集いし、悪なる存在
その男ーー天覇残月は独り呟き、人間の里をブラブラと歩く。
「何やら物々しいな」
彼は独り呟くとその様子を探る。
すると人里を流れる川から大量の死体が浮かんでいた。
「……不法投棄か」
残月はそれを見て、ポツリと漏らす。
悠久の時を生きる彼にとって、自分と星以外はゴミである。
そんな彼にして見れば、この川を流れる水死体の山は星を汚すゴミでしかない。
ーーと、そこで残月は足を止め、水死体の流れる川を見詰めながら頭を抱えて蹲る少女に視線を移す。
「……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい」
少女は水死体の流れる川を見て、ひたすら謝っていた。
よく見れば、彼女自身もずぶ濡れで胸元にはさとり妖怪を象徴するサードアイが存在した。
「そこな汝よ」
残月が声を掛けると少女はビクリと肩を震わせ、彼から逃げる。
そんな少女に残月は不快感を持つ。
そこからは無意識であった。
残月は少女の首を跳ね、川に落とす。
「……ゴミが増えたか」
残月は少女を殺めた罪悪感など微塵も感じずに首を失って転がる遺体を冷ややかに見据える。
「あ~あ。殺っちまったか」
そんな言葉に残月が振り返ると一人の人物が立っていた。
「コレの知り合いか?」
「いや、そう言う訳じゃないが、その娘が死のうとすると他の人間も後追い自殺するんでな。
ある方に言われて調べに来たんだよ。
まあ、その様子じゃ、無意識に殺っちまったみたいだからな。
この一見はこれで終わりだろう。
まあ、人間爆弾異変が収まってないからどうかは解らないが……」
「人間爆弾異変?」
「この幻想郷で起こっている。里の人間が爆発する異変さ」
そう言うとその人物は笑う。
「俺の名は幽鬼楼。あんたは?」
「ゴミにも分かりやすく名乗るなら、天覇残月だ」
その言葉に幽鬼楼は難色を示す。
「ゴミってのは俺の事か?」
「余からすれば、この星以外は皆、ゴミだ。
まあ、ゴミにも価値があるからな。
余に生かされている事を光栄に思うが良い」
そう残月が言うと幽鬼楼が戦闘態勢に入ろうとする。
そんな幽鬼楼が見たのは無数の武器が召喚される場面であった。
(殺られる!)
幽鬼楼は血の気が引くのを感じながら、射出されんとする武器の山を見る。
そんな二人の間をスキップしながら割って入る者がいた。
あまりにも突飛な行動の人物の登場に残月と幽鬼楼が先程のやり取りも忘れて、見ているとその人物は死体の流れる川に平然と入り、残月の斬り落とした少女の首を拾い上げる。
「おお、娘よ。死んでしまうとは情けない」
わざとらしく、その人物ーー杏雅は自身の娘の首にそう言うと転がっている娘の遺体にくっ付け、大量の針で縫い付けた。
「ーーあがっ!ーーいっーーぎっ!」
首を縫い付けられた杏雅の娘は無理矢理、復活させられ、首を縫い付けられる激痛に悶える。
「……何をしている」
残月が問うと杏雅は愉快げに笑う。
「見ての通り、愛しい愛しい娘を蘇らせたんだよ」
「……貴様か。ゴミの不法投棄を促していた者は」
残月はそう言うと幽鬼楼に向けていた武器の矛先を杏雅に変え、その娘ごと杏雅を殺す。
そうした矢先、残月の背後から別の杏雅が現れる。
「……しぶといゴミだ」
「俺は自分の死を自在に操れるんでね?」
「ならば、貴様の存在その物を抹消するまでだ」
そう告げて残月が杏雅を抹消しようと次の行動に移る前に空間がブレ、そこをすり抜ける様に境夜が出現した。
「何をしているんですか、杏雅さん。
人の姿をした妖怪を貴方の娘を使って心中させる計画だったでしょう?」
「ん~?そんな内容だったかな~?」
「こんな道化を使って妖怪を削る必要があるのかね、境夜君?」
「その方が面白いでしょう?」
境夜と杏雅のやり取りを見て、残月が叫ぶ。
「ゴミ共め!余の星を汚すな!」
「おや?貴方は?」
「何度も同じ事を言わせるな。余は残月。天界の支配者なるぞ」
「ほう。支配者ですか?」
残月のその言葉に境夜の中のキトラが笑う。
「ますます、この世界を支配するのが面白くなって来ましたね」
「何を笑う、ゴミよ」
「失礼。私はキトラと申します。
訳あって今は境夜君に憑依してますが、れっきとした竜人で御座います」
キトラは境夜の身体で残月に一礼すると彼に語り掛けた。
「残月さんとおっしゃいましたね?
貴方はこの世界を面白くしたいと思いませんか?」
「なに?」
「まあ、此処ではなんですから、皆さん、私の会社へご招待しましょう」
そう言うとキトラは幽鬼楼を見る。
「君はどうするかね?」
「俺は使い走りでねーーだが、面白そうな話しだ。混ぜて貰おう」
その言葉に境夜は笑うとゲートを生む。
「では、幻想郷を悪の華で埋め尽くす計画と行きましょうか」