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花咲く箱庭

 残月と幽鬼楼も交ざり、世界は混沌へ向かおうとしていた。


「さて、幻想郷とこの世界を支配する計画を立てましょうか?」

「下らんな。その様な事の為に余が協力するとでも?」


 最初に異を唱えたのは孤高の存在である残月だった。


 そんな残月に境夜はうっすらと笑う。


「ええ。強要はしません。ただ、俺達の邪魔はしないで貰えませんか?」

「随分と虫の良い話ではないか?ーーだが、余の事を軽んじぬ辺り、見る目はありそうだ。そこは誉めてつかわす」

「ありがとうございます。そこで残月さん、貴方の腕を見込んで幻想郷の重鎮達の暗殺をお願いしたいのですが……」

「ほう」

「もしくは此方の世界の軍事施設の制圧や要人の暗殺、他にも様々な役割を御用意しましょう」

「随分と余を買っているのだな?」

「俺もキトラさんも年端もいかぬ女性をゴミと称して躊躇わず、殺す事の出来る貴方の残虐性を買っているんですよ。

 それでどうします?先程も言いましたが、強制はしませんが?」

「ふむ」


 残月はその言葉にしばし考え込む。


 彼にとって良い退屈しのぎにはなるだろう。


 だが、それだけである。


 彼が協力するにはまだ何かが足りなかった。


 そんな残月に声を掛けたのは境夜に取り憑いたキトラである。


「もう一押し必要なら、こう言いましょう。ゴミの選別です」

「ほう?ーーと、言うと?」

「貴方にはより有能な者だけを残し、不必要な者を排除して貰う。

 ただ、それだけで良いのですよ」

「フッ。面白い事を言う。

 ゴミを増やすだけの存在かと思ったが、貴様達ーーいや、貴様は違うらしいな?」

「伊達に遥か昔から賢帝と呼ばれてはおりませんので」


 その言葉に残月は笑う。


「良いだろう。貴様の口車に乗ってやろう」

「承諾頂き、感謝しますよ、残月さん」


 キトラが残月にそう言って笑うとキトラの秘書がやって来る。


「キトラ様。器の準備が整いました」

「うむ。御苦労」


 キトラは頷くと秘書を下がらせて立ち上がる。


「では、私は受肉に取り掛かるので、これで残月さんには折って、情報を渡しましょう」

「うむ」


 キトラはそう告げると実の娘を無理矢理、蘇生させて生きたまま、針などを用いて修復する杏雅とスマホを用いて自身のボスへと連絡する幽鬼楼を見渡す。


「それでは後程。またお会いしましょう」


 境夜の内に宿るキトラはそう言うとその場を後にし、立ち入り禁止区域へと向かう。


「認証番号をどうぞ」

「■■■■■■■■」


 キトラは竜人の言葉で八桁の数字を発音すると立ち入り禁止区域のAIが彼を主と認識し、その区域への入室を許可する。


 そこでは様々な生物がいた。


 そのどれもが培養液に浸かり、試験管の中を漂っている。


「ほう。生物兵器ですか?」

「私の配下になる者に竜人の因子と脳改造を施しているのだよ。

 私の手足となる者に下手な感情は不要だと思わないかね?」

「確かに」

「必要なのは迅速かつ的確な情報伝達と如何なる任務にも耐えられる手足だよ」


 自身の理想の兵士を語りながら、キトラは自身の肉の器へと近付き、傍にいた秘書に尋ねる。


「再現率はどれ位だ?」

「データ上、キトラ様の遺伝子を操作ーー培養して96.7%となっております」

「まあまあの成果だ。それでこれに独立した意思はあるのか?」

「はい。恐れながら、キトラ様の亡き後を考慮し、思考パターンなどをインプットして御座いますが」

「なら、脳を処分しろ。その後、私が成り代わる」

「は?ですが、そんな事をしては折角の器に支障がーー」

「問題ない。私が私に戻るのに必要な事だ」

「……かしこまりました」


 困惑しながらも頭を下げる秘書にそう告げるとキトラの肉の器がビクンと跳ね、培養液の中でグッタリした。


「では、境夜君。名残惜しいが、君の身体から出て行かせて貰うよ」

「ええ。色々と役に立つ情報を感謝します」


 境夜はそう言うとキトラの魂が抜け出るのを感じ、脱力する。


 キトラの喪失と共に竜人の因子と言う力を失い、今まで抑えられていた肉体の疲労と限界を超えた力の使用で境夜の身体が悲鳴を上げたのである。


 それでも境夜は歯を食いしばって、キトラの復活をこの目で見ようと踏ん張る。


 そして、その時はやって来る。


 培養液が抜かれ、試験管のガラスが持ち上げられるとそこには全裸で佇むキトラの姿があった。


「この姿では初めてかね?……改めて、宜しく頼むよ、境夜君」

「ええ。此方こそ」


 キトラと境夜はどちらからともなく笑うと握手を交わす。


 ーーー


 ーー


 ー


 そんな世界を見て、大いなる意思となった彼女はジッと観察する。


 そう。これは実験である。


 ヴィランが手を取り合った場合、如何なる結果を伴うかと言う。


 最悪のケースを想定し、実行された世界を観察する。


 その結果は人間の感覚では残酷であるが、想定されたデータ以上の収穫のある中々に興味深いものであったーーと彼女は思う。


 今後の更なる展開に彼女は観察し続けた。


 果たして、それがどの様な結末を迎えるのか……。


 彼女ーー無限を超える宇宙の意思である原初の破壊神ーーまたは護御霊カゲネコと呼ばれていた実体なき存在はただ、その銀河と言う箱庭で悪逆の限りを尽くす彼らの行く末を観察するのだった。

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