華は人知れず散る
残月は黒に染まるホワイトハウスを後にして、しばし歩くとその青い髪の少女を見る。
「……来たか」
彼女を見て、残月は笑う。
この世界では恐らく、残月こそが最強だろう。
遥か過去に天に縛られ、未来永劫を生きる彼を倒すには天も何もない空間で死亡させる他にない。
彼に死を与える様な存在はこの世界では現れぬものだと思っていた。
ーー彼女を見るまでは。
その少女は優しく微笑むと残月に手を差し伸べる。
その手に残月が触れた瞬間、彼は無へと帰される。
「お休みなさい、天に縛られたかつて善人だった悪人さん」
少女は静かにそう呟くと何もない空間にデコピンする。
すると空間が割れ、そこからユイが落ちて来る。
「いって!」
「こんにちは、ユイさん」
少女は笑顔で尻餅をつくユイに挨拶した。
「なんだ?もう三千年も経ったって訳じゃないよな?」
「ううん。まだ数年しか経ってないよ。
それよりもユイさんはキトラさんと戦わないといけないでしょ?」
「いや、待てよ。お前さんは一体何者だ?」
「見ての通り、ただの可愛い女の子だよ?
ちょっと宇宙って存在より長生きしてるけどね?」
青い髪の少女はそう言ってユイの横を過ぎ去る。
ユイが振り返った時には少女は初めからいなかったかの様に消えていた。
「……なんだったんだ?」
ーーー
ーー
ー
「ふむ。我が娘ながら美しいものだ」
杏雅は精神が崩壊して廃人となった自身の娘を水槽に入れ、芸術品でも見る様に眺め、次の画策の為に死の準備をしていた。
「こんにちは、杏雅さん」
その言葉に振り返った瞬間、杏雅と言う存在は消滅する。
「貴方はもう死ぬ事はない。そして、終わる事もない。
終わりがなくて、はじまらない無限の死を永劫に続けると良いよ」
少女はそう呟くと水槽に漂う杏雅の娘を見る。
次の瞬間、杏雅の娘を閉じ込めていた水槽が自然に割れ、ぐったりとする彼女に少女は近付く。
その足は浮いているのか、足音一つ、液体にすら触れず、床を歩いて行き、ぐったりとする杏雅の娘に優しく微笑む。
「貴女は自由だよ。あっちで皆が待っているからね?」
そう言って少女が杏雅の娘に触れると彼女もまた消えた。
「さてと、わざわざ、この世界を去った幽鬼楼さん達を追う必要もないだろうし、あとは境夜さんだけかな?」
少女はゆっくりと立ち上がりながら、まるで再び消える。
残されたのは主を失った部屋だけである。
ーーー
ーー
ー
境夜は天を仰ぎ、黒い天井を眺めていた。
「こんにちは、境夜さん」
その声に顔を正面に戻すと青い髪の少女の姿があった。
「なんですか、お前は?」
「貴方の物語を終わらせに来ました」
そう告げると少女はパチンと指を鳴らし、黒いホワイトハウスを頭上からゆっくりと消滅させて行く。
その力に境夜は驚くと同時にノイズが生じる。
ーーすまない。
その声が頭を過り、境夜は慌てて立ち上がり、少女から距離を取ろうとする。
しかし、その足は動かなかった。
否、存在してなかった。
「嫌だ!やめろ!俺はーー」
「全ては偽りの現実。役目を終えた貴方は白紙に戻る」
「やめろ!やめてくれ!消えたくない!」
「大願成就したんだから、思い残しはないでしょう?
あの人が生み出した存在の薄っぺらな境夜さん?」
泣き叫ぶ境夜に少女は静かに微笑む。
「悪い夢は終わりを迎える」
少女のその言葉を紡ぐと境夜の存在は消滅した。
「安心して貴方はどんなに薄っぺらで酷い人間でも存在してた事には変わりないから」
少女は静かにそう呟くとスキマと呼ばれる空間から此方を見ていた神々や妖怪に笑う。
「解っているって。もうこんな事しないよ。
せめてもの、慈悲じゃない?」
少女ーー護御霊カゲネコはそんな事を見透かす様に笑うと境界や次元を修復し、幻想郷と外の世界を元の姿へと戻す。
こうして、悪の華は誰に知られる事なく咲き、誰に知られる事なく散る。
この先も悪の存在がある限り、彼らの様な者が産まれるだろう。
しかし、必ずしも正義の味方が現れるとは限らない。
そう。全ては実験なのである。
悪人と呼ばれる存在が世界征服と言う願望を叶えた時ーー本当に支配に成功した時、そこから紡がれる物語は如何様になるかと言う私の実験。
ある意味、彼らの運命を弄ぶ私の様な者こそが悪人かも知れない。
私の名は陰猫(改)。
この様々な世界の悪人達を引き合わせ、そのラストを描く小説家である。
【完】
ぶっちゃけます。
護御霊カゲネコが実験している回で終わらせたつもりでした。
つまり、これ、意気投合して俺達の戦いはこれからだ、みたいな感じで終わる予定だったのです。
未完になっている状態になっているのに気付いたのはつい最近です。
変に期待されてた方がいたら、申し訳ない。
そして、カゲネコ。嫌な役目を押し付けて、ゴメン(;д; )
ーーと言う訳で悪華再臨はこれにて完結です。
また他の作品で会いましょう。
ではでは( ・ω・)ノシ