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二章 * 仲良くできませんかね? 2

 セリードは無表情で、ソファーに深く腰掛け腕を組んだまま全く動かない。フィオラはロッキングチェアに体を任せ一定の揺れを保ちながらそんなセリードを真っ直ぐ見ている。

「そうか……」

 もう一つの公爵家レオン・メルティオスがジル隊、バノン隊へ寄付金を出し今までの沈黙を破り間接的に関わることになったこと、王宮に影を落とす原因を直接手を下さずに排除しようとしていていること、それらがジルの口から語られた。そして最後に《二十三年前の出来事》を聞かされたことを話すとセリードとフィオラは驚き、そこまで話していたのかと意外そうな反応を示した。

「バノンの反応は?」

「聞かされてすぐあの状態だ」

「なるほど、ね」


 あの状態。

 元々人懐っこい明るい性格は騎士団団長と言う立場でありながら、老若男女問わず親しまれ王都でも人気のあるバノンだ。だが、それでも特定の人物と軽々しく触れあうことはなく、よほど長い期間をかけて信頼を築き上げた人物でなけれは、今日のように悪ふざけ気味のハイタッチなんてしない。ましてや頭を撫でるなんてことは小さな子供にするくらいだろう。

 つまり、リオンとの接点はほとんど無かったはずなのにバノンの中でいかに彼女の存在が重要か、そして信頼できるかがかなり短期間で植え付けられたことになる。

「父の影響か。あの人はリオンのことを手放しで信用している。リオンの手に余るレベルでオレも止めようがなくて困る程だ」

「ああ、リオン以外に今は頼る術がない、彼女以外に導いてくれる人はいないというような事をいっていたな。確かにそうではあるが、バノンは自分の父親の死の真相を知って父親が責められるべき部分があると思っている。その事は公爵が全面的にきっぱりと否定はしたが、バノンの中では簡単には整理できないだろう。せめて自分が父親に代わり出来ることはないかと思うようになったらしい。そんなこともあって、魔物に対する考え方や騎士団の在り方、団長としての言動、それが変わったようにみえる。悪いことではない、ただ……リオンを《ランプの光》というよりより遥かに強い光を放つ存在とすでに決めつけている感じが否めないな」

 フィオラがそれを聞いて冷笑する

「ええ? それはちょっとリオンに重すぎますね、迷惑ですよ。……それにしても魔物討伐こそ騎士団が命をかけてやるものだって叫んで宣伝しそうな男の価値観が変わるって相当ですよね」

 フィオラはふー、と大きく息を吐いた。

「リオンの話って、信じられないようなことばかり……。彼女しか知らないこと、出来ないことが多すぎます。バノン団長はそれにまだ遭遇はしてないけど、父親の死んだ原因が魔物や聖獣と大きく関わっていてそれを解決したり知りたいと思ってしまったら、リオンになついちゃうのも当然といえば当然なんですかね? それにしても、ねぇ。もっと冷静に見て考えてもらわないと。リオンは神様じゃないんだから」


 フィオラは騎士嫌いだ、騎士を評価させたら辛辣すぎて聞かせられないくらいに酷いことを言うこともあるので、セリードとしてはこのフィオラが案外リオンを無視して動こうとする周囲を牽制する抑止力になるだろうとこの時思ったようだ。


 リオンの力を目にしていない状態で彼女を手放しで信じているとなると、実際にその光景を目の当たりにしたら、きっとバノンにとってリオンは《神に匹敵する存在》となりかねない。

 セリードとしては父ジェスターが少々手に余るリオンへの信頼を本気で止めようとしないのは、ジェスターがあくまでリオンを『普通の女性』という枠から引っ張り出さないでいるからだ。リオンはきっと想像もつかない次元の違う力を秘めている。唯一無二の存在かもしれない。それでも彼女は人間だ。寿命もあれば、体も心も傷つけば痛みを感じる。我々と同じ存在でしかも普段は一般人なのだ。

 その上でジェスターは彼女を支援している。

 彼女は神ではない。絶対に。

「私ポンコツなんですよ」

 と、何度か彼女が笑って言っていたが事実そうなのだ。だから誰かが彼女が歩きやすいよう、道を見つけ出しやすいよう支援すべきで、それがいつか巡り巡ってこの世界に良い結果として還元されるのだろうと、ちゃんとジェスターは彼女の存在を理解しているから、セリードは父を説得してまで止める気はないし、注意しつつも好きにしてもらっている。

 だが、バノンはおそらく違うだろう。

 リオンの力を見て、知って、彼は思うかもしれない。『神の力を持つ者』と。それはいずれ《神そのもの》へとすり替わってしまう可能性がある。あまりにも危険な思想へと。


(ふーん……フィオラか。個人的にはあまり関わりたくないが、オレたちを嫌っている分客観的に分析できるんだろうな。)

 今後も増えるであろうバノンのような価値観の騎士たちを上手くあしらうにはフィオラの存在は欠かせないのかもしれないと、セリードは密かに思ってみたりする。


「それだけならいいんだが」

 ジルは難しい顔のまま目を閉じると疲れを吐き出すような呆れたため息を漏らした。

「マリオ団長と関わることになったのを異常に警戒してな」

 その途端、考えていたことを吹き飛ばすように、この場の空気を壊すようなあっけらかんとした声でセリードが笑いだしてジルは目を開いて固まってしまうし、フィオラはロッキングチェアの揺れを止めてしまう。

「あははは、わかるわかる。バノンちょっと気持ち悪いよあれは」

 彼は悪ぶれた様子もなく、のけ反って天井を向いて肩を震わす。

「わ、笑うとこじゃないと思いますけど?!」

「面白いよ、皆よく笑わないなと思って。リオンのこと幼い妹心配するみたいな感じで見てるだろう? リオンがチョコレートに悶絶するのみて、今度うちの嫁の大好きな菓子屋に連れてってやる、オレが好きなだけ買ってやるぞって。家族か? ってね」

「あー……『お兄ちゃん』のポジションでいくと自分で言い出したからな」

 ジルは項垂れ、フィオラは顔をひきつらせ。

「それはいいんじゃない?」

 対照的に、頭を戻し少し体勢を整えるとセリードは足を組み、首をかすかにかしげただけ。

「悪いことにはならないよ。リオンの重要性をわかった上で行動するようになる、無茶な魔物討伐をしようとしなくなるだろうし、リオンを守ってくれる。問題はマリオ団長をどう見るか、どう付き合っていくか」

「まさしく、そこだセリード」


 ジルはもううんざりだ、と前置きをしてここで合流するまでの話を聞かせてくれた。

 バノンは団長としてリオンはきっと俺たちに必要な知識を与えてくれるはず、だから守ってやろうなどと言ったまではいいが、その他が問題だ。

 マリオは王宮内で見え隠れする派閥、勢力争いで言えば、ブライン側になる。実際どこまで親しいのかは定かではないが、そもそもそのブラインの動きは不穏な空気をまとい、勢力どころか国政にまでその良からぬ空気を漂わせている。噂の絶えない王子までそこに名前がちらついている。そんな存在から支援を受けている理由は何にせよ、騎士団の団長をしている人物がその噂を知らないわけがない。つまり、マリオが彼らの噂の原因になっている内容を知っていて、更に加担している可能性もある、それが世間一般の常識と言っても過言ではない。

 そのマリオが、妻ティナの妊娠の発覚をきっかけにリオンを受け入れた。受け入れただけならいいが、リオンに対して信頼関係を結ぼうとしている気配もセリードとフィオラもすぐに感じ取れた。


 それはいずれ、問題が起こる。

 この三人にはそう断言出来る理由がある。

 バノンとマリオの埋めがたい確執。


「バノンは絶対にリオンをマリオ団長とは関わらせたくないと。実力行使で阻止するつもりだぞあれは。ここに来るまで何度も話をされたよ」

「だろうね」

「ブラインがリオンのことに興味を持ってしまえば必ず利用しようとする、それは王子にも繋がって権力拡大の駒にしてしまう、とな」

「‥‥間違ってないから困るんだよな」

 セリードの表情が突然失われ、素っ気ない、ため息混じりの相づちをした。

「ただ、関わらせないというのはすでに無理だし、なによりリオンの意見に耳を傾けることはいいことだ、オレは無理に遮る必要はないと思っている。リオンに政権に近い人物たちとの接点が増えれば正直行動範囲は広くなる、悪いことではないんだよ。気になるようであればその辺は父にお願いして任せようと思っている。正直自分の親ではあるけどあの人を止めるのは少々骨が折れる、どうせならその意欲を王宮に向けてもらって動いてもらえばこちらも安心して王宮に出入りできるしな。それに、リオン自身したたかなところがあって、マリオ団長から知らない情報が出てこないか聞き出せたらと思ってる、あの人当たりの良さでうまく立ち回るだろうからマリオ団長と接点があるからブラインに直結してしまう、ってことにはならない気がするけどね」

「とは言ってもな。放置して無視してというのも良い結果にはならないだろう」

「元はと言えば」

ため息をついてからフィオラが呟いた。

「三年前のあのケンカ、ですよねぇ。あれさえなければねぇ、ここでこんなに悩む必要もなかったはずですよ。全く、騎士団団長のくせに先頭にたって揉め事とかただただ呆れます」

 フィオラが苦々しい顔をした。


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