令和2年8月第2週
8月3日(月曜)
本日に全国で新たに959人が確認され、クルーズ船内発生を含めた国内の新型コロナウイルス感染者数は4万868人に到達した旨の報道有り。国内初の感染者が出たのは1月16日で、1万人超を記録したのは3ヶ月後の4月16日。7月4日に2万人を上回る迄には2ヶ月半を要したが、其処から21日後の7月25日には3万人を突破し、4万人超となったのは僅か9日後。感染者が1万人増加する速度は、当初に比して10倍へ上昇した事になる。
感染者は先月に急増したが、東京・大阪・愛知等の都市圏のみならず、沖縄県や鹿児島県など地方でも増加。東京都では本日に258人の新規感染。7日連続で一日当たりの感染者が200人を超え、20~30代が170人で6割以上を占めるものの、増加傾向にある40~50代が約2割と増加傾向を示し、重症化のリスクが高い60代以上も約1割と幅広い年代に於ける感染を確認。
特に感染者が相次ぐ「夜の街」での感染拡大に対し、先月19日の時点で菅義偉官房長官が「ホストクラブやキャバクラには風営法で立ち入りできる」と発言。小池都知事からも要請を受け、警視庁は24日夜に新宿歌舞伎町と池袋駅周辺にあるホストクラブやキャバクラに立ち入り、同行した都職員が感染予防策の徹底を呼び掛けたが、警察関係者や弁護士からは「風営法は立入調査の根拠にならないのでは」「新型コロナ対策を実施しているかの確認は目的外だ」等の異論も出た由。
そんな年でも盆は来る。盆休みの帰省を巡り、8月2日の会見で経済再生担当大臣と新型コロナ対策担当大臣を兼務する西村康稔氏は「慎重に考えないといけないのではないか」と発言。しかし、官房長官の菅氏は翌3日に「県を跨ぐ移動について国として一律に控えて欲しいと言っている訳ではない」、「帰省に関する注意事項について専門家の意見を聞く」と語った。経済を回したい気持ちも分からぬでは無いが、そんな事を言って居られる場合では無かろう。
8月4日(火曜)
本日昼に大阪府と大阪市、大阪はびきの医療センターが共同会見。大阪府知事の吉村洋文氏が「嘘みたいな本当の話、嘘みたいな真面目話をさせて頂きたい」と前置きして、「うがい薬を使って、コロナに効くのではないかという研究が出た」と報道陣の前で語った由。
医療センターに依ると、宿泊療養施設の患者41人を対象にポビドンヨードの入った含嗽薬で1日4回の漱をする群と漱がない群に分け、毎日唾液を採取してPCR検査を実施。その結果、前者は後者に比して唾液中のウイルスが大きく低下した、との事。大阪はびきの医療センター・松山晃文次世代創薬創生センター長が「体全体をポビドンヨードで消毒出来る訳では無い」、「患者さんを治す訳では無いのかも知れない」と断りつつも「口の中のウイルスが減る事によって人に移しにくくなる」「肺炎が起こりにくくなれば、重症化が抑制されるだろう」と主張。
吉村知事が「何も無い今の状態を考えると、リスクの高い方は是非、此の嗽をして頂きたい」と呼び掛けた結果、「不必要な買い占めとかは是非止めて頂きたい」との補足も虚しく、会見後にドラッグストアなどの販売店に客が殺到。瞬く間にポピドンヨード含有のイソジン等が売り切れた旨のtwitter投稿が相次ぎ、15時代台の楽天市場もポビドンヨード含嗽薬が上位を独占。
水道水を用いた嗽との比較も無ければ、対象の人数も少ない中での結果。研究者の間ではpilot studyと呼ばれる予備的な調査に過ぎず、此の段階で期待通りの結果を得た所で何が言える訳でも無い事は専門家なら重々承知の筈だが。科学研究に無知な知事が先走ったか、研究者が知事に阿ったか。最終的に役立つ成果が出れば全て良しと言えなくも無いが、個人的には然程期待出来ぬ話と感じた。
8月5日(水曜)
8月1日の時点で津市在住の三重大学学生1名がPCR 検査で陽性と判定され、新型コロナウイルス感染が判明。翌2日に新たに学生9名、3日に5名、4日に7名と日を追う毎に人数が増加し、「三重大学で集団感染が発生」と報道されるに至った。
当該学生達の行動が検証された結果、前月23~24日の時点で感染が確認されていない者も含む13名で和歌山県を訪問しており、此処で感染した可能性大。津へ戻った感染者が他の学生宅を訪問、三重県内で学生同士がゴルフに興じる、複数名の学生が飲食を共にする等により、更に感染が拡大した模様。
8月6日(木曜)
Johns Hopkins 大学の資料に基づく先月下旬の報告によると、100万人当たりの死者数は米国400人超、英国700人前後に対し、日本はクルーズ船を除けば8人強、韓国6人弱、中国3人強と数字の桁が変わる程に各国の差が大きい。日本の死者が少ない理由について、公衆衛生学を専門とする国際医療福祉大学教授の高橋泰氏は「亜細亜人は自然免疫力が欧米人より強い」「重症化しやすい高齢者のウイルス曝露が少なかった」「清潔好きな生活習慣」「優れた医療制度」の四要因を仮定。
更に氏は「毒性が強く、多くの人が自然免疫では克服できない」インフルエンザウイルスとは異なり、そもそも新型コロナウイルスは「伝染力は強いが、感染力も毒性も弱いウイルス」だと説く。此の定義に基づいて感染を曝露無しのstage0から死亡のstage6に至る7段階に分け、「独自のシミュレーション」を行った所、新型コロナウイルスに曝露した者の98%は自然免疫によって「自覚がないまま無症状か軽い風邪のような症状で終わる」事になり、酷い風邪症状等を呈するのは残り2%のみ。免疫の暴走した"cytokine storm"から重症化に至るのは極めて少数に留まり、年代別に見ると30歳未満では10万人中5人、30~59歳で30人、60~69歳で150人、70歳以上で300人程度だと推定された由。
幾つもの仮定に基づく推計で信頼性は不明だが、高橋教授は自身の分析に基づき、政府や自治体は「2%のリスク層」に重点を置いた対策を講じ、年齢に拠るリスク差を考慮して対応すべきだと提案した模様。
8月7日(金曜)
何故、国毎に死亡者数の大きな隔たりが有るのか。何故、日本は死亡者が少ないのか。此等の問いに対し、京都大学大学院医学研究科の上久保靖彦特定教授と吉備国際大学の高橋淳教授らの研究グループは「日本人は新型コロナウイルスの免疫を有していた為に死者数を抑え込む事が出来た」という研究内容を以て回答とした。
彼等の研究に依れば、新型コロナウイルスには最初に発生したS型。其れが変異したK型。更に変異して感染力の強化されたG型の3型が存在し、更にG型は、武漢G型と欧米G型に分けられる。日本では今年、インフルエンザの感染者が少なかったが、巷間言われる「新型コロナウイルス対策がインフルエンザにも有効だった」との要因のみならず、実は「日本人が早期に新型コロナウイルスに感染していた為、インフルエンザに罹らずに済んだのだ」と上久保教授らは主張する。
或るウイルスの増殖が先に感染した他のウイルスにより阻止される事を「ウイルス干渉」又は「ウイルス競合」等と呼ぶが、此の現象はインフルエンザウイルスと新型コロナウイルスの間にも成立する由。先駆け(sakigake)で在る事から命名されたS型は無症候性も多い弱毒ウイルスで、インフルエンザに対するウイルス干渉も弱かったが、S型から変異したK型も無症候性から軽症だったため、監視の目から免れて中国で蔓延。我が国にもインフルエンザ流行曲線が大きく欠ける(kakeru)程に此の型の流入が認められたため、K型と名付けられた由。
武漢に於いて更に変異した武漢G型(typeG, global)は重症の肺炎を起こす為に中国で問題となり、1月23日に武漢は閉鎖されたが、その直前に500万人が市外へ流出したと同市市長が語っているとの情報も有る。一方、上海で変異したG型はイタリアに広がり、次いで欧州全土及び米国で感染が流行したが、此れを欧米G型と呼称する模様。日本政府が当初、武漢発に限定した入国制限を行った結果、まずS型とK型が武漢以外の中国全土から日本に流入、国内で蔓延。やがて武漢で猛威を振るったG型が日本に上陸するも、其の時点で既に日本人の多くは新型コロナウイルスの免疫を獲得していたのだ、と上久保氏は主張する。
ただし、氏の見解に拠るとG型ウイルスはK型より感染力が強く、集団の80.9%に当たる人々が感染を経験して免疫を持たなければ、G型に対する集団免疫が成立しない。しかし、K型に対する集団免疫が成立した段階では集団の54.5%しか免疫を持っていなかった為、差し引き26.4%に於いて新たに感染が生じ得る。K型で集団免疫が成立していたにも関わらず、日本に流行が起こったのは此の為で「矛盾では無い」と氏は言う。数値の根拠に関しては、原著論文には記載されているのかも知れぬが未読。
対して欧米諸国は中国からの渡航を2月初旬より全面的に制限したため、K型の流入は大幅に防がれたが、渡航制限の無かった時期に広がったS型はかなり欧米に蔓延した。実は、S型に対する免疫はG型の感染を予防する能力が乏しい反面、S型に対する抗体は「抗体依存性免疫増強の効果を有する」と推測されている由。ウイルス型の命名基準に違和感を覚えつつ、些か噺が長引いたので、明日に続く。
8月8日(土曜)
昨日の続き。抗体依存性免疫増強(Antibody-Dependent Enhancement:ADE)とは、ワクチンや過去の感染に依って生物が抗体を獲得したにも関わらず、対象のウイルス若しくは類似のウイルスに感染した際に其の抗体が感染を増強する方向に働き、症状が重篤化する現象を指す。新型コロナウイルス感染に関しては、ADEとsuper spreaderとの関連も想定されている模様。
獲得免疫が逆に有害となるため、一部報道では「悪玉抗体」と呼ばれる事も有ったそうだが、欧米では前述の如くK型への細胞性免疫による感染予防が起こらなかった所にS型への抗体によるADEが重なり、G型感染の重症化が起こって致死率が上昇したと考えられる、と上久保氏は言う。ADEが欧米の新型コロナウイルス患者の死亡率を高めたとすれば、其処から「重症化のリスクが高い患者は妊婦、妊婦から抗体を受け取る新生児、免疫系の発達が未熟な幼児、免疫系が衰えた高齢者だ」と推測出来る、という事も氏は述べているが、此れは感染症一般に通じる話かも知れぬ。
またK型既感染者はT細胞免疫が誘導されてG型の感染を予防する為にG型ウイルスが体内に入りこめず、G型の抗体は出来ない可能性が高い為、日本人の50%強は武漢G、欧米G型への抗体を持っていないと推量される。我が国に於ける診断には「K型感染から獲得されたT細胞免疫を評価する為のCD4陽性T細胞の検査」と「適正なcutoff valueを設定された抗体キットの検査」を組み合わせた評価が必要と研究グループは言及している。
5月以前から上久保靖彦氏は上述の内容を主張されて来たが、更に先月27日、免疫学の権威として知られる順天堂大学医学部・免疫学特任教授の奥村康氏と共に都内で緊急会見を開催。新型コロナウイルス第2波の到来を真っ向から否定。会見の中で上久保氏は「免疫が無ければ感染するし、免疫が有れば感染しない」「人との距離を離したからといって唾が飛ばないと云う訳では無い」、「密とかそういう事は、実は全く関係の無い話だ」と語り、欧州の人口100万人当たりの新型コロナウイルス死者数が記された統計図表も提示。「各国順番に感染が来て、或る時、必ず落ちていく」「急激に死者曲線が終息に入る」、「山の高さは変わるけれど、曲線の形態は必ず同じ」「ロックダウンや行動制限によって終息したと言うよりも皆、同じ形で、或る段階で突然のように死者数が急激に減少する」、「集団免疫が達さないと終息する事は無い」「このデータはその証拠である」と説明した由。
氏が何と言おうとも感染者数の推移を見る限り、既に第二波は到来していると解するのが妥当だろうし、主張を全て鵜呑みには出来ない。耳を傾けるべき意見だとは思うが、主張の前提とされる「広島県ではS型、K型に全ての人が暴露された」「フィリピンではS型、K型には暴露されず、G型に全ての人が暴露された」等の記述が既に事実と異なる、各県の陽性率や致死率等を用いた計算結果から結論を出しているが、其の計算結果を実験等で実証していない等の批判も目にした。偶然かも知れぬが経済優先の政府方針とは相性の良い説で在り、youtubeやテレビにも出演して語られた上久保氏の主張を好意的に受け止める視聴者も多かった模様。
話題は変わるが、先月末の時点で香港政府の林鄭月娥行政長官が、新型コロナウイルスの感染拡大を理由に「来月6日に予定していた立法会の議員選挙を1年間延期する」と発表。しかし、立法会議員の任期は来月末で終わる予定で、立法会の審議に空白期間が生じる事が懸念されていた。
中国本土では、本日に全国人民代表大会の常務委員会が開始。11日迄の会期中に、香港の選挙延期に対して現任議員の任期延長等が審議される模様。其の一方で、選挙延期に先立って選挙管理当局から立候補を取り消された民主派の現職議員4人については「任期の延長は認められず、立法会から排除される」事が予想されるとの報道有り。COVID-19に揺るがされ、中国政府に吹き消されようとする香港の灯火よ。
8月9日(日曜)
東京都は昨日、都内の新規感染者429人を確認したと発表。一日当たりの感染者は二日連続で400人を超え、200人超は12日連続。これで都内で感染者累計は1万5536人となる由。患者の年齢は10歳未満から90代までと多岐に渡るが、そのうち20代と30代の合計は274人で、およそ64%を占める。
36%に相当する156人は過去に感染が確認された者の濃厚接触者だが、残りの273人、約64%は現時点で感染経路が不明。濃厚接触から陽性となった者のうち、最も多かったのは家庭内感染で43人。その他の内訳は職場内と会食による感染が各々21人、医療機関や学校等の施設内が14人、その他が31人。会食による感染では「参加した6人全員が陽性となった」例が有り、施設内では「大学の運動部の寮で部員3人が感染した」例も有る模様。スナックやホストクラブ、キャバクラ店等、夜間営業の「接待を伴う飲食店」関係者は合計26人。昨日の時点で入院患者は1509人となり、都が正確な人数を把握・公表するようになった5月12日以降で最多。昨日に死亡が確認された者は居ないが、重症患者は一昨日より2人増えて25人。
都は重症患者向けの病床100床を含め、都内に2400床を確保した上で今後は2800床まで増やす事を目指し、更に9月から10月に掛けて専用病院を二箇所開設して、200床を確保すると宣言。自宅療養者は昨日より55人増えて532人。都が確保している六箇所の宿泊施設で療養している軽症及び無症状者は一昨日より13人増えて428人だが、入院と宿泊施設や自宅での療養のどちらにするか調整中の者は一昨日より79人増えて1125人。既に退院した者や自宅療養を終えた者は1万1609人。更に都は今月中、二箇所の宿泊施設を確保する予定。担当者は「夏休みで家族が一緒にいる時間が長くなっている」所為か、「家庭内でまとまった人数が感染してしまう例が相次いでいる」傾向が見られると警告した由。
地球の裏側に目を転じると、ブラジル保健省は昨日に「累計感染者が301万2412人、死者は10万477人」となった旨を報告。一日のうちに感染者数は4万9970人、死者数は905人増える一方で、回復者は約210万人に達した由。ボルソナロ大統領は三日前のネット演説で「我々は全ての死を悼む」と表明する一方で「前に進もう」「此の問題から脱する方法を探そう」と国民に呼び掛けた由。大統領自身が先月の感染から回復して25日から通常の公務に復帰するも、直後にミシェリ夫人が新型コロナウイルス検査で陽性となる等、同国の感染拡大に未だ終わりは見えないが、一日の感染者数が7万人近かった先月末より減って来た模様。
上久保氏説に従えば、此等の情勢も「G型ウイルスに対して各国の国民が集団免疫を獲得するまでの一里塚に過ぎぬ」と云う事になるのだろうか。