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二章 * 話し合い 2

 夜の宿場町の酒場。

 リオンとセリード、そしてフィオラが店の端、食事と少しの酒を口にする。

「話しちゃって良かったんですか?」

「何を?」

「御父上のこと」

 フィオラの問いにセリードは全然気にするようすはない。地酒を飲み干してすぐにおかわりを注文する。

「代償の話はしないでおくよ、リオンの力のことと一番重要な聖獣についてかなり詳しく話す羽目になるし。ただ‥‥現実的な問題になりつつあるだろう? 魔物化した聖獣の存在は。ましてや今からいく所にはいる可能性だってある」

「確かに‥‥」

「考えてくれますかね? マリオ団長」

 リオンがため息をついた。

「父の話を出したのもそれを期待してのことなんだけどね」

「えっ? そうなんですか?!」

 食い気味に驚くリオンをセリードは笑って頷く。

「あの人が周りから何て言われてるか知ってるかな」

「はーい、私知ってる」

 少しわざとらしくフィオラが手をあげた。


「不動の次席」

「正解」

「ん? なんですか? それ」

「父はね、当時の騎士団団長達の中で最も強くて、三十八世代、三十九世代を押し退けて十九歳で剣技大会優勝したんだ、事実上のナンバーワンだね。その時まだ団長じゃなかったんどけどそれがきっかけ騎士団を持つことになったんだよ。騎士登録して間もない人間が優勝したんだから当然かもしれないけど」

「すごい!」

「三年に一回の大会で、遠征なんか当たらなければ出てたんだよね、父は最後まで勝ち残って優勝か準優勝しかしてない、羨ましい限りだな」

「はー、ホントの天才騎士だぁ」

 心から尊敬している、そんな顔をするリオンをセリードとフィオラは笑う。

「でね、マリオ団長が不動の次席って言われるのはジェスター様に必ず負けて決勝に出れないか、決勝に出ても相手がジェスター様で負けちゃうのよ」

「ちなみに父が負けた数少ない相手にガイア様も入ってるよ」

「ふわー、凄い人って再認識。‥‥あれ? でもそれだと対抗意識というか、出ませんか?」

「そんなことないよ。あの人はそんなくだらないことで部下を危険な目に合わせるような人じゃないから。だから今回の遠征の先行隊に選ばれたと思うよ」

「あ、それ‥‥聞きました。外に敵が多いのに身内にはとてつもなく信頼されてるとか」

 フィオラにセリード『その通り』と頷いてみせた。

「手柄とか出世にこだわる傾向はあるけど、根は情に厚い。父の実力や当時同行したメンバーからちゃんと考えて、討伐優先と押しきるほどの無茶はしないと思うけどね。それに、次席と言われても特に抵抗することもなくて、不思議と父を批判したりもしないんだよなぁ。父もあの人のこと良くも悪くも言わなくてどう思ってるのかよく分からない。お互い、周りが分からないだけで認め合ってるような気もするから、マリオ団長に父の事を話すことは悪いことじゃないはずだよ」

 セリードの考えには直ぐに答えが出た。

「同席していいか」

 ここに来るまでの互いの話で盛り上がっていた三人の所に一人でマリオがやってきた。

「奢ってくれるならもちろんいいですよ」

 フィオラの明るい声にマリオが苦笑して、空いてるセリードの隣の椅子に腰かける。

「公爵の息子に出してもらえ、ばかたれ」

 ムスッとするマリオを3人が笑った。


「判断は、お前に任せるリオン」

 マリオの答えは至極簡単だった。

「ガイア様とリュウシャ様にさっき少しだけ話を聞いた。魔物についてお前には俺たちよりも知識があることを」

 リオンは苦笑いをしたものの、ホッと安心した息を吐く。

「知識ってほどではないです、私自身探り探りですよ。でも、ありがとうございます」

「ティナがな」

「はい?」

「お前に従ってくれと俺に頭をさげてきた」

「ティナさんが?」

「ああ、お前なら何か今までとは違う道を示してくれるかもしれないからと。あいつな、幼い頃に魔物に友達喰われちまったらしいんだ」

「そうなんですか」

「あいつの両親が教えてくれて。‥‥がむしゃらに騎士団で務めて出世してきたのも自分に何ができるかをずっと探してたからだ。けど、ここ数年だ、行き詰まって何が正しいのかわからなくなっちまったみたいでな。見ててちょっとな‥‥こっちが辛くなることもあった。俺と対立するのもそのせいだ、討伐ばかりが正しい訳じゃないかもしれないって言い出して。最近も明日のことで揉めてたのさ。そんなときだ、お前に妊娠のことを言われて」

 ずっとうつむいてお酒のはいったグラスを見つめていたマリオはグンと勢いよく顔をあげた。その顔は真剣だが、どこか安心したかのような穏やかさが滲んでいる。

「何かの巡り合わせかも知れないって言うんだよ、お前とここでこうして会って、暫く騎士団を離れて妊婦として俺の側にいるってことは、それに何かの意味があるはずだって」

「見えたんですね、きっとティナさんには何かが」

「ああ、だと思う。はっきりしたものではないだろう。それでもきっとこの巡り合わせは悪いものではない、吉兆の現れでそれを引き込んだのはリオンだと。だから、今はリオンに従ってくれと。‥‥俺も、そう思う」

「ありがとうございます」

 リオンが嬉しそうにほほえんだ。

「だから、今回お前の意見をしっかりきかせてくれ。明日には一気に南下するつもりだった。それも正しいのかどうか含めて話をしようじゃないか」

「よし、そうと決まれば酒ですよ!」

「あ?」

「すいまっせーん! おすすめ地酒を瓶で追加! あと赤鴨の燻製と、強面豚と野菜の串焼き、青パパイアのサラダ、硬チーズのオイル漬け!!」

 フィオラがテンション高く注文。

「あ、今の二人前ずつね。それと黒角牛のステーキ、地鶏のトマトスープも」

 セリードがニコニコしながら追加。

「じゃあさっき食べて美味しかったから野菜の玉子炒めと、干しエビの素揚」

 リオンがへらへらしながら追加。

「ちょっと待て、金はまさか俺か?」

 難しい顔をしたマリオ。

「一番年上、お願いします」

「てめえが一番金もってんだろ」

「それとこれとは別です。若い世代に奢る先輩は好かれますよ」

「やっぱお前あいつの息子だな! ムカつくわ! 色々と!!」


「聞いてもいいですか?」

 酒を飲んで量も随分増していくなか、マリオは変わる様子はなかったがそれでもおそらく今まで一番会話したとセリードが思うくらいには饒舌に見えた。

「父と団長は、どういう関係性なんですか?」

 楽しげに明るい声で会話していたリオンとフィオラがピタリと会話を止めて、その視線をセリードに向けた。

「あ? どうって、何もねえな」

「そんなことはないと思うんですが」

 そしてリオンとフィオラの視線は非常に興味の沸いた目に変化してマリオに向けられる。

「……あいつが辞めてから接点はねえよ、キースがうちの隊に入る時、手続きとか挨拶とかであいつが俺のところに来たときだって、挨拶交わしただけだしな」

「そこなんですよね、オレの疑問は」

 セリードは笑顔を崩さず、お酒を一口含み喉を潤した。

「アクレスは、オレの隊にキースが入ってロンディーヌ国の影響力が出るかもという周囲の懸念を払拭するために彼を他の隊で受け入れしてほしいと希望した時、他の隊が敬遠する態度を見せたのにあなたは一切見せなかった。なぜですか?」

「キースは有能だぞ。アクレス副長がまだ幼い頃からあいつの名前は俺にも届いていた、能力持ちとして優れた技術と耐性を持っていて、王族の教育も可能な頭脳を持っていた。ティナが自分から副長の立場を辞して譲ろうと思ったくらいだし、団員もそれだけの人物を拒む理由はないって意見が出てたしな」

「父から、打診があったんじゃないですか?」

 リオンとフィオラの目がキラキラしている。

「だったら、何だって話だ」

「絶縁してると思ってます、あなたと父は。でもお互い理解しあっての絶縁なのかな? と。何かお互いに問題が起これば、不測の事態に巻き込まれれば、暗黙の了解で助け合う仲じゃないかと。何も言わなくてもそれで成り立つ信頼関係にあるのかな? と息子なりに思ったんですよねキースのとき。そして今回、父の名前を出した瞬間、《二十三年前の出来事》を聞いた瞬間、あなたの表情が変わったように見えたんですよね、どうですか?信頼する誰かを介していれば、接点がないように見せることなんて造作もないですし」

「ふん」

 不愉快そうに、マリオは息を漏らした。そして横目で睨む。

「ガキは口出すな、勝手に言ってろ。あいつは公爵、オレは、団長、それ以下でも以上でもねえんだよ」

「ティルバの双剣ですよね?!」

「リオン、それを言うなら鉄壁の双砦よぉ!」

 マリオはびっくりした顔。セリードは目が点。

 女二人がハイテンションでテーブル越しに男二人にズイッと実を乗り出した。

「何も語らなくても通じ合う二人って感じ!」

「公爵とマリオ団長の戦場での逸話は山ほどあるのよ! 国境戦線が終息したのもマリオ隊とジェスター隊の共同戦線だったからっていわれてるんだから!」

「その辺詳しく!!」

 リオンがフィオラに顔を向け、そしてそのフィオラはマリオを指差す。

「ここにいるじゃない! 最高の語り部が!」

「その辺よろしくです! マリオ団長!」

 セリードは呆けた顔から笑顔になって、リオンの空になったグラスにお酒を注ぐ。

「人を指差すな! それとなんだ逸話って! 戦争に逸話もクソもあるか!笑って語ることなんてねえぞ!」

 セリードはフィオラの空になったグラスにもお酒を注ぎ、空になった瓶を通りかかった店員に渡して別の酒を注文した。

「ジェスター様とはどんな関係性で?」

「公爵の団長時代ってどんな様子だったんですか?」

「マリオ団長はジェスター様とはお酒飲んだりしました?」

「団長としてはやっぱり公爵と比べられるの嫌だったりしました?」

「この皿下げてくれる? あと美味しい辛口の酒とかあるかな、この人の支払いだから高いのでも構わないよ」

「うるせえぞ飲んだくれ女二人!! それとテメェの酒代は払わねぇからな!!」


 こうしていまいち締まらないオッサンと若者三人の飲みは続いたのである。

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