悪の融合、そして脱獄へ
それから数日ーー或いは数ヶ月した。
「お待たせしました、キトラさん」
「待ちくたびれたよ、境夜君」
「申し訳ありませんね。少し手間取りまして」
そう告げると境夜は無間地獄から光輝く先へと指を差す。
「よくやってくれた、境夜君。君は天才だ」
そう言うと魂だけのキトラが境夜に憑依する。
「だが、爪が甘いな、境夜君。
肉体を持たない私が君に取り憑く事を考えてなかったのかね?」
「……いえ、考えてない訳ではありません。
寧ろ、喜んで貴方に身体を貸しましょう」
「良い心掛けだが、境夜君。
君は何を企んでいるのかね?」
「貴方の知識と経験の吸収ですよ。
俺には貴方以上の知識も経験も必要ですからね。
幻想郷を支配するのは、この俺です」
そう言われて、境夜と一つになったキトラは境夜の顔で笑う。
「人間ごときが面白い!
ならば、存分に私の力を味わいたまえ!」
キトラはそう叫ぶと境夜の身体を変質させる。
「私の能力は物質を操る程度の能力。
今、君の細胞物質を竜人のものに書き換えた」
内なるキトラのその言葉に境夜は軽く手を握って確かめてから笑って答える。
「素晴らしいですよ、キトラさん。
貴方の能力を除けば、此処までは俺の計画通りです」
「成る程。能力を持つとは言え、ただの人間である君では地獄を突破出来ないと判断したのか。
流石は私の見込んだ男だ。
なかなか考えている様だね?」
境夜は一人二役を演じながら、光に向かって進んで行く。
「まず、やる事は解っているね、境夜君?」
「勿論、解ってますよ、キトラさん」
境夜は内なるキトラに頷くと異変に気付いた鬼達へと迫る。
「ーーまずはこの地獄を俺達の手で作り変える」
境夜はそう呟くと強靭になったその身体で鬼の腕や足を破壊し、その首や胴を強引に引きちぎる。
「ふははっ!」
それはキトラのものか、境夜のものかは解らぬが、全身を鬼の血で染め上げながら彼は歓喜しながら光へと向かって歩いて行く。
それに合わせて、無間地獄から解放された大罪人の魂が怒涛の如く、現世へ戻ろうと境夜と共に光を目指す。
「深淵に墜ちた魂達よ。
俺のーー俺達の帝国を築く為に協力なさい」
境夜は地獄の扉を開きながら叫ぶと魂達が三途の川へと向かって群がって行く。
その魂達を狩る者がいた。
「貴様か、死神」
そう言ったのは内なるキトラだった。
「あんた、魂が二つあるね。片方は人間の魂、もう片方はーー」
「残念だが、答えを教えてやる程、私はお人好しではないのでね?」
キトラは境夜の顔で笑うと死神に襲い掛かる。
結果は明白だった。
死神ーー小野塚小町は竜人と化した境夜の圧倒的な力の前に敗北する。
「素晴らしいですよ、キトラさん!
まさか、死神をこうも簡単に倒すなんて!」
「私にとっては造作もない事だ。それよりもーー」
キトラはそう言うと気絶した小町の身体を貪ろうとする境夜を金縛りにして止める。
「君の趣味はあまり好ましくないな」
「強い者が弱者をなぶるのはお嫌いですか?」
「いや、そんな事はない。だが、闇雲に性欲をぶつける在り方は竜人である私のプライドが許さない」
「ふむ。無慈悲な殺戮者もそう言うところには気を使うのですね?」
「なんとでも言いたまえ。それが私だ」
内なるキトラにそう諭されて境夜は仕方なく、小町を襲うのを止めると死者を送る為の木造の小舟に乗り、ゆっくりと漕ぎ始めた。
ーーこうして、キトラと同化した境夜は地獄から脱獄する。