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二章 * なんでそうなる。 2

 バノンが聖獣に殺されてろと理不尽かつ哀れに見放された後、セリードが突然酷い頭痛を訴えて会話もままならなくなった。その場がそれでなくても混乱していたので、彼がふらついてこめかみを手で抑え壁に寄りかかるとさらに騒ぎになってしまった。

 何人かがそんなセリードを介抱しようと駆け寄ったがそれを阻止したのがジルだ。そしてジルはリオン一人にセリードの付き添いを頼み、バノンとマリオ、そして集まっていた全員に今一度話し合おうと声をかけ、一階の食堂に降りて行った。

 リオンに任せたのは、彼女ならその原因を理解しているとジルは瞬時に思い付いていたからだ。タイミング的にセリードの体に作用した特別な力の影響だろうと。

 リオンはそんなジルの考えにすぐさま気がついたし、自分でも思うことがあったのかもしれない。彼の指示に素直に頷いて行動に出ていた。


 リオンに支えられながら何とか自分の借りた部屋にたどり着いたセリードは、ベッドが視線に入るなり崩れ落ちるように深く腰掛け、前屈みになり、額をコツコツ何度も指で叩く。

「大丈夫ですか?」

「これは、すごいな」

「選定の力の影響ですね?」

 リオンは、彼の正面で膝をつき水の入ったコップを差し出した。なんとかゆっくりと体を起こして苦笑いし、セリードは額を叩くのを止めてコップを受け取る。

「ありがとう」

 勢いよく水を飲み干し、深呼吸をしてセリードは目を閉じ天井を仰ぐ。

「どういう感じですか? 急に、でしたよね?」

「戻ってきたときは全然なにも感じなかった。……意識したときかな、ジルが、バノンとマリオ団長の名前を出したとき。その瞬間目と耳が、勝手に動く感じだ、オレの意思とは別の、もしかするとオクトナの意思かもしれない。強制的に動かされてるような……それに抵抗したんだ、そしたら頭が重くなって締め付けられるような」

「オクトナが、セリード様を動かしているということですか?」

「どうだろう? わからないな。とにかく、目と耳が異常に感度が良くなって勝手に動く。目がバノンとマリオ団長を探してたな。人の気を感じることは出来るけど、誰のものか特定はほとんど出来なかったのが突然バノンとマリオ団長の気配を一瞬で。そして……嫌な空気だ」

「嫌な空気、ですか」

「ああ、空気が淀んで、歪んで見える。……直感というか、あれはオレが感じとる負の感情を視覚で判断出来てる状態かもしれない。バノンとマリオ団長から出ていた(もや)のような空気の流れがオレに咎められたらスッと引いていったから多分、あれが負なんだと思う。……参ったなこれから毎回これを経験するのか? それとも慣れるものなのか」


 リオンは心配そうに見つめる。

「あの……」

「うん?」

「……いえ」

 ごめんなさいが口から出そうになって、リオンはぐっと堪えてそれを飲み込んだ。

 彼を困らせたくない。約束したのだ、巻き込んだと思ってはいけないと。

 謝ったらきっと困った顔をする。

「なにか、私が出来そうなことはありますか?なんでもいいんです、ありませんか?」

 それが今できるリオンの彼への感謝と労いだ。

「うーん、そうだなぁ。じゃあ膝枕して?」

「……はい?」

 リオンの口からは意図せず変な声がでた。

「横になりたい、枕欲しい」

「ベッドにそのまま倒れてください、枕もあります、すぐそこに」

「なんでもいいって言ったよね?」

「……」


(なにこの状況)

 石のように自ら硬直し、リオンはベッドに腰掛けている。太ももにはセリードの頭。

「ああ、楽……」

「それはよかったです」

 彼は目を閉じて腕を組んで、ベットに体を任せている。

(これで真面目な話なんて出来るものなの?)

 リオンはこれは仕事、と心のなか何度も呪文を唱えるように言い聞かせることにした。

「後で試したいことがあるんだけど、いいかな?」

「試したいことですか?」

「あの時、ジルに言われてバノンとマリオ団長のことを意識した。その後二人を見て空気の淀みが見えたけど、意識した人物だけが見えるのか、そうでないのか。直後にあの頭痛で何も出来なかったし」

「そっか、そうですよね、そう言うことが分かったら凄く楽ですよね」

「うん、それに、リオンがそばにいることが影響するかどうかも。片時も離れないというのは不可能だ、離れていても《選定》できるといいんだけど」

「それに関してはオクトナが戻り次第聞いてみましょう。ただ、セリード様に同等の力を与えているはずなので、セリード様単独で選定が出来る気がするんですよね。そこに私は干渉していない気がします」

「そっか、なるほどね。……あと、さ? 知りたい?」

「え?」

「今後、誰が負の感情を抱えてるか」

「それは……」

 戸惑いを滲ませた声に、セリードは目を閉じたまま穏やかに微笑む。

「オレでさえショック受けたわけだ。マリオ団長は分かってた、あの人は王宮でも少し厄介な相手と親密だ、理由はなんにせよリオンのことを利用価値があると見なしたんだろうと。……でもバノンはオレはそうならないと思ってた。信じてた、っていうのが正しいか」

「そう、ですね……」

 リオンは寂しそうな顔をして小さく呟いた。

「私利私欲、とは少し違う。たぶん、マリオ団長をリオンと自分の立場を利用して失脚させられればと考えたんだろう」

「考えてることまで分かってしまうんですか?」

「そんなことはないよ、ただ、元々そういう懸念をしてただけ。もしかしたらって。バノンも、正義感は強いが時折それで人に迷惑をかける。そのせいで辛い思いをする人を何人も見てきた、マリオ団長を騎士団の結束や調和を乱す元凶と思い込んでいる節があるから、あの人さえいなければと常に思ってる。色々知ってるバノンにとって、リオンが自分に近い存在であればオレたちが思ってるのと同じように色々役に立ってくれると知っている。自分が中立であることとそれを利用してマリオ団長を失脚させる機会を伺うかもしれない、そう思ってたことが選定の力が出たとき、より鮮明になったんだ」

「あの」

「うん?」

「いつも、そういうことをセリード様は考えてるんですか?」

「考えるよ、そうしないと自分の足元を見られる。友人として、関わってるわけではないから同じ立場、同じ苦労を知っていても割りきって付き合うしかない。人の命を預かる仕事をしている、オレが崩れれば団員にも迷惑を。判断ひとつ間違ったたけで団員やその家族を路頭に迷わせることになるかもしれない。だからあらゆることを考えて動くように、してるよ」

「……今さらですけど、尊敬します。私はいつも後先考えないで行動しちゃって。ビートにもいつも怒られて」

 リオンは若干情けない顔をして苦笑する。

「人それぞれだよ。その行動力が君をオレたちの前まで連れてきてくれた。感謝しているよ、皆がね」

「だといいんですが。……教えて、貰えますか。嫌だという理由だけで逃げたくありません、やっとここまで来たんです。オクトナと話して分かったんです、自分のすべきことが少しだけ。私の身勝手で、聖獣たちを苦しめたくないんです」

「リオンがそれでいいなら」

 セリードは、ゆっくりと目を開けて少しだけ表情を抑えた。

「マリオ団長のところは(かんば)しくない。ティナさんはお腹の子に今凄く意識をしてるのかもしれない、負を感じないんだけど、団長はもちろん団員にも負を感じる。もしかしてバノンたちとの敵対意識がリオンを取り込もうとしている気持ちにさせてるだけかもしれないけどね。その辺は後で探ってみる。バノンはさっき諌めて落ち着いたけど、どうかな、あれの性格を考えるとこのまま収まるとは思えないし、それなりの負を感じたわけだから、ちょっと様子見ってところだな」

「そうですか」

「ジルは今は大丈夫、信頼していい。どこの派閥にも入らず一匹狼気質というのか、団員もそのへん分かってジルに従ってるから多分これからも心配いらないかもしれない。あとフィオラなんだけど」

「なにか、問題が?」

「いや」

「え?」

 急に笑いだすセリードをつい真っ直ぐ見下ろしてしまった。

「実はオクトナの声で、言われたよ」


『この女、強いな。色々と。

 しかも人の上に立つ兆しが見える。

 芯が強すぎ敵も多く作るがはねのける力を持つ。幸運を招き逃さず鷲掴みにする稀に見る強い運の持ち主だ。

 こういう女は珍しい、リオンのそばにいるのはいいことだ、しばらく好きにさせろ』


「ってね」

「それ、すごいわかります」

「だろ? 色々と強いってのがね、そのまんま。わかるなぁと」

 リオンは、笑いが込み上げて天井を向き吹き出す。

「あはっ! 強いです、確かに、色々と」

「でも、オレ嫌われてるけどね、間違いなく一生嫌われ続ける」

 彼女の騎士嫌いを思いだし、リオンの笑いはピタリと止まる。

「ああ、そういえば……どうなんでしょうねそのへん」

「今後を見越して仲良くしようって言っても多分フィオラなら気持ち悪い!! ってますます嫌うと思う」

「……どうしましょうね、ホント」

 二人は彼女の芯の強さは一生ものだとなんとなく悟って、しばし遠い目で無理だろうなぁ、としみじみ思うのである。


リオン、まさかの初膝枕(笑)

別パターンもちょっと考えてみたんですが、こっちがしっくりきましたので。


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