再現される罪
「それで侵入者とは?
まさか、ユイーー殺戮の魔天か?」
「現状では不明です」
「想定して牙の準備をして置け」
キトラは秘書にそう告げ、今ある総力でユイだった場合を考える。
「境夜君。殺戮の魔天だった場合、君に憑依しているだけの私では太刀打ち出来ないだろう。奴はそれだけ脅威だ」
「それは確かに厄介ですね」
境夜は内なるキトラにそう呟くとうっすらと笑う。
「ならば、早々に退場して頂きましょう」
「ほう。何か手でもあるのかね?」
「お忘れですか、俺の能力を?」
「ああ。成る程な」
内なるキトラは境夜の顔で薄ら笑いを浮かべ、それを見ていた杏雅が尋ねる。
「境夜君。一人で何をブツブツ言っている?気でも触れたかね?」
「狂人である貴方には言われたくありませんね、杏雅さん?」
そう告げると境夜はキトラが記した書物を手にした。
それを合図に扉が開かれる。
そこから現れたのは鬼の形相のユイであった。
「やあ、良く来たね、ユイ君」
「テメエに用はねえ。キトラは何処だ?」
「おやおや、折角、出迎えているんだ。
もう少し気の効いた台詞は出ないのかね?」
「その人を嘲笑った態度……テメエがキトラか!」
そう叫ぶとユイが怒り任せに太刀を振るう。
その刹那、彼にのし掛かり、行動を妨げる者がいた。
「生憎とお前の相手はキトラさんではなく、俺ですよ、ユイ君」
「くそっ!離しやがれ!」
「その様子では想い人でも死んだか?」
内なるキトラは境夜の顔で笑い、その境夜はと言うとある事象を再現する。
「ーーっ!?こいつらは!?」
「懐かしい光景だな、殺戮の魔天?」
内なるキトラはそう呟くと取り押さえられたユイの前にキトラを除く竜人の賢人達がやって来た。
それもかつての格好で……。
気が付けば、ユイもかつての格好をしていた。
『これはどう言う事かね、キトラ殿?』
「殺戮の魔天が謀反を起こしたと言う知らせが参りましてな。
見ての通り、本性を現せて見境なく、我が同志を手に掛けましたので引っ捕らえたところで御座います」
『それは真か?』
「ええ。見ての通りで」
キトラは頷くと賢人達は周囲を見回す。
「……あ」
そこでユイもかつての姿で辺りを見渡す。
自身が無惨に殺したキトラの協力者達を。
『こんな結果になって残念だよ、ユイーーいや、殺戮の魔天よ』
「いや、ちょっと待てくれ!俺はハメられたんだ!ーーって、なんだ?口が勝手に……いや……この台詞……どこかで……まさか!」
何かを察したユイはキトラに扮した境夜に向かって叫ぶ。
「テメエ!まさか!」
『殺戮の魔天を同胞殺しの件で刑に処す。皆、異議はないな?』
「やめろおおおぉぉぉーーっっ!!」
『では、キトラ殿。同胞の仇をお願い致します』
「はっ!」
「キトラアアアァァァーーッッ!!」
ユイが絶叫した瞬間、キトラの手により彼は黒い棺に入れられ、かつての牢獄へと閉じ込められる。
そこで境夜は変装を解くと愉快げに笑った。
「はははっ!会って早々になんだが、さよならだ、ユイ!」
そう叫んだ瞬間、キトラの記憶が解除される。
「大したものだ、境夜君。まさか、私の過去を再現するとはね?」
「これでユイとか言う奴はまた数千年出て来れないでしょう。
そして、戻っている頃には我々が幻想郷を支配している」
「……ああ。そうだな」
キトラはそう呟くとユイの消えた後を眺めた。
(……ユイ)
「ん?おやおや?キトラさんともあろう者が敵の心配ですか?」
境夜のその言葉に内なるキトラはハッとすると心を無にする。
「……どうでも良いが、俺をのけ者にしないでくれないかな?」
杏雅のその言葉に境夜は笑みを強めた。
「貴方のもたらした尻拭いなんですがね?
まあ、貴方のその失態で邪魔者が一人消えたのも事実ですからね?
俺からは特に言う事はありませんよ」
境夜はそう言うと社長室の椅子に座り直し、机に肘を乗せて手を弄ぶ。
「では、話をしましょうか。お互いに有益な……ね?」