独裁者ひとり
それからは世界を闇が支配する混沌の世界と化す。
キトラの率いる軍団に境夜の起こす異変の再現で混乱する幻想郷。
残月による外の世界の大量殺戮と施設破壊、杏雅による自身の娘を使った幻想郷の重鎮の殺害、幽鬼楼の情報操作。
その全てがほぼ同時に起こり、外の世界との境界のバランスを保てずに幻想郷は現世に現れる事となる。
神々もこの様な展開を読めず、幻想郷の住人は混乱し、外の世界の常識の影響もあって次々と妖怪達が衰弱して消滅して行く。
そして、それから数年して幻想郷と言う存在は完全に消失し、世界は境夜達の物となった。
「終わって見れば、呆気ないものですね?」
ホワイトハウスを黒く塗った様な建物を日本の中心に建て、その玉座に座る境夜はそう呟くと隣に佇むキトラが笑みを浮かべる。
「全くだ。幻想郷も君が境界を操作して外の世界と同化させる。
外の世界へ出た事で幻想郷は見る間に衰退し、あとは残月さんの独壇場と化した。
加えて、あの狂人の娘の精神を壊して周囲の者を自滅させる手段も使い、重鎮を暗殺した。
最早、幻想郷にかつての勢いはない」
そう告げるとキトラは此方へ歩いて来る赤いマントを翻し、銀の鎧を纏う残月へと視線を移す。
「ただ、貴方にも幻想郷の重鎮達の暗殺をお願いした筈ですが、残月さん?」
「アレらは生かすに値する。だから、見逃してやっただけだ」
「八雲紫や博麗霊夢達を敢えて逃がしたと?」
キトラの言葉に残月は鼻で笑う。
「余の判断に何か不服か?」
「ええ。あの女達は生かして置いては厄介ではないですか。後々、反撃に転じて来られたら、どうするのですか?」
「貴様は解ってないな。そうでなくては生かして置く理由があるまい。
アレらはゴミの中でも一際、良い輝きを持つ物だからな。
抗う意思を見せる存在は貴重だ」
残月は境夜にそう言って彼らの前まで来るとこう尋ねた。
「それで?貴様達は次に何をする?」
「そうですね。幻想郷も消失し、世界を支配した現在、すべき事は殆どないでしょうか?
そろそろ、竜人の楽園の再建に着手でもしましょうかね?」
キトラはそう言って笑うと境夜に視線を戻す。
「君はどうするかね、境夜君?
この世界を支配し、幻想郷を壊滅させた今、君は何をするつもりだい?」
「そうですね。酒池肉林でもしましょうかね?
杏雅さんの様に精神崩壊するまで追い詰めるのも一興でしょう。
それかこの星が壊れるまで他国同士を争わせて見るのも面白いでしょう」
そう言った瞬間、境夜は背筋が凍りそうになった。
残月は冷ややかに此方を見下ろしていたからである。
残月だけではない。キトラも残念そうに境夜を見詰めていた。
「貴様も所詮、この星を汚すゴミか……」
「何度も言わせないでくれないか、境夜君。その趣味は少々、低能過ぎる。
此処まで共に歩んで来たが、そろそろ見限らせて貰うよ」
二人はそう言うとキトラと残月は境夜に興味を無くした様に踵を返して去って行く。
「……なんだと言うんですか?
英雄、好色を好むと言うでしょうに?」
「お前が英雄かどうかって言われたら、ただのイカれた独裁者だろうけどな?」
独り呟いた筈の言葉に境夜は思わず、後ろを振り返るとそこには幽鬼楼が立っていた。
「驚かせないで下さい、幽鬼楼さん」
「ああ。悪いな。ちょっとボスから伝達を貰ったんで、伝えに来た」
「ボス?」
「幻想郷無き現在に用はない。
この世界はお前にくれてやる、とな?」
そう言うと幽鬼楼も背を向ける。
「確かに伝えたぞ?」
「幽鬼楼さん?」
「杏雅も精神崩壊して無反応になっちまった娘に飽きて、この世界から去った。今度は俺達の番ってだけさ」
「貴方も俺の元を去るのですか?」
「元々、俺達は幻想郷の支配が目的であって幻想郷を壊すのが目的じゃない。
まあ、ボスはどうかまでは解らないが、興味を失ったのは確かだ。
じゃあな。もう二度と会う事はないだろう」
幽鬼楼は一方的にそう告げるとその場から消えた。
後には境夜、ただ一人が残され、自身の思うがままになった世界に取り残されるのだった。