令和2年6月第4週
6/22(月曜)
感染症専門医の忽那賢志氏によると、先日に中国から「新型コロナウイルスの抗体は長期間持続しない可能性がある」との報告が出た由。提示された二つの論文を確認しつつ、記事を通読。まず6月18日付のNature medicine誌に発表された論文では、重慶市万州区の病院に隔離された無症状の感染者37名と有症状者37名を調査している。
急性期および回復期で各々の抗体価を比較した所、無症状者も有症状者も回復期になると抗体が低下し始めており、「感染によって作られた抗体も発症から数ヵ月後には低下する」事が判明。退院から8週後には無症状者の40%、有症状者の12.9%でIgG抗体が陰性となるそうだが、抗体の量だけではなく「実際の抗ウイルス効果に相当する中和活性も同時に減衰する」事が確かめられた。これは他の感染症と比較しても早く、一旦感染するとIgG抗体が生涯陽性になるA型肝炎やEBウイルス感染症とは対照的と言える。その他に「無症状群は有症状群よりもウイルス排出の期間が有意に長い」「無症状群におけるウイルス特異的IgGレベルは有症状群よりも有意に低い」「無症状群では抗炎症サイトカインが低い」等が示唆された模様。
抗体が早期に低下する患者が相当の割合で存在するのならば、「既感染者か否かは抗体の有無によって評価できる」とは言えなくなる。 「東京の調査で0.1%が抗体陽性だから感染者数は云々」というような推算は全て「一度抗体が陽性になった人は長期間陽性が続く」事を前提としていたが、実際は調査の時点で抗体を有する者を拾っているだけに過ぎず、感染後の時間経過で抗体が低下した者は拾えなくなる可能性が有るのだ。今後は既感染者を検出するためのより良い指標が必要になる、と忽那氏は説いている。
別の観点として「抗体が陰性になった症例は再び新型コロナに感染するか」との疑問も挙げられているが、この解は未だ不明との事。抗体はヒト免疫のうち「液性免疫」の指標だが、その他に「細胞性免疫」というものも有る。5月20日付でScience誌に報告された研究が示す所によるとSARS-CoV-2、即ち新型コロナウイルスに感染したアカゲザルが再びSARS-CoV-2に感染した場合、免疫記憶が機能して初回よりも急速かつ大量の抗体が産生される事により発症を防ぐ既往免疫反応(anamnestic immune response)が確認されている。動物実験の結果を直ちにヒトに当て嵌める訳には行かぬが、人体に於いても「一定期間内の再感染であれば、抗体が陰性になっていたとしても既往反応が働き、発症を防ぐかも知れない」事を示唆する知見では在る。
人間に感染するコロナウイルスとして既知の存在であるHuman coronavirusでも、一旦感染した個体で抗体が早期に減少するために再感染が生じ得るが、再感染時には「ウイルス排出期間が短くなる」「症状が軽減される」等の変化が見られる。ヒトが何度も新型コロナウイルスに感染するという事態になっても、感染する毎に病原性は少しずつ軽減されるのかも知れぬ、と忽那氏は述べている。隧道を抜けた先に見えるのは希望の灯か、更なる闇か。
6/23(火曜)
新型コロナウイルス感染症への対応で感染したとして地方公務員から請求があった公務災害が、初めて認定された模様。地方公務員災害補償基金の発表によると、認定されたのは医療従事者や消防職員らから申請があった3件で、いずれも公務上の感染だが、個人情報保護を理由に申請者の居住地域や年齢、性別などは明らかにされていない。5月の時点で基金は、公務外での感染が明らかな場合を除き「感染経路が特定されなくても、原則公務上の災害となる」との通知を出していた由。
今月19日から3日間、NHKが全国の18歳以上を対象に、コンピューターで無作為に発生させた番号に架電する方法で世論調査。「感染拡大を防ぐ目的で政府や自治体が外出を禁じ、或いは休業を強制できるようにする法改正は必要か」と質問した所、必要との回答が62%と不要の27%を上回った旨の報道に対し、堀江貴文氏が「めっちゃやばい風潮だこれ」とtwitterで反応。
補償さえ有れば良いと言うものでも無いが、無くては話にならない。公務災害の認定は当然と言えば当然の事ながら、まず朗報と言っても良かろう。世論調査の件は片や感染対策、片や経済活動や個人の自由の保護という相反する命題が衝突する所で、何れが正しいとも容易に判定し難いが。森羅万象に対するホリエモンの発言は「己の金儲けに役立つものを評価し、妨げとなるものは批判する」という観点で首尾一貫しており、敬服する。
6/24(水曜)
本日に京都市左京区の京都大学で会見。多様な研究を支える為には寄付が重要と主張して来た二人のノーベル医学生理学賞受賞者、京大の本庶佑特別教授と山中伸弥教授の研究に対し、ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が総額100億円を寄付。癌免疫療法の研究や京都大学iPS細胞研究財団の活動等に加えて、山中氏が所長を務める京大iPS細胞研究所の新型コロナウイルス感染症対策の取り組みにも活用される由。
本日16時台に新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の廃止を西村経済再生担当大臣が発表。同刻に同じ千代田区で会見中の尾身副座長も事前に聞かされていなかったのか、記者から問われて「大臣が、そういう発表されたんですか」と呆然の態。
6/25(木曜)
東京の新規感染者が31人と増加した一昨日、前月から0人を堅持した高知では懇談会という名の大宴会を開催。県民に「新しい生活様式」に適した宴会の在り方を示すとして、浜田省司知事や県幹部、県議、県警幹部等の100人が消毒や検温を済ませ、高知市中心部の城西館へ集合。県総務部長の発声と共に参加者一同がマスクを外して乾杯した後は鰹や鮎、地鶏に土佐あかうし等の県産食材や地酒を嗜みつつ、樽俎之間にて歓を尽くした由。
会場では円卓の座席数を通常の12席から8席に減らす、大皿料理の数を押さえて各自にtongsを用意する、同じ杯を用いた同県伝統の献杯返杯を自粛する、副知事や健康政策部長はリスク分散のため欠席する等の対策が取られる一方で、多くの参加者が飲食中にマスク無しで談笑。外出自粛で悪化した地元経済の回復や県産食材の地産地消を目的に開催された「懇談会」だが、時期尚早として参加を見送った一部県議や開催を疑問視する県民からは批判も招いた、との事。これも「経済や自由の保護と感染対策を如何に両立すべきか」に纏わる問題だろう。
6/26(金曜)
昨日に九州北部地方は、梅雨前線の影響で大気が不安定化。対馬海峡付近の梅雨前線に向かって南から湿った空気が流れ込み、長崎県上空で積乱雲が帯状に発達して、佐世保市では48時間の積算雨量が292ミリに到達した由。
例年ならば6月全体の9割に相当する雨が僅か2日間へ集中する事態に対し、市が避難指示を出し、気象庁は「記録的短時間大雨情報」を発表。長崎・佐賀両県内のJR九州在来線で列車の運休や遅れが相次ぎ、長崎空港でも欠航便が出る等と交通機関にも影響有り。梅雨最盛期に入っている九州では、来週も何時何処で豪雨が降るかも分からぬ状況が続き、地盤の緩んだ地区では土砂災害も懸念されるとの事。
また本年4月から5月にかけては、茨城県北部・南部、千葉県北東部・北西部・東方沖、長野県北部・中部、岐阜飛騨地方、紀伊水道、薩摩半島西方沖で震度3以上の地震が54回発生。昨年同時期の25回と比べると2倍超となるが、昨日早朝にも関東で地震有り。千葉県東方沖が震源地で、規模はマグニチュード6.2。千葉県旭市で最大震度5弱、都心や横浜を含む広い地域で震度3と観測された由。
コロナ禍の続く昨今では、避難所でも三密を避けねばならぬ。佐賀県武雄市の避難所では、床から30センチ程度の高さを得る事で床に沈殿するウイルスを吸い込まぬように、段ボール12個を組み合わせた簡易ベッドが製作された模様。
6/27(土曜)
新型コロナウイルス対策を議論して来た政府専門家会議は24日、感染の第2波に備え、専門家による会議の在るべき姿に関する政府向けの提案書を纏め、同日に脇田隆字座長が記者発表を行った。
感染症や公衆衛生の専門家12人を集めた同会議は本年2月に政府の対策本部下に設置され、感染拡大防止に向けて「人と人との接触の8割削減」や「新しい生活様式」等の実践を提唱する等と精力的に活動して来た一方、法的根拠を有さぬために責任の所在が曖昧で、議事録が無い等の問題も指摘されていた。提案書では「専門家会議が国民に8割減等を直接呼び掛けた結果、「国の政策や感染症対策を会議が決定している」との印象が生成されたと指摘。今後の専門家による会議は「現状を分析し、その評価を基に政府に提言を述べる」に留め、政府が「提言の採否を決定し、政策の実行について責任を負う」事として、明確な役割分担を求めた。
三日前の項にも記したが、こうして専門家会議側が記者会見を開いている最中に、西村経済再生担当大臣が「専門家会議を廃止し、既存の新型インフルエンザ等対策有識者会議の下に新たな会議体を設置する」と発表。新たな構成員として地方自治体の代表やrisk communicationの専門家も招き、これを新型コロナウイルス感染症対策分科会と呼称する旨を宣言した。これに対して、昨日の政府・与野党連絡協議会では与野党双方から「唐突だ」等の批判が相次ぎ、与党にも根回しをしていなかった事が露呈。
そもそも専門会議に議事録が残っていなかったのは国民を不安にさせる可能性の有る情報を望まぬ政府の意向に依るものではないか、専門家の会見で政府が後手に回った印象を与える事態を回避しようとした結果が唐突な幕引きに繋がったのではないか等の意見も有るようだが。いずれにしても、此の国は科学者を遇するに礼を知らぬ。分科会は今月のうちに人選を済ませ、来月上旬の初会合の開催を目指す由。
6/28(日曜)
ジョンズ・ホプキンス大学の報告によると、世界全体で新型コロナウイルスによる死者は49万人を超え、アメリカでは感染者の合計が250万人を上回った由。南部や西部の州の状況は深刻で、特に南部のフロリダ州では27日の新規感染者が過去最多の9585人に到達。
もう一つの超大国で本日、保健当局が北京から140~150kmほど離れた河北省安新県を「完全に封じ込めて規制下に置く」と発表。本年諸島に武漢市で実施されたのと同様、lockdownの措置が講じられる事態となった模様。安新県の防疫対策委員会が定める所によると、食料品や医薬品等の必需品を購入する為の外出許可は各家庭から1人かつ1日1回のみで、同県に入る車両の通行は認められず、特別に許可された者以外は県外へ出る事も出来ない。これより前に北京では過去24時間に14人の新規感染者が報告されており、6月後半の感染者数が合計311人に増加していた事、今回の流行が最初に確認された新発地という北京の食品卸売市場に安新県の複数の事業者が淡水魚を出荷していた事等の背景が存在したと国営新華社通信は報じている。
人民日報系の環球時報によると安新県では12人前後の感染が確認されており、うち11人は市場の感染者との事だが、其処で行われている封鎖措置は300人を超す感染者を出した北京より遥かに厳しい。中国当局は首都の全面封鎖を回避しつつ、迅速な検査で感染拡大を抑え、混乱を最小限に留めようと努力しているそうだが成功するかどうか。ブラジルやロシアの感染者も未だ減らず、世界的にも予断を許さぬ状況が続く。