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三章 * もう一人の光

三章開始です。

物語を動かすことになる人物の登場とかリオンと、セリードの変化とか、今までより動きのあるお話になるよう執筆してます。

 ―――ティルバ国王宮、本議事堂にて―――


 議事堂内はざわめきが起こっていた。

 国王を含む王族が座るその後ろでは文官が慌ただしく速記を読み返したり、国王、皇太子、そして端で側近と公聴のみしていただけの上皇までも文官を呼び寄せひそひそと話をしている。

 議員たちはその慌ただしさに見向きもせず、自分達も配られた資料を食い入るように見つめ、周囲の議員と小声で(せわ)しなく互いに意見を交換する光景が至るところで見られる。


 この本議事堂は王宮にあるこういった人が集まる場所で大聖堂に次ぐ広さを誇り、議会に出席する三院の各八十五名の議員、それとは別に位の高い爵位を有する選ばれた者が自由に利用出来る数名分の特別席、議員権は無いものの議題に合わせた知識や経験を持つ有識者の専門席、そして王位継承権を問わず王族なら誰でも出席が可能なように王族専用区画がある。

 加えて議題の内容によって重要度合いのランク付けがされ、軽度、中度案件であれば議員席を含む議会進行の場の上、二階部分には一般人の見学や参加が認められている席も存在する。


 今回、前もって開示された議題にすべての議員が反応した。今の停滞と腐敗が見え隠れする統制のとれていない議会を敬遠するジェスターやメルティオス公爵含む一部の議員も揃って出席し、(かつ)てない人口密度になっている。


 こんなことは数年ぶりのことだった。

 この国では、議題によって出席し是非を問う議決投票に参加するかどうかは本人の判断に委ねられる。それがティルバ国の議会だ。一見政治家であるジェスターたちの現在に至るまでの行動は無責任にも見えるが、出席しないということは否を示すことになるため、それが反対票として数えられるので実は責められる行為ではない。余談にはなるが、ジェスターが出席しない状況が多々あるということは、つまらぬことを議題に出され、そしてそのために議会が動いていた、ということでもある。


 今回、王族区画を除く議席が二人の公爵の分を除いて埋まっていた。二階の一般公聴席も議題が三日前の開示だったにも関わらず満席となった。公聴しようと本議事堂に入るための専用の門には長蛇の列が出来、十数年ぶりにくじによる抽選となったこと聞かされ関心が高いのは良いことだと側近たちと話していたようだ。


 そんな異様な熱気に包まれた本議事堂では、今回特別席に座ったジェスターとレオンもその配られた資料に目を通し興味を駆り立てられた目を一瞬見せたものの、二言三言互いの耳元に言葉を何度か発した後、二人の公爵は口を閉ざしてその成り行きを見守る姿勢を取った。


「彼女こそ! この国を今悩ませている問題を見事に解決してくれることでしょう!!」

 ブラインは領有院最高議長の席から立ち、その場で大きな声で自信に満ちた表情をさらしながら演説する。

 この本議事堂が埋め尽くされた光景に満足しているようにも見える、そんな自信に溢れた、そして喜びが滲む表情といえばいいかもしれない。

 ジェスターが出席しているのを見つけたときは、それはもう口元の緩みを押さえきれず手で覆うことになった。

 彼を動かせた、という事実はブラインにとって自尊心を高める力となったのかもしれない。

 その声は非常に張りのある、自信の(たぎ)るものだった。


「かつて魔物や聖獣に精通し、その観察記録や考察を書にして世に広めた偉大なる魔導師、オークス・ノルエイの子孫たちはオークスの残した膨大な資料からあらゆる考察をしました。そして長い年月をかけ最も効率的に魔物を排除できる方法を確立したのです。王宮に勤めたことのある魔導師の子孫ということもあり身元もしっかりしている、根拠のない魔物対策を試すという無駄な労力を必要としないことを彼女が偉大な魔導師の子孫として証明するのです!」

 完全にリオンを否定する言葉が含まれている、ということは彼女を名前だけでも知り、噂を聞いたことのある者達すべてに理解できた。

 リオンを知る者たちはブラインがその事に敢えて触れてくることは分かりきっていたので、驚きもなにもなかったようだが。


 かつて聖獣について自分の生活さえ破綻させるほどのめり込んで、変人と影で笑われていたという魔導師が残した日記と記録はそれぞれ原本を除き四冊ずつ王家によって複製された。原本は本人亡き後その家族に戻されている。複製されたものは二組は王家、もう二組は隣国であり建国してまだ年の浅い北ナムザム国へ友好条約締結の記念の一つとして寄贈されているのと、聖獣を神に準ずる存在として崇める風習が根付く残る《聖獣信仰》のフェルベスト国の先々国王が戴冠した際に祝いの品の一つとして贈られている。


 要は大変めずらしく貴重な観察記録と日記ということだ。


 リオンとセリードの兄サイラスがこれについて以前話をしているが、国で二冊しか存在しない物なのだからそう簡単に見れなくて当然といえば当然である。


 その日記と記録はほぼ聖獣についで書かれたもので魔物についてはかき集めても数ページ分で軽く触れる程度であり、聖獣と魔物の関係を結びつけるような記載さえないことはその書を見た人は知っている。

 リオンと出会ってから、ジェスターはもちろんミオやサイラス、上皇、クロードなどリオンを知る、彼女を支援することを決意した者はそれなりの立場を利用してこの日記と記録を閲覧、簡単であるが目を通し終わっている。

 なぜ、簡単になのか。

(おかしい、魔物のことはほとんど書かれていなかった。他に資料が子孫の手元にあったと?)

 アクレスは怪訝そうに心のなかで呟き演説を続けるブラインを見つめる。

 そう、簡単に目を通した理由。

 魔物のことはほぼ書かれていない。かろうじて書かれていたのは


 ―――魔物も同様、彼ら聖獣のようにどこで誕生しどうやって成長するのか分かっていない。

 聖獣について解明できればもしかするの何かしらの共通点がみつかるかもしれないが、現状としては非常にその確率は低いと考えていい。

 魔物はいつから存在しているのか、歴史をたどることで手がかりは見つかるだろう。だがそれは根本的な解決となることはなく、おそらく我々は答えにたどり着けないことも考えの一つとして心に止めておくべきだ。―――


 と、日記に残されていたのと、聖獣の誕生場所の探索についての結果や考察に補足として書き加えた記録がほんの一文でいくつかあるだけだったからだ。

 この日記と記録を見た全員が同じ考えに至った。


 やはりリオンが与えられるという《過去の記憶》が、鍵になると。






「私に会いたい?」

「はい、ブライン最高議長からどうしてもミオ様には彼女に会っていただきたいと」

「やましいことはない、と言いたいのでしょうね。実際彼女からは悪いものは感じなかったから問題はないわ」

「そうですか」

 アクレスは小さく安堵のため息をついた。

 ミオの屋敷の広く美しい部屋の中で、数人の彼女付の魔導師とアクレスを前に彼女は椅子に深く腰かけ、組み合わせた自分の手の指をじっと見つめる。

「お会いになられますか?」

「なるべく避けたいけれどそうもいかないのでしょうね」

「どういうことですか?」

「彼女自身は悪いものを持っているわけではないの、でも良はくないのよ、彼女」

「どのように?」

「嵐が長引く兆し」

「それは、先日仰っていた……」

「ええ、リオンの周りで起こる嵐よ。ここに来て急に……」

 険しい顔をして、目を閉じたミオは深い深いため息をつく。

「間違いなく、彼女も嵐に巻き込まれる。しかも、その嵐を彼女自身が長引かせてしまうの……感情の、嵐」

「それは、どういう意味ですか?」

 ミオはなにも答えずただ、自分の手元を見つめ続ける。


 感情の嵐。

 良くも悪くも人を想うゆえに発生する。


 リオンを巻き込んでしまう嵐が長引く。


(リオンの、進むべき道を妨げる嵐にならなければいいけれど)


「会うわ。彼女に」

「ミオ様、よろしいんですか?」

 魔導師の一人が心配そうに、問いかける。

「お会いになるということは、《お認めになる》ということです。そのようなことになればリオンさんの立場にも少なからず影響を与えてしまいます」

「分かっているわ。だからこそ」

「え?」

「今ここにいないリオンを必要以上に表に出したくないわ、出来ることならリオンは、自由の身であるべきなのだから。それに、見極めたいわ先見で見れないこともこの目で」

「ミオ様……」

「もし彼女が利用されるだけなら、助け出さなければいけない。万が一ブライン最高議長の私欲で連れ出されているのなら、彼が失脚するとき巻き添えになってしまうことは避けられない。彼女がリオンとは違う形で光を与えてくれる存在だとしたら、守らなくてはならないの、たとえ、彼女をここに連れてきた人物が私利私欲の塊だとしても」

 聖女の目は憂いを含んでいた。


 彼女はリオンとは違う。

 聖域の扉という不思議な役目を持たず、《過去の記憶》を与えられていない。

 ブラインの後ろ、微笑むこともなくただうつ向いていた彼女。ミオの目に映る彼女は能力持ちで魔導師の素質がある、ただそれだけだ。

 リオンのように何か包まれたような、奥が見えない、そもそも魔力なのかさえわからない、聖女の目を持ってしても判断出来ない未知なるその力とは違う。

 そのことをたくさんの人が知ってしまったら、彼女はどうなるのか。

 きっと、波が引くように彼女の周りは誰もいなくなるだろう。

 誰も彼女に見向きもしなくなるだろう。

 私利私欲のために利用され、そして捨てられるだけの存在になってしまうだろう。


 魔物を討伐する知識がどこまで通用するのか。

 リオンと接点のある人間なら間違いなく全員が同じ事を思ったに違いない。


 ―――魔物のその奥にいる、聖獣のことを知らなければ根本的解決には至らない―――。


 いつか必ず、限界が来る知識。

 しかし、今、それは皆喉から手が出るほど欲する知識。人を救う技術。

 沢山の人間が他を押し退けてでも手にしたいものが、突然、公衆の面前に晒された。


 この危うさを孕んだ状況は、終始俯いていた彼女に必ず影響を与えてしまう。


(ダメよ、ダメだわ。そう、守らなくてはならないの、魔力を持ち、何らかの知識をもつ彼女のことは必ず。嵐を長引かせる彼女はきっと嵐を荒げることも出来てしまうのだから)









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