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二章 * 忍び寄る影 1

やっと出てきた主人公、なんだかおかしなことになりますが大丈夫です、多分。

「な、なんで?どうしたの、フィオラ」

 リオンたちが向かっていた村への道中で思いがけず会ったのは先に向かったはずのガイアとフィオラだった。もちろん様子を見てから二人は戻ってくることにはなっていたが、それでもその時間が予想以上に早くて驚いたのだ。

 セリードが合流していたことにガイアとフィオラもその早さに驚いていたが、リオンに対して申し訳なさそうにガイアは頭を下げた。

「申し訳ない、判断しかねることが。リオンに直接意見を聞くしかないと」

「ほんとごめん、何のために行ったのか。でも私もガイア様もお手上げなのよ」

「え、なに?なにが‥‥」


 その村は異様な空気だった。人々は完全に不安と恐怖にに支配され気配はあるのに外を歩いている人は交代で事のなり行きを監視する数人の見回りだけらしい。窓や扉の隙間からリオンたちを見ていても目が合えば、サッと固く戸を閉ざす。

 村の外れにある誰も住んでいないという空き家は複数の男が出入りしているが、その男たちを完全に避けるようにして、近寄る事もなければ話しかけられるだけ見回りの者さえ悲鳴を上げて村人たちは逃げ出す。

 そして。

 空き家の中は時折興奮しているような、叫び声のような男の声が聞こえて、その度に男たちは外に出てなんとか魔導師や治癒師(治癒専門の魔導師で、医者としての知識もある人がなる職業)を探そうとして奔走していたという。今も一人が別の町まで治療してくれそうな人を探すため出払っているらしい。


「すごかったのよ、村は完全に閉塞的になっちゃってて。ガイア様が元騎士団だって名乗らなかったら話も聞けない状況よ」

 会話がしやすいように馬を走らせる速度を緩やかに保ちながら、リオンたちは進む。

「それで私も何者だって聞かれて魔導師だって名乗ったら、『あいつら追い出してくれ』って泣きつかれちゃったから困ったわ」

「あいつら?追い出してって……」

「うん、例の魔物に襲われたってやつ。盗賊集団らしいのよね。で、まぁ、実際見たら盗賊丸出しな雰囲気だったわけ」

「おかげで村はパニックだ。魔物に襲われたという者が運び込まれただけでなく、そいつらが盗賊だということで恐怖に怯えている。魔物には襲われるかもしれないし、盗賊に村を荒らされるかもしれないしで何とかしてくれと村長にまで懇願された」

「それで‥‥とりあえず見に行ってみたんどけどね、そこからが問題っていうか」

「なにがあったの」

「どっちでもなくて」

「なに?」

「傷口が、黒ずんでなかったし、魔物にはなりそうもないのよ」

「じゃあ、魔物じゃなかったってこと?」

「それが、盗賊たちは魔物に襲われたって言い張るのよ。しかも治癒の魔法をかけられないかって詰め寄られて。あたしは治癒は役立たずだし、ガイア様と一旦戻ってリュウシャ様とリオンに来てもらったほうが早いってなったのよ。‥‥リオンなら、わかるかと安直に思ったりしたし」

「わかるって、何が‥‥」

「傷がね、見たことない状態なんだよね」

「え?」

「説明が難しいから、とにかく見て。リオンがダメならどうしようもないだろうし」


 嫌な予感というのは当たってほしくない時ほど当たる、リオンはミオやフィオラとお茶をしたときにそんな会話でしみじみと頷いて、後で笑い話になればいいんだけど、と笑い話にして終わらせた。

 そして、村に向かっていたその時に特別意識したわけではないけれど嫌な予感がしてその会話を思い出してしまった。

(嫌な予感。よりによってあの時の会話を思い出すって‥‥よくないよね‥‥。やだな、こんな時に)

 そんな心の独り言を消したくてフィオラにあとどれくらいで着くのか聞いて何か会話をしようとしたその瞬間だった。

「うわぁっ!! なっ!? ひぇ!!!」

 体が急にぞわぞわと震えて全身が鳥肌に覆われ内蔵や骨が揺さぶられる感覚に陥った。手綱を離してしまい、体勢が崩れて慌ててリオンは立て直そうとしたけれど体はそのぞわぞわ感に支配され指先もまともに動かせない。

「リオン!!!」

 直ぐ横を並走していたセリードが咄嗟に彼女の腕を掴み強引に自分の愛馬の上へ引きずるように乗せる。慌てて周りが馬を止め、セリードとリオンの回りを囲む。

「ばか! 手綱を。」

「うわわ、わ、なっ、ううっ?!」

「リオン?!」

「いる!!」

「え?」

「わ、わた、しの中に、何かいる!!!」


 口をはわはわと言っているように震わせて、セリードの太ももの上に覆い被さるような不格好な体勢のまま手足を硬直させている。セリードが体を起こしてあげようとしたが、リオンの体は驚くほど固まってしまっている。

「大丈夫か!!」

 馬から飛び降りリュウシャがリオンの顔の前に行くと、彼女は身動き出来ないその体で唯一自由な目を何度も瞬きさせながらリュウシャを真っ直ぐ見つめ助けてと言いたげに目を潤ませる。

「急に、急にぃぃぃ!! ひいっ! 動いてる何か動いてるー!!!」

「体の中に?」

 リュウシャがリオンの額に触れる。魔力で人の気を探ることで、その人の魔力や生気の強さや大きさを見ることができる彼が、数秒で後ろに跳び跳ねるようにリオンから離れてしまう。

「なんだ、どうしたリュウシャ」

「リオン、それは、なんだ」

「わたし、が! 知りたいで、すっ!! うぎゃぁっ!! 気持ち! 悪い!!」

 リオンは奇妙な悲鳴をあげるのが精一杯らしい。自分ではどうすることも出来ないぞわぞわとする感覚が、自分の中にいる異質な存在のせいだと自覚はあるものの、それが何なのか、そしてなにより、急に襲った異変は今まで経験がなくリオンを混乱させている。

『おい、お前』

 リオンの顔が急にセリードに向いた。涙目の混乱するリオンの顔とは不釣り合いな落ち着いた声だった。

『リオンの首のネックレスを外せ。これがある限りリオンはずっとこのままだぞ。‥‥おい声が聞こえるだろう? 外せと言っている』


 は?

 リオン以外がそんな声を出しそうな顔をした。

 一体これはなんなのだ、と。

 リオンは自分の中に何かいると言った。この声の突然の変化を見れば彼女のことばは正しいのだろう。しかし、自分以外の誰かがいるなんて感覚も知らないし経験もないし、何よりそんな摩訶不思議なことが起こるなんて聞いたこともない。

 経験豊富なガイアとリュウシャでさえ未だかつてそんな話は聞いたことがないし、リオンに触って何かを感じ取れたそのリュウシャでさえ、この事態は何が原因なのかさっぱりわからないのだ。


 男か、女か、わからない。澄んだ声ではあるが冷静で感情は感じない無機質なもので、明らかにリオンではない。何が起きたのか全員が理解出来ずにしゃべれなくなって数秒誰も声がだせなかった。そしてその声は突然感情が爆発したように叫んだ。

『さっさとやれ!!! 何をボーッとしているのだ!』

 焦れてたまらず爆発した、そんな声だった。


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