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令和コロナ騒動実録  作者: 澤村桐蜂
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令和2年6月最終週~同年7月第1週

6/29(月曜)

 当時の報道に基づき、先月28日の項には「国家安全法」との表記を用いたが。昨日から3日間の日程で開催されている全国人民代表大会の常務委員会に「香港国家安全維持法案」最終案が提出され、明日の採決で可決・成立する見込み。

 同法案は「香港に中国の治安機関を設ける」事を定めると共に「国の分裂や政権の転覆、外国の勢力と結託して国家の安全に危害を加える行為等」を犯罪と規定し、刑事責任を問うものとされている。しかし、アメリカと香港の法律専門家チーム「NPCオブザーバー」の分析では、この法案には曖昧な表現が多用されている由。第29条「外国人と共謀して中国中央政府あるいは香港当局への憎悪を誘発する行為は犯罪とみなされる可能性がある」、第55条「中国大陸側の保安当局者に対し、複雑で深刻、或いは難解な国家安全保障事件の一部を調査する権限を与える」等が、当局の恣意的(しいてき)運用に(つな)がり(やす)いと懸念されている。

 複数の人権団体が「新法では被告人の保護が損なわれる」と訴えているのは、非公開の裁判や陪審員の居ない裁判が行われる可能性が有る事、容疑者は保釈されず拘束期間の制限も無い事、捜査から判決、処罰に至るまでの全てを中国大陸の当局が引き継げる事等の規定が法案に盛り込まれている為だ。更に海外の外国人が逮捕される場合や香港に居住していない外国人が起訴される可能性も有るようで、高度の自治を標榜(ひょうぼう)して来た香港の一国二制度も壊滅的打撃を避けられまい。法案が成立すれば、23年目の返還記念日である7月1日に施行される可能性大。


6/30(火曜)

 大阪大学の研究者が設立したバイオベンチャー企業、アンジェスが本日、新型コロナウイルス向けワクチンの治験を開始。大阪大学と共同開発されたワクチンは3月から動物に投与され、マウスとラットで抗体価の上昇を確認済。国内で臨床試験を行う初めての対COVID-19ワクチンとなる模様。

 ウイルスの表面に存在し、感染の足掛かりとなるスパイク蛋白質。この遺伝子を導入したプラスミドを接種すると体内にスパイク蛋白質が出現、それに対して抗体が作られ、免疫に寄与するという仕組み。本来のプラスミドは大腸菌や酵母の核外に存在する環状のDNA分子だが、特定の遺伝情報を別の細胞に組み込む為の運び屋として、遺伝子工学の領域で汎用されるものである。大阪市立大学医学部附属病院で行われる臨床試験では、20~65歳の健康成人30人をワクチン投与量の多い群と少ない群の15人ずつに分け、2回ずつ接種を行う事になっているが、まず本日に1名の接種を済ませた由。副作用や体内に抗体ができるかどうかを調べた後は、今秋以降に治験を数百人規模に広げる予定との事。

 不活化ウイルスを用いる弱毒ワクチンとは異なり、病原体そのものを使用しないDNAワクチンは安全性が高くて特殊な設備が()らず、短期間の大量製造にも向いている。ワクチン製造に協力したタカラバイオ社からは「年内に20万人分を供給する体制を確保した」旨の宣言有り。WHO情報によると、6月24日時点で臨床試験に入ったワクチンは米中英等の各国で合計16種類。国内でも塩野義製薬やKMバイオロジクス等の製薬企業が別のタイプのワクチン開発を進めているそうだが。向こうのお山の(ふもと)まで、どちらが先に駆け付くか。


7/1(水曜)

 新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)に対し、東京ディズニーランドと東京ディズニーシーは2月29日から休園。6月19日に大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンが再開した後も沈黙を守っていたが、満を持して本日に営業を再開した由。

 今後は政府の「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」を踏まえて作成された「遊園地・テーマパークにおける新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」に沿った対策を講じつつ、「ゲストの皆さまとキャストの健康と安全の確保を最優先に運営」。入園者数及び各施設に於ける利用人数の制限、定期的な拭き上げ、ソーシャルディスタンスを確保する為のの積極的な声かけ等を徹底し、チケット購入時に「代表者の情報をご入力いただく」事で感染拡大の抑制にも努める旨の声明有り。


7/2(木曜)

 一昨日に開催された第31回の東京都新型コロナウイルス感染症対策本部会議。都内の「感染状況」と「医療提供体制」を二本柱としつつ、7つのモニタリング項目を設定した由。

 感染状況の新指標は「新たな感染者数」「東京消防庁の電話相談窓口に寄せられた発熱などの相談件数」「新たな感染者のうち、感染経路がわからない人の数と増加比率」の3項目で、いずれも1週間の平均から算出。医療体制に関しては「PCR検査と抗原検査の陽性率」、「救急医療の『東京ルール』の適用件数」、「入院患者の数」、「重症患者の数」の4項目。「東京ルール」の適用件数とは、複数の医療機関に救急患者の受入を要請して搬送先が見つからなかった件や搬送先決定に時間を要した件の数を指し、陽性率と共に1週間の平均から算出する模様。

 各々の項目そのものは(おおむ)ね妥当な様に思われるが、7項目の情報が医師を含む専門家に()って分析され、更にモニタリング会議で評価された後、都の対応が決定するとの運用で、具体的な数値基準の提示無し。

 前月に厚生労働省が「人口10万人あたりの新たな患者数が1週間の平均で2.5人を超えた日」を基準に自粛要請等を行う旨の指標を各都道府県に提示してから、東京都の新規感染者数は29日までに週平均2.61人へ到達。既に厚生労働省が示した「基準日」を迎えている状況で数値目標を欠いた新指標が策定された事に懸念の声も上がる中、7月1日から試験的運用が開始されるとの事。


7/3(金曜)

 午前の外来を終えて、医局に戻る。正午が近づくと廊下に製薬各社から遣わされた医薬情報担当者、(すなわ)ちmedical representative、略称MRの旧名プロパーと呼ばれた者達が列を為すのは日常の光景だったが。コロナ()襲来と共に彼等の姿が消えてから何ヵ月も経つ。院内メールで「業者からの面談依頼は原則禁止」「必要な場合の来院を禁止するものではないが、基本はWEBによる面会」との通達も出たが、それよりも製薬会社側が自粛する方が早かった様に思う。

 インターネットで調べると、医薬情報の提供と副作用情報の収集がMRの重要な任務とされており、()れは()れで事実なのだろう。彼等には彼等の立場が有るのは分かるし、副作用情報を調べて貰った事も有り、親しく軽口を叩き合う関係のMRさんも過去には居たが。総じて言えば、やはり「MRは営業の人」という一語に尽きる。外来から疲れて帰って来た時や午後の業務を早く再開したい時に「先生、先生」と寄って来ては、要約すると「今後ともウチの薬を宜しく」で終わる話をされるのは有り難いとは言えないし、彼等の案内してくれる講演は全て製薬会社の意に沿ったもので、biasが掛かった情報だと思わなくてはならない。各社が多数のMRを雇用している現状が日本の薬価高騰にも幾らか影響していると()う話も有り、コロナ()の前後で医薬品営業が大きく変貌する事は必至と思われる。

 何はともあれ、弁当を食べ終えて寛いでいると、風の噂で「何やら書類を整えて某部署に提出し、彼是(かれこれ)の登録を済ませれば医局でもWi-Fi使用可能」という話を耳にする。以前から通信状況が不安定で、コロナ情報の検索にも日々苦労していた状況あり。医局秘書から書式を貰い、診療を終えた後の空き時間に申請完了。これで執筆も(はかど)ると良いが。


7/4(土曜)

 本州全土で雨。(こと)に熊本県と鹿児島県では記録的な豪雨となり、球磨川(くまがわ)氾濫(はんらん)で特別養護老人ホームが水没。15人が心配停止に陥った由。然程(さほど)の被害は無いものの、当地も朝から降ったり止んだり。五月雨(さみだれ)式とは良く言ったものだ。

 雨のせいか月の(さわ)りかは知らぬが、妻の御機嫌が(うるわ)しくない。夕餉(ゆうげ)の買い物は一緒に行くと言うが、助手席へ座っても黙秘を貫く妻に支配された車内の空気は(いわお)の如き重量を備え、迫り来る圧死の危機。自力で浮かび上がって来てくれるまでは何を言っても無駄である事は熟知しているので、此方(こちら)は音楽でも聴いて運転に専念しよう。気分に合わせて選曲した高橋竹山「津軽三味線組曲」が流れ出すと、幾らか楽になった。


7/5(日曜)

 6月中旬から下旬に東京都の新規感染者数は1日当たり50人日程度で推移したが、7月2日以降は3日連続で100人超。数値的には、緊急事態宣言が出される直前に匹敵する。新宿区にあるPCR検査スポットでは1日100-140件程度のPCR検査を行って来たが、6月22日以降の1週間平均で陽性率22.5%と前週より5 percentage points以上の増加を認めた。

 忽那(くつな)賢志(さとし)氏に()ると都内の医療機関は現時点で第一波の時よりは余裕を保っており、「若年で軽症の感染者が多く、ホテル等での経過観察が可能」「 新型コロナ患者を診療する医療機関が増えた」「入院期間が発症から最短10日に短縮された」等の要因が考えられる由。しかし、「特に新宿区内の若い世代では蔓延と言っても良いくらい」に感染は広がって居て、他の症状を訴えて受診した患者が偶発的に新型コロナウイルス感染と診断される例も増えていて、現状のまま推移すれば「医療機関は徐々に逼迫(ひっぱく)」する事が予想される。

 この状況下で本日、任期満了に伴う東京都知事選の投開票。歴代最多の22人が立候補するも大方の予想通り、無所属現職の小池(こいけ)百合子(ゆりこ)氏が元日弁連会長の宇都宮(うつのみや)健児(けんじ)氏、れいわ新選組代表の山本(やまもと)太郎(たろう)氏やNHKから国民を守る党党首の立花(たちばな)孝志(たかし)氏他を大差で破り、再選された由。投票率は55.00%で、前回より4.73 percentage pointsの低下。

 小池氏は3密を避けるため街頭演説や集会は開催せず、メッセージ動画配信等の「オンライン選挙」で実績を強調。立憲民主党他の国政野党が統一候補の擁立を狙うも実現せず、宇都宮氏を立憲・共産・社民の三党が支援。告示直前にれいわ公認での出馬を決めた山本氏は全都民への十万円給付や東京五輪中止を掲げるも、野党票の分散を招く結果となった、と報道されてはいるが。得票数を見れば小池氏が歴代2位の366万1371票に対して、宇都宮氏84万4151票と山本氏65万7277票を合わせても勝負にならないのが現実だ。本日に都内で確認された新規感染者数は111人で、4日連続の100人超え。

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