こった。


「この世に存在する全ての事という意味だ」


「……エブリシング的な感じって事ですかね」


「……ま、まぁ。そうかな」 


 男は苦笑した。



 咳払いをして、気を取り直した男は「話が全然進まん。とにかく、あの森に何故行ったのか、なぜ鬼に襲われたのか。お前の口から聞きたい。教えてくれないか」と話を元に戻した。


 桃眞は、正座をしたまま、記憶を辿り始めた。



「あの森。友達がネットでこの辺でも結構有名な心霊スポットがあるって事で、連れて来られたんです。俺は、あんまりそういう所は好きじゃないから断ったんですけど、どうしてもと言われ……」


 男は「それで」と続きを促した。


「森に入って暫くしてから、三人で何枚か写真を撮ってると、フラッシュの光で何かが緑に光ったんです。そっちに向かうと太い木があって」と俯きながら話を続ける。


「その木の表面に緑色の綺麗な石があって。始めは変わった石がめり込んでるのかと思ったんですけど。友達がお宝発見みたいなノリで、無理やりくり抜こうとしました。そしたら、緑の石が三つに増えて光り出して、木が裂けた途端に、アレが……鬼が出てきたんです」


「その写真は今持っているのか」と言われ、桃眞はスマホで撮影した写真を見せた。


「これです……」


 そこに映るモノを目を凝らしながら、じっと見つめる男。表情が一瞬強張ったのを桃眞は不審に思った。


「どうかしましたか」と聞いたが「いや……」と答える。


「とにかく、心霊スポット巡りなどと馬鹿げた事をするからこう言う事になる。眠っていた鬼を目覚めさせたのだ」


「すみません」と頭を落とす。


 そして桃眞は続けた。


「全員慌ててその場から逃げようとしました。でも、俺と友達二人の間に鬼が出てきたから、それぞれ別の方向に逃げたんです。無我夢中で闇雲に走っていると、陰陽師……的な感じの人達が歩いていたので、助けを求めたんです」


「なるほど、それで駆け付けた時には、友達は殺されていたと言うわけか」


「……はい」と重い返事をした。

 その時の、無残な光景が脳裏にフラッシュバックし、恐怖に顔を背ける。



 少しの沈黙の後、桃眞が顔を上げた。


「あれは魔法なんですか。俺、確かに、駆け付けた後、鬼に襲われて近くにあった木の枝で戦ったのに。死んだと思った瞬間、無傷で別の場所に居たんです」


「魔法ではない、陰陽の術だ。組紐の人形にお前の髪の毛を結ばなかったか」との問いに「はい」と答える。


「その術と、あとは周りの陰陽師で結界を作ることで、お前の意識は組紐へと流れ。そして鬼にはあたかもお前を殺めたように見せていたのだ」


「そんな事ができるんですね」


「まぁな」



「あのッ」と更に桃眞は続けた。


「友達は生き返ったりしないんですかね。その陰陽の術で。あと助けてくれたけど、やられてしまった陰陽師の人達はどうなるんですか」


 桃眞はそういいながら、目を見つめた。答えは何となく予想はできていたが、不思議な力の奇跡が起こるかも知れないと言う、淡い期待を持って。


「残念だ」と深いため息をした。


「ですよね……」と肩を落とす。


「お前の友達には失礼だが、お前だけでも生き残れた事は奇跡だと言えよう」



 桃眞は、友達の遺体があのまま森にある事について男に訊ねた。


「どうして、友達をあの場所に置いてきたのですか。陰陽師の方はここに運んできたのに」


「お前の友達の存在を消す事はできんだろ。今、寮の者が警察に通報しておる。死体を見つけたとな。あとは、警察の仕事だ。陰陽師の仕事ではない。君は、今夜はこの陰陽寮に泊まりなさい。今、森を抜けるのは危険だ。それにもう遅い」


 そう言いながら、男は立ち上がると、障子戸を開いた。



「あの、最後に良いですか」


「まだ何かあるのか」


 難しそうな表情で沈黙する桃眞が、ゆっくりと重い口を開く。


「……陰陽寮ってなんですか」


 またも、二人の間に謎の沈黙が起こる。

 男は、時間を気にしているのか少し苛立った様子で「陰陽の術を学ぶ所だ」と答えた。


「……スクール的な感じのやつですか」


「……う、うん、スクール的な感じのやつ」と、男は言い残し、逃げるように部屋を跡にした。



 どうすれば良いのか迷っていると、緑の狩衣を纏った若い男が現れた。

 微笑を終始(たた)えている。


「客間にご案内します。こちらへどうぞ」と柔らかい口調で部屋を出るよう促す。


「あ、はい」と桃眞は答え、腰を上げた。


 形の整った小石が敷き詰められた、大きな中庭が一際目についた。静かな水面の如く、鏡面のように乱れていない。

 毎日丁寧に手入れをしている事が伺える。


 それを囲むように木の回廊があり、障子戸の部屋がいくつもある。等間隔に備え付けられている蝋燭の灯りが、普段あまり見慣れていない桃眞にとっては、幻想的に見えた。


 若い男に回廊を連れられていると、少し先を歩くスーツを着た数人の男が、狩衣を纏う者に案内されていた。

 その数人の中の一人には見覚えがあった。


「あ、杉本総理だ」と桃眞は呟いた。


 薄明りの中、蝋燭の灯りで見え難いとは言えど、テレビなどで何度も見た事がある。見間違えようがなかった。


「あれって、杉本総理ですよね」と若い男に訊ねる。


「左様でございます。今、貴方がお話しをされていた陰陽頭(おんみょうのかみ)、陣内様とのお約束があるのでしょう」


「そうなんだ。ってか、俺がさっき話してた人って、もしかして偉い人なの」


「はい、この陰陽寮の全てを司るお方です」


「マジで……」と、桃眞はさっきまで話をしていた相手が、この陰陽寮のトップだと、今になって分かったのだった。



「でも、総理大臣が何をしに来てるんだろ」と訝し(いぶ)かし気な様子で、桃眞は首を傾げた。


「毎月、来られていますよ。歴代の総理大臣は、毎月、この陰陽寮に参られては、陰陽頭が直々に助言をしております。総理大臣としてどういう政策を打ち出すべきだとか、どう振る舞うべきだとか。陰陽の術で吉凶を判断し、それをお役立て頂いております。これまでも、これからも、この関係は続いて行くのでしょう」


「へぇ、総理大臣が、占いで国を動かしてるなんてな。それってどうなんだろ」


 学歴と教養を高レベルで兼ね備えている一国の主が、占いで国の行く末を決めているなどと知れれば、国民の大多数が落胆するかも知れない。そう思っていると、桃眞の心を察した男が口を開いた。


「その昔より、陰陽師は、今で言う国家公務員みたいなもので、国に正式に認められ、時には政治にも関与しておりました。陰陽の術はただの占いでは御座いません。より高度な技術と専門的な知識から導き出される答えには、確かな実績が御座います」


「そうなんだ」と、桃眞はまだ釈然とはしなかったが、とりあえず頷いて見せた。



 人一人が十分過ごす事が出来そうな大きさの部屋に案内された。

 蝋燭が入っている行燈(あんどん)が、柔らかく温かい光で和室を照らしている。


 テレビなどの家電は一切ない。照明器具も無い部屋というのは、桃眞にとっては初めてだった。

 部屋に備え付けられている(ひのき)風呂には、丁度、湯が溜められおり、ふかふかの布団も既に敷かれていた。


 風呂に入り、早速桃眞は床に就いた。


 静寂の中、行燈の光を見つめ続ける。


 不意にスマートフォンを取り出し、画面を点灯した。そこに映る友達との写真。この数日後にこんな悲劇が起きるとはつゆ知らず、無邪気な笑顔を見せている。


 緊張や混乱から解放されたのか、ここにきて、現実と実感が一気に押し寄せてきた。決して強がっていた訳でもない。

 二人が殺された瞬間を目にしていなかった事もあり、まだどこか実感が湧かなかったと言うのもある。信じたくないとも思っていたのだ。

 だが今、不安、悲しみ、後悔、喪失感が胸を締め付け、込みあがる思いが目から溢れ出る。


 朝になればどうなるのか。これからどうなっていくのか。

 考えれば考えるほどに、不安が増してゆき、頭の中を駆け巡る。

 そんな状況では寝れるはずもない。


 しかし、桃眞は……すぐに爆睡した。



 つづく


 次回第3話「更なる絶望」

まだ、物語としては序章と言ったところです。

これから、どんどん物語は加速していきますので、もしよろしければ、ブックマーク、応援をよろしくお願い致します。

執筆の励みになります。

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