1.
「寒くなってきたな……」
口から零れた言葉が所々隙間が空いている壁に虚しく消えていく。できるだけ体温を逃がさないように、身体を丸めて、その上から雑巾のようにボロボロになった毛布をかぶる。
「お腹空いたなぁ……ね、ブレンダ?」
再度呟いてみるけど反応してくれる人はいない。分かってはいるけれどもつらい。何度鳴ったかわからないお腹を押さえつつ横たわると、肩から絹のように滑らかな銀色の髪が流れ落ちた。
私、クレア・ウェルズリーは、ジラルデ王国に仕えるウェルズリー侯爵家の三女として生まれた…らしい。なんで自信が無いかって言うと、私自身親の顔も見たことが無いし、貴族がするような豪華な暮らしとはかけ離れた貧乏暮らしをしているからだ。私が貴族だっていう話はある人から聞いた。その人曰く、私の髪色が両親からは考えられないような綺麗な銀色であり、不倫をしていたのではないかと、父と母で大喧嘩したそうだ。しかも銀髪というのは、このジラルデ王国において非常に珍しい髪色で、両親の関係悪化も相まって、不吉な存在だ、悪魔の子だとか言われたらしい。
そうして、悪魔の子と呼ばれた私は生まれてすぐに、一度は殺されることになったらしいが、侯爵家としても外聞を気にしたらしく、殺されずに侯爵家が管理している辺境の地に侍女を一名だけつけて送られた。ちなみにその侍女が私の育ての親であるブレンダだ。この話もブレンダから聞いた。
そうして辺境の地にやってきた私たちに与えられたものは、ボロ小屋となけなしのお金だけ。辺境の地とあって、小屋の近くには集落がポツポツとあるだけで、その日その日の食料を手に入れることにも苦労して、赤ちゃんの私を育てていくのは本当に大変だったっぽい。本当にブレンダには感謝してもしきれない。
「ブレンダ……」
少したれ目の、人懐っこそうな顔を思い浮かべて、、視界が滲んできた。
ブレンダは三日前に死んでしまった。国境付近を縄張りにしている山賊に襲われて。
この辺境では作物が育ちにくいため、狩りでの食料確保が大切になってくる。そうして、いつも通り、ブレンダは周辺の集落の人たちと一緒に狩りに出かけ、、消息を絶った。
そして今から三日前、集落の人たち数名が捜索に行き、ブレンダ達が死んでしまったことを知った。
最初は何かの間違いだと思った。どうせまた狩りが長引いてるんだろうと思ってた。十五年間ずっと一緒にいたブレンダが死んだなんて考えられなかった。だからこそ、もう帰ってこないと知ってしまった時には目の前が真っ暗になった。なんであの時引き留めなかったんだろって。
そうして、ブレンダ達の悲報を聞いた私は、その場で気を失ってたらしく、集落で唯一の医者であるエイベルさんの家のベットで三日後に目を覚ました。起きた私は、エイベルさんの家を飛び出し、私たちが暮らしてきた家まで全力で走った。ボロくなった取っ手を引きドアを開けたけど、そこにはブレンダはいなかった。
誰もいない部屋を見て、ぼんやりとした頭で追いかけてきたエイベルさんと話し、取り合えず今日はこの家で寝ることにした。
エイベルさん曰く、女の子一人にさせるのは心配らしいけど、そんなことよりブレンダと過ごしてきたこの家を離れるつもりはなかった。
「ブレンダ………」
家の板と板の隙間から零れてくる月の光を横目で見つつ、意識はまどろみのなかに落ちていった。
最初はかなりシリアス目な展開が続きます。