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令和コロナ騒動実録  作者: 澤村桐蜂
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令和2年7月第2週

7/6(月曜)

 一昨日にアメリカは独立記念日を迎えたが、感染予防の為に市長が外出自粛を呼び掛け、例年に比べてWashington, D.C中心部で恒例の花火を観覧する市民の数も激減。

 その一方で同市の中心に(そび)え立つthe White Houseでは祝賀行事が強行され、上空に戦闘機が飛ぶ等の愛国心を(あお)る演出と共に、トランプ大統領が登場。social distancingを(おもんぱか)る事無しに配置された席に座った招待客に向けて政治色の強い演説を行い、米国内でも感染者数が280万人を超えた新型コロナウイルスに関して「4000万人近くに検査を実施」して「99%は無害であることを示せた」と発言した由。

 またトランプ氏は黒人差別への抗議デモで続く銅像や記念碑の破壊・撤去に対して「歴史の抹消は許さない」、「過激左翼やマルクス主義者、無政府主義者らを倒す戦いだ」等と主張。自身が米国の英雄と考える人々の銅像を多数展示する国立庭園を建設する計画にも言及したが、英雄候補には同氏の支持基盤であるキリスト教福音派の指導者、故ビリー・グラハム氏も含まれる模様。


7/7(火曜)

 昨日に豪州・クイーンズランド工科大学のLidia Morawska氏と米国・メリーランド大学のDonald K. Milton氏の両名が、英国・オックスフォード大学の学術誌"Clinical Infectious Diseases"にて"It is Time to Address Airborne Transmission of COVID-19"なる書簡を発表。WHO等に対して「新型コロナウイルスは微液滴(microdroplets)という非常に小さい微粒子になり、2メートルを超える距離でも空気感染する可能性が有る」「この認識に応じて感染防止策を見直すべきだ」と訴え、世界各国の科学者239人が連名で賛意を示した由。

 科学者達は「ウイルスは呼気・会話・咳嗽の間に放出され、微液滴となる」が「十分に小さい微液滴は空気中に留まり」、「感染者から1mから2mまでを越える距離でも暴露のリスクをもたらす」、「例えば、典型的な屋内空気速度(typical indoor air velocities)に()いて、5μm小滴は高さ1.5mから床へ落下する間に数十メートルの距離を移動する」「これは一般的な部屋の大きさを遥かに超える」等が合理的疑いの余地無く証明されていると述べた上で、これが新型コロナウイルスについても当てはまる事が「複数の感染事例の分析で示された」旨を、中国のレストランで発生した二次感染等の実例を挙げて主張。「微液滴(microdroplets)」の用語は、過去の報道で「エアロゾル(aerosol)」と呼称されたものと概ね同義か。

 WHOや各国の公衆衛生当局が新型コロナウイルスの感染対策として「手洗い」や「社会的距離の維持」で咳の飛沫を避ける事等に主眼を置いて来た事に関して、科学者達は「そのような対応では微液滴からの保護には不十分だ」と批判し、三項目の提言を行った。()の一、「十分で効果的な換気を提供し、清潔な外気を供給し、空気の再循環を最小限にせよ」「特に公立の建物、職場環境、学校、病院、および老人ケアホームに於いて」。其の二、「全体換気と併用せよ、局所排気装置、高効率の空気濾過および殺菌用紫外線のような空気感染制御法を」。其の三、「過密を避けよ、特に公共の交通機関や建築物では」。

 科学者達が「建物の複数のドアや窓を開けるだけで、空気の流れが劇的に改善する」が「空気感染を想定しない現在のガイドラインのままでは重大な結果が生じるだろう」、「この声明に()って『新型コロナウイルスには空気感染の危険があり、流行を少しでも食い止め、命を救うためには、これまでの予防措置に加えてさらなる感染防止策が必要だ』という認識が高まる事を望む」と訴えたのに対し、WHOが本日に記者会見。「新型コロナウイルスの主要な感染経路は飛沫感染と接触感染」との見解を維持しつつも「屋内の人が密集した環境において空気感染の可能性が除外できない集団感染事例が報告されている」と認め、人が密集した換気の悪い密閉空間を避ける事や換気、適切な消毒が重要と発表した由。


7/8(水曜)

 数日前から西日本を中心に豪雨。九州で河川の氾濫や土砂崩れが続いた後、今日は岐阜県と長野県で大雨特別警報が発令。岐阜県下呂市では24時間雨量が観測史上1位の414ミリに達し、飛騨川が100メートルに渡って氾濫。県内9箇所で住民や温泉客等の2200人以上が孤立。長野県でも木曽川や犀川が氾濫危険水位を超え、北アルプス上高地へ通じる国道158号は松本市内3カ所で寸断。中部電力パワーグリッド長野支社によると、倒木等により午前11時時点で県内各地の約2390戸が停電。

 個人的にも先月に受けた院内健診の結果、遂に要精密検査を通告される。総コレステロールが基準値よりも(いささ)か高く、LDLコレステロール値が160超え。直前までステイホームや自粛でジムにも行けず、只管(ひたすら)に閑居して飲酒を為した所為(せい)も有りそうだが。(これ)(まさ)に医者の不養生。観念して循環器内科受診を手配する。(わざわい)去って禍また至ると言うが、コロナ()も去らぬ所に大難小難が重なるものだ。


7/9(木曜)

 東京都に於ける1日当たりの新型コロナウイルスの新規感染者数は、今月2日から連続して100人以上を記録。昨日は75人に減ったが、本日は224人に増加。都内の感染者数としては4月17日の206人を超え、過去最多となる由。当時の検査数は919件だったのに対して、今回は「3400件に上っている」との事。分母が異なるので、検査陽性者の人数だけで軽々に判断は出来ぬものの、想定より早い第二波の到来も危惧される状況有り。

 小池都知事が緊急の会見で「医療提供体制の警戒レベル上げた」「都の補正予算組んだ」等と語る一方で、菅官房長官は「直ちに再び緊急事態宣言を発出する状況に該当するとは考えていない」、イベント参加人数の制限緩和に関しても「感染防止策をしっかりと行った上で、10日に予定通り行う考えに変わりはない」と述べた模様。

 仕事帰りにジムへ。「来週末に首都で予定されている試合を如何(どう)したものやら」と愚痴る会長へ相槌を打つ合間に練習。


7/10(金曜)

 本日の定例記者会見で、小池百合子都知事が「都内で新型コロナウイルスの感染者が新たに243人確認された」旨を発表。昨日の224人を上回り、また過去最多を更新した由。発症までの日数を考えると、この時期に陽性者が増えるという事は、感染の多くが早くて先月末、恐らくは今月初めに起こった可能性大。

 新宿区等で感染者が増えていた状況に加えて、時は(あたか)も梅雨の真っ只中。窓を開ければ雨が降り込み、マスクも外したくなる時候が感染拡大に寄与したかと愚考したが。梅雨の被害は当方の身辺にも及び、借りていた個人向け倉庫の内部が蒸し風呂と化して、私の外套数着に黴が繁茂(はんも)。視察から戻った妻から告げられ、「空調完備を(うた)っていたから契約したのに」と悲憤慷慨(ひふんこうがい)


7/11(土曜)

 藤田医科大学を代表として全国47の医療機関で実施された「SARS-CoV2感染無症状・軽症患者におけるウイルス量低減効果の検討を目的としたファビピラビルの多施設非盲検ランダム化臨床試験」。最終結果の暫定的な解析結果に関して、昨日に報告有り。

 3月上旬から5月中旬までにCOVID-19患者89名が参加したが、無作為割付の後に不参加を希望した1名と研究開始の時点でウイルス消失済だった事が後日に判明した19名を除外。最終的に、通常投与群として初日からファビピラビル(商品名アビガン)を内服する群は36名、6日目から内服する遅延投与群は33名で評価。通常投与群では遅延投与群に比して早期にウイルスの消失や解熱に至りやすい傾向が見られたものの、統計的有意差には達しなかった模様。この結論をアビガン無効と読めるような論調で報じた向きも有った様だが、そもそも「対象が無症状・軽症患者のため自然回復との差異が少ない」「三十数名ずつと被験者数が足りない」等の限界が有り、確たる事は言い難い気もする。参加中に重症化または死亡の症例無し。

 これに対して、今月6日から開催された23rd International AIDS Conferenceにてアメリカの製薬会社ギリアド・サイエンシズが、新型コロナウイルス感染症治療薬としてのレムデシビルに関する第3相治験の分析結果等を発表。「レムデシビルを投与された患者の74.4%は14日目までに回復したが、標準的な治療を受けた患者は59%の回復に留まる」「レムデシビル投与群の死亡率は14日目で7.6%で、非投薬群の死亡率は12.5%」「小児患者の83%、妊娠中や産後かつ重症の疾患を抱える女性患者の92%が28日目までに回復」等の報告により、ギリアドの株価が一時2.7%上昇。

 二件の報道が相次いだのは、治療薬に関する競争が激化している情勢を示唆するものか。沖縄県内の米軍基地で本日までに60人超の新型コロナウイルス感染が確認された旨、複数の関係者が明らかにした由。「うち38人は普天間飛行場で確認され、基地内で集団感染が発生しているとみられる」「先月と今月に県内中部で大規模なbarbecue party が催され、米軍関係者や日本人も参加していた」等の情報有り。


7/12(日曜)

 ノーベル生理学・医学賞受賞者で現在は京大の高等研究院副研究院長・特別教授を務める本庶(ほんじょ)(たすく)氏によると、新型コロナウイルス予防に()いて「ワクチンへの過度な期待は禁物」である由。

 昨日付で週刊紙のデジタル版への寄稿。「そもそもDNAではなくRNAを遺伝子に持つRNAウイルスの場合、効果的なワクチンを作るのは難しい」とし、実例として「世界的富豪ビル・ゲイツが途轍も無い大金を投じた財団も、新型コロナと同じくRNAウイルスであるHIVワクチンの開発に未だ成功していない」事を指摘。「一重螺旋構造のRNAは二重螺旋のDNAよりも構造が不安定で、遺伝子が変異しやすい」、「インフルエンザのワクチンを打っても効かぬ事が多いのは、流行の間にウイルスの遺伝子が変異する為だが、新型コロナも同じ」等の見解が述べられた。

 更に「ワクチンには副作用の問題が伴う」「順調に見えた開発に臨床上の副作用が発生、一転して失敗に終わり、膨大な費用が回収出来なくなる例も枚挙に暇がない」、「そのような不利益を考慮しても、一種の社会防衛としてワクチンの開発自体は行うべき」だが「ワクチンの有効性を評価するには本来、数千人の健常者を集めて投与群と非投与群とに分け、双方の感染率を比べなければならぬ」、「このような規模の比較試験を、感染者数の少ない現在の日本で行うのは至難」だと主張。「国内で開発、治験を行う」との情報を発信している団体に対しては「あまりに現実離れした話」と痛烈に批判。明言はしていないものの、恐らくは先月30日の項に記したアンジェス社のワクチン開発を指すか。

 本庶氏の結論としては「当面はワクチン開発よりも、治療薬の活用に期待すべき」と()う辺りに落ち着く模様。氏は「オプジーボ」特許の対価を巡って小野薬品工業と係争中で、この一文の冒頭にも「小野への憤り」に関する記述有り。製薬会社全般への不信感が判断に影響していないかとの懸念は若干有るものの、総じて言えば、大いに傾聴すべき意見と感じた。氏、憂慮して(いわ)く「日本の政治家や行政を見る限り、生命科学や医学に対する過大な期待と理解不足があるような気がしてならない」。

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