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二章 * 忍び寄る影 5

厄介そうな人が出てきましたがこの後しばらく出てきません。

その代わり次の幕から登場人物増えて賑やかになるかと。

 リオンが腰を上げ、膝をパンパンと勢いよく叩いてから振り向くとセリードを除いた全員がポカンとして口を無様に開けているか、真顔で口を真一文字に閉じているかで、しん‥‥と静まり返っている。

「あぁ」

 ぼそりとリオンは呟いて苦笑いと照れ笑いをごちゃ混ぜにしながら頭に手を乗せた。

「こんな感じ?」

 なにがこんな感じなんだろうと思うことも出来ずにやっぱり静まり返っている中てセリードがクククッと堪えた笑いをしながら近づいてくる。

「なにがこんな感じ?全然わからない」

「いや、全体的に。聖獣はああいうものですっていうことですかね?」

「そうか、そういうこと? いや、やっぱりよくわからないな」

「あはは」

 軽い明るいその笑いが合図だった。

 盗賊たちはあの男、ハルクのまわりに集まりヒソヒソと話し出す。それを見てリオンが近づこうと歩きだしたのをセリードが腕を掴んで止めた。

「何を?」

「話を。どうしても言わなきゃならないことがあるんです」

「そうか‥‥。でも、近づきすぎはダメだ」

「じゃあ‥‥セリード様がいいというところまででいいです」

「わかった」

「何かしてきそうなときは、ぶっ飛ばしてくださいね」

 殴るそぶりをしたリオン。セリードはふっと軽く吹き出して頷いた。

「了解」


 こんな時だが、この人がいてくれて良かったとリオンは思って心穏やかになれた。

 セリードの周囲に飲まれない強い自我は、リオンも憧れている。きっと今彼が笑ってくれなかったら、動いてくれなかったら、一瞬で気持ちが揺れて立ち止まって迷って周りに迷惑をかけていた気がしている。

 そんな彼に励まされたような気分になれて、だから動く。出来ることをするために。


 腕を掴まれたまま、リオンはハルクに向かってゆっくりと歩き、それに気がついて盗賊たちは一斉に注目して構えたが、セリードがリオンの腕を掴んでいない右手に剣をしっかりと握っているのを見てハルクがすぐに

「やめろ、下がってろ」

 と、声を荒げて制する。そのあとすぐにセリードに僅かに腕を引かれたリオンはその場で立ち止まった。

「ルシアが去り際に」

 リオンは笑顔を消した。

「言ったこと忘れないで。彼らの言葉は絶対なの、契約を交わすようなもので断言したことはよほどのことがない限り変えたりしない、その意味、わかるわよね?」

「‥‥聖獣の毛皮やあの宝石のような目を欲しがるやつがいる、俺たちは仕事をしているだけだ、とやかく言われる筋合いはねぇな」

「続けるの?これからも」

 ハルクは無言だ。きっと、肯定の無言だ。

「二度目は、ないから。次は誰も無傷で帰ってこれないし、傷を治してもらうこともない、あなたのことを聖獣は死ぬまで忘れないし、聖獣は私たちが理解出来ない意志疎通の力があるから、少しでもまた良からぬことをすればたとえ《オアシス》じゃない聖獣でも、あなたに心を開くことは二度とないと思う。そして《オアシス》が目覚めたときあなたが今回のことを反省しない行動をとっていたとしたら、後悔することになることを忘れないでね」

「なんでそんなことお前は知ってるんだ」

「それは私もよくわからないの。答えようがないわね。‥‥でもね、いつかもしかしたらそれが分かって、傷つけられた人を助けられるようになるかもしれないど、あなたは助けない」


 ハルクはリオンを睨んでいる。リオンはただ静かな冷ややかな表情で見つめるだけ。

「それと、どういう方法を使って高山菖蒲の香りで聖獣に近づくことが出来たのかわからないけど、もう、使わないで」

 返事は返ってこなかった。リオンは一瞬うつ向いて小さな小さなため息をついて、再びハルクを見つめた。

「誰かを、巻き込んだりしないでね。いつかきっと‥‥全部自分に帰ってくるから。あなた自身が手を下していないなんて理由は通用しないと肝に命じておいてね」

 それでも返事はなかった。ハルクを先頭に盗賊たちはそのまま空き家の中に戻って行く。

「我々も行こう」

 ガイアが静かに言った。リオンは空き家の中で驚きと歓声が上がったのを暫し聞いていた。ただ冷静な表情を崩すことはなく、ほっとした様子もなく、セリードたちは彼女が何を考えているのか分からずそんな姿をただ見つめた。




「あんまり良くない傾向です」

 村を出て暫くして、町が見えてきた所でガイアがここで一旦休息にしようと言い出した。リオンが不思議な顔をしたがガイアは町のなかではさっきの盗賊の仲間が近くで話を聞く可能性があること、町の人々にもあまり聞かせるべきではないだろうと判断してのことだと知り、快諾して馬を野原に放ち自由にさせて自分たちは敷物を敷いて休むことにした。

「きっと、誰かを利用してまた聖獣を狙うと思うんです」

「だろうな。今度のことで下手に知識を得てしまった、上手く知識を活かせば、聖獣に接触することはこれからも可能だろう」

 静かにリオンはガイアの言葉に頷いた。

「間接的に人を動かして接触することは彼等なら簡単なことだろうし。完全に止めるのはきっと無理ですよね。それに‥‥」

 冷たい水の入ったカップを握り、見つめる。

「それに、なに?」

 フィオラの探るような問いかけ。

「あの傷‥‥」

「え?」

「初めて見たからはっきりは言えないけど、でも、同じ、かな。魔導師の治癒を受け付けないってこともだけど‥‥傷口は浅いようだけど、ひどく治りが遅いと思う。‥‥あと、あの奥に見えた黒い霧。」

「霧?」

「あれ、一緒なんだよね‥‥ジェスター様たちをずっと苦しめてた痛みと。」

 背を向けて一人剣を磨いていたセリードが振り向いた。寝転がっていたリュウシャが起き上がった。立ったままあたりを眺めていたガイアも振り向いた。

 リオンは顔を上げる。

「セリード様、私は見るとわかるって言いましたよね、どこに痛みがあるのか。あれは、痛みがあるところに黒い霧がかかって見えるんです。痛みが強ければ強いほど黒く見えて。私、あれは()()()()()()()()()がすることだと思ってました。でも、違う‥‥聖獣だから出来てしまうことなのかもって、今回気づきました。一緒でした、確かにあの黒い霧は、シンがつけた代償の傷と。魔物化したかどうかは関係ない、あれは聖獣なら全てが可能かも」

「それだと、厄介だな」

 リュウシャは額を指でゆっくり叩く。

「あいつらのような目的で聖獣を探しているやつらが全くいないとは言いきれない。聖獣の毛皮や爪を欲しがる金持ちや権力者はわりといるしな」

「ホントにいるんですか?!」

 驚くフィオラにリュウシャは頷く。

「昔から真しやかに言われてはいるんだよ、今日改めて思ったがあの美しさに魅了されて手に入れたいと思うのだろう。入手したという話はほとんど聞いたことがない、秘宝として隠され続けているという噂もある。そういう事情がさらに欲を生む。恐らく言い伝えや噂が独り歩きして聖獣を傷つければ手に入れられる物と伝わった可能性がある。それがどこでどれくらい広まっているのか‥‥。あの聖獣が言うとおり次はないというのなら、もし万が一同じことが起きたときは被害は‥‥それなりの覚悟が必要な範囲に及ぶのだろう」





「どうだ、尾行出来そうか?」

「はい、あいつらは公務か何かで動いてるんじゃないですか?定期的に休息も取りつつ寄り道らしいこともしてません。ただ、もしかすると一昨日すれ違ったあの騎士団に合流するつもりかもしれませんよ。道筋が同じだし」

「なるほどな、それなら‥‥尾行はいい」

「えっ? いいんですか?」

「あのジェスター・アルファロスの息子、敵に回すな」

 ハルクは険しい顔をして、うつむいて自分の頬にある傷をゆっくりと一度だけ撫でた。

「もしあいつが親父譲りの性格ならやっかいだ。お前らは知らねえだろうが‥‥一度目をつけた奴は徹底して潰しにかかる。淡々と冷静に相手を追い込み潰れるか、死ぬまで手を緩めたりしねぇ。あいつの親父せいで、名前を聞かなくなった同業者は山ほどいる」

「マジすか‥‥」

「騎士を辞めたと聞いたが‥‥その、息子か。厄介なのが出てきたな」

 重い重い、落胆したため息をついたが、すぐにハルクは顔を上げて頬から手を下ろした。

「必ず王都に戻ってくる、そうなれば隙もあるだろうからな」

「じゃあ、王都に入りますか?」

「ああ、そうしてくれ。あの女について調べてくれ、だが深入りはするな。‥‥一時聖獣探しはヤメだ、あいつら二人もいつ動けるようになるかわからねえしな。休息の期間だと思おうじゃねえか」

「あの方への報告はどうしますか?」

「ほっとけ、この前のたかが毛の数本で大喜びしてたバカだ。時間がかかることくらいはわかってるだろうし、毛を眺めてしばらくはバカ面してくれてるだろうしな」


そろそろ主人公、本領発揮して貰いたいものです。でもポンコツ、不安です‥‥。


そしてリオンの恋愛、いつ進歩するんだろう? とまさかの作者も思う今日この頃。

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