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一章 * アルファロス邸宅その夜

だいぶざっくりと話をまとめた回になります。

あまり細かく書くと話が進まないので、こういう感じに進むことは今後もあります。

 南の客間に入って程なくしてお茶と色とりどりのお菓子が運ばれてきた。ジェスターが来るまで少しだけ時間があり、その間はミオの力がどうして使えなかったのか、どうしてあの時急に戻ったのかという会話で時間がつぶせた。

 全てはシンの意思で行われていたことで、つまりは聖女の魔力をはね除ける力を持っているのはシンであること、シンはとある理由からリオンを守っているらしいので必然と彼女に向けられる全ての魔力の持ち主の力が抑え込まれるらしいこと、そんな話が中心だった。


「君の許可が必要だろう」

「これは?」

「あと二人‥‥救ってほしい。同じ苦しみをずっと抱えている。連絡を取り会えるよう調整をする。だから私と共に王宮へ行ってほしいんだ」


 ジェスターが客間に登場するのに時間がかかったのは2通の手紙を用意していたからだ。渡されてリオンは内容を確認すると、完全にリオンのことは伏せられ、内容も抽象的に重要な案件であること、過去の清算をするため時間をつくってほしいこと、そして超機密事項であるため知る人物は限りなく少ないよう気を配る必要があることが書かれていた。


「お気遣い、ありがとうございます。私のこと伏せてくれたんですね」

「いずれたくさんの人に知られる立場になるかもしれないが、今はまだそのときではないだろう。なにしろ内容が内容だ、限りなく知る者は少ない方がいい。直ぐに破棄してくれるだろうが側近以外の目に触れないとも限らない、用心して損はないということだ。そして‥‥礼を言う」

 ジェスターは穏やかに微笑む。

「あの痛みは生涯付き合っていくものだと覚悟の上だった。それを考えれば二十三年は短いものだったと言える自分がいる。君はこれからこうして私のような者を救っていくのだろう。私でよければ、君のために助力も助言も惜しまない。それがこの国の為になるのだろうから」

「あ、ありがとうございます!!」

 リオンはとびきりの笑顔を見せながら勢い任せに深々と頭を提げた。

「まだまだ、出来ることがあるのだと気づかせてくれた。これから、長いつき合いになりそうだ、よろしく頼むよ」

「はい、こちらこそよろしくお願いします!! ホントに、ホントにありがとうございます!!」


 それから直ぐに二通の手紙はアルファロス家の運営を補佐する側近の中でもジェスターが若いときから彼に仕えている信用厚い人物によってこの邸宅から程近い王宮にすぐさま届けられるよう預けられた。


 彼らの話は日付が変わるまで続いた。昼食も午後のお茶の時間も夕食も南の客間で行われ、誰がが「ちょっとお手洗いに」と席を立たなければ休憩をとりゆったりとした呼吸が出来ないほどたくさんの話をした。

 ただ、話していて明確に分かったことは


「えーっと、ですね、そもそも私もよく分からず動いてる時がありまして。とにかく見たことを確かめる為に調べものしたり、ビートと行ける範囲で旅したり。行き当たりばったり感が今のところ物凄くあるんです」


 ということだ。

 リオンの知ることは彼女だけが時々なんの予兆も脈絡もなく与えられるという実際に起こった特殊な《過去の記憶》から、彼女自信が考え、時にはビートとジェナが相談に乗って共に考えたりしなければならないようなひどく断片的でしかも時系列が滅茶苦茶なその記憶を頼りに動いているということ。それから色々と答えを導いていかなければならないために、正直彼女がその《過去の記憶》をもて余しているということだ。

 そして重要なのは


 《魔物》と《聖獣》が密接に関係しているということだ。


 それについて詳しく話すタイミングは正直なかった。今日の出会いから色々ありすぎて何もかもが中途半端になりそうで、それは良くないだろうとジェスターが判断して後日ゆっくり話すことになった。


 それでもジェスターはもちろん、今後《魔物討伐》に行くのが分かっているセリードに、そして国を左右するほど強い魔力と予言の力をもつ聖女ミオにとっても重要な内容ばかりで話は尽きなかった。その濃密で有意義な時間を終わらせたのは王都の数ヵ所に設置されている特別な魔力によって正確に時を刻む時計台が深夜零時の鐘を鳴らしたときだった。




 リオンは困っていた。

(ね、寝れないんだけど)

 全く公爵家というのは恐ろしい。

 鐘が鳴ってハタっと我に返ったようなセリードが今日はもう休もうと言った時にリオンたちはさてこの真夜中に宿に戻っても入れてもらえるだろうかと話し合おうと口を開く前に、彼が部屋を用意させてあるからそこで休んでとサラッと声をかけてきた。かなりびっくりしたのにそんな3人のことなど気にしていないようで、ミオに向かって泊まっていくだろ? なんて話しかけているしミオもそうさせてもらうわとサラッと快諾していた。ほとんど三人は取り残された形で話が進んでこの大豪邸に宿泊が決定した。

 いや、決定していた。


 何より怖かったのは使用人たちがズラリと廊下に並んでいたことだ。初めからそのつもりで準備がされていたのだろうが、それにしたって部屋の案内にわざわざ二人の使用人が付き、室内でどこに何があるか、どうやって使うかを説明され、いつでも客が泊まれるようになっていることは当然だとしても、その中身が桁外れだ。ビートとジェナは夫婦なので勿論同室、きっと子供のような存在のリオンも同室だと思っていたらもう成人女性だからという理由で個室に案内された。使用人に「こちらでございます、ご用がありましたらなんなりとお申し付けくださいませ。」と通された部屋はリオンたちが住んでいた平屋の住宅の半分以上はある広さ。


 踏んで良いのかと躊躇うような美しい絨毯に傷をつけたらと思うと恐ろしくて触れない細工が美しく鏡面のように磨かれた家具。昼間ミオが粉々にした豪華絢爛(けんらん)な壺とよく似た花瓶やビリビリに破いたドレスに出来そうな美しいカーテンよりももっと繊細で上品な柄のカーテン。そしてなにより、一際存在感のある大きなベッドとその上に乗せられていた寝間着がわりの羽織もの。それがリオンを困らせていた。

「外に出ても大丈夫、かな?」

 体感したことのない滑らかすぎる寝間着と寝心地の良すぎるベッドはついさっきまでのことで気分が高揚している体には合わず、落ち着かず、散々寝返りを繰り返して耐えきれず飛び起きて寝間着を脱ぎ捨てた。

「庶民はこれよ」

 と、独り言を言い自分の着ていたごくごくありふれたワンピースに着替えると、窓に近づきカーテンを開けた。


 そこは外に出られるようになっている大きな窓で月夜が(ほの)かに照らす外はこの公爵家の緑豊かな広大な庭が広がっていたので、静かに窓を開けるとリオンは裸足のままそっと外に出る。

「わぁ‥‥きれい」

 思わず声に出して嬉しそうにリオンは足早に前方の水路へ進む。隅々まで手入れされた木々と芝や草花に潤いを与える水路までも美しく見えるよう計算された向きや長さに感じらる。なにより、それらが見る人の心を癒してくれる効果をさらに高めるかのように、小さいけれど透かしが美しい風景や花が施されたランプが所々に飾られている。


 この王都は本当に美しく豊かだ。ずっとずっと昔から木々を倒し地を慣らし、水を引いてただ森が鬱蒼(うっそう)と繁るだけだったその土地に人の生活を定着させた。ただ単に開拓したわけではない。何度も何度も季節と天候と向き合いながら人のためではなく緑を再生させる場所や更なる開拓が可能な場所を精査し少しずつ広めたこの王都は、比較的近くに大河が流れているにも関わらず大雨で増水し溢れても長きに渡り守り整備し続ける森があるおかげで大きな被害を受けたことは一度もない。それゆえ財政を圧迫するような災害が非常に少ない安定したこの地はその代わりに森と大河とそして気候とともに共存するために国税を使い、人々の生活を守り続けている。アルファロス邸はその特徴が活かされた、自然の美しい姿と人びとがその恩恵をもらい守り続けている調和の取れた姿をしているようにもみえる。


 その調和の取れた美しい庭を、この先はどうなっているんだろうという好奇心から奥へ奥へと進んで行く。途中わざとまっすぐ成長する竹のようなものが密集するように植えられているらしいところもあったがリオンはやはり進んでいった。

「あ、抜けた」

 そう嬉しそうに声を出したリオンは好奇心丸出しの笑顔のまま固まった。



裸足で藪の中を歩くとか、どんだけリオンさんは逞しいんでしょう。

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