二章 * 火種 5
この幕はこれで終了です。
若いの出てきたけど、男‥‥。いつになったら女の子が出てくるのか作者も不安です。
「いやぁ、面白い話が出てきたなぁ」
レオンはニコニコ。
「ふっ‥‥ふははは。そうか、あの男また愛人増やしたか」
「何人目かな? 記憶では六人はいたな。」
「ああ、七人目だな。そして口の軽い女か。いいじゃないか、扱いようによっては有益な人材になるかもしれない」
ジェスターは背後に黒いオーラが見えそうなそんな怖さが滲み出た笑顔だ。
(うわぁ、ヤベェこのおっさん二人)
と、バノンが心の中で呟くそば、冷静なのはジルである。
「それで‥‥ブラインの後ろに王子がいるという噂が、どう関係しているんですか? この金と」
彼の言葉にそうだその話だ、とバノンもハッとして気持ちを切り替える。
「あの男はね」
レオンはニコニコしている。
「ジェスターが表舞台に戻ってきたことで今の地位を奪われると勝手に思い込んでいる。そこをうまく利用させてもらうんだよ」
「利用、ですか?」
「失脚してもらうんだ」
「え?‥‥つまり、ブラインを」
「ブラインと王子に」
思わずバノンは立ち上がり、ジルは頭に手を乗せてソファーにもたれた。
「ちょっと、待って。それはクーデターってやつっすか?!」
「あはは、そんなことしないよ。失脚させるんじゃないよ、してもらうんだよ」
「ど、どういうことです」
「ブラインを追い詰めるだけでいいんだ、あとは自分で墓穴を掘ってくれる。こちらは法に触れることはしないさ」
「だから、メルティオスからの寄付金なんだよ」
ジェスターは笑ってはいないが、それでもひどく落ち着いている。
「私がレオンと懇意にしていることを知ってる男だ。セリードと比較的友好的な君たちに個別の寄付金をレオンがするとなれば、ブラインは私たちがセリード中心の派閥を作り勢力を広げると思うだろう。本当にそうなれば、巨大で強固な派閥になる、あの男ならそれを潰すためになりふり構わず動くだろう」
「実際問題、派閥なんてもので表面で繰り広げられる政権争いとか私は興味がないんだ。個別寄付だって、君たちがあんまり役に立たないと思ったらすぐやめればいいだけだし、騒がれるなら四十一世世代全隊に寄付すればいい。ま、こんな事してるからその時点で派閥だ!! と言われればそれでおしまいだけど」
レオンはわざとらしく肩を竦めて見せた。
「私もそういうものに興味なないしそもそもそんなもののために時間を無駄にする意味がわからない。文句は言いたいだけ言ってもらって構わない。私はレオンと意見が合わず事業提携出来ないことも多いんだ、派閥維持なんて労力の無駄になる。‥‥だが、あの男は違ってね。そういうことの為だけに生きているようなものだ。そんな男がこれから混乱するであろうこの国の舵取りなど、到底無理だ。国民を犠牲にするような無責任で無知な進言を陛下に繰り返すようになる前にあの男には政治から去ってもらうしかない。‥‥そしてなにより、王子が王族として犯してはならない法に本当に触れているのなら、早くそこから抜け出してもらわなければ王子はこの国で存在することすら許されなくなる。王子のことを庇える境界線はすでに越えている、私はそう思う。それをブラインも知っていて共謀している、それに手を貸している議員や王宮の人間もそれなりにいて、必ず厳しい裁きを受けることに。しかし、アルファロスとメルティオスが外側で動くだけでブラインがある程度自由を奪われ、王子も動きにくくなるだろう。それなりに全体の抑止力になる。表沙汰にせず抑え込めるものがあるのなら一つでも多いほうがいい」
ジェスターの声が急に、威圧的で攻撃的な重さと鋭さを放つ。
「こんな時に、国の中枢がくだらぬことで揺らいでもらっては困るんだよ。王子が出しているとみられる金は大半が国民の血税が何らかの形で流出してしまっている。王子は個人事業を行っていない、死ぬまでに自分名義で使うことを許された国領地の中にある町や農園から生まれる利益の一部だけでは騎士団の資金を賄えない。資産運用として公に出来る民間への投資すらしていないとなると、確実に法に触れる手を出してはならない事をしているはずだ。事業や寄付で国民へ還元すべき血税が無駄にされ、挙げ句の果てには出所がわからない金は溝に捨てるように使われている。これが王子がやることか?」
「‥‥我々も、かなり際どいことをしたりするが立場が違う、王子は王族。この国のシンボルなんだ。この国の国民も国土も歴史も何もかもを背負うのが王族、それを踏みにじるような王子などこの国には必要ない。だからといって、親愛なる我らの陛下や皇太子を裏切るようなクーデターなど起こす気はない」
「だから、自ら表舞台から去っていただく」
レオンの本気度はその語り口調や雰囲気からわからない。けれどジェスターは本気だ、本気で迷いも躊躇いもなく冷静に断言したことは二人にははっきりと感じられた。
「聞いてもいいですか」
ジルの落ち着いた声が、ジェスターに向けられた。
「公爵は予算表や財務表以外で何か見たんですか? 不正の証拠はどこから? 一般公表されている騎士団や王族、上級官僚(議長クラスや国の重役など)のものであれば今まで誰も気がつかないのはありえない。それなのになぜ王子とブラインに疑惑があると断言を?」
「そういえば、そうだよな‥‥」
ジルの疑問にはバノンも納得のようだ、少し考えてすぐに何度も頷くしぐさをした。
「私が見たのはそういったものだよ間違いなく。ただ、正規のものではないが」
「それはつまり、裏金が含まれた帳簿を見たということですか?」
「げ、マジか‥‥」
「なぜそんなものを見られたんです?」
「色々調べて、関わりがあるだろうと目星を付けた騎士団の帳簿担当とブラインの財務担当文官(秘書のような立場で事務的活動をする公人)をこちら側に引っ張りこんだだけだ」
さらりといい放ち、呆気にとられる二人にはお構いなしにジェスターは続ける。
「このまま続ければ、間違いなく罪に問われる時が来るし、資格を失うのを免れてもそれに関わっていた公人は王都では働けない。裏帳簿を写す代りに他の大きな市での職なら私の紹介状をつけてやれると交渉した。もちろん、騎士団での帳簿係よりも高給、市での仕事なら昇格もあるから悪い条件ではない。それに、団長と議長に怯えながら働いていた人物を探し出して交渉したから案外楽なものだったよ。それと理由は何にせよ、王家の顔に泥を塗るような公人にこの王都で生活されても不愉快だから出ていって貰らう」
「理由は何にせよ、不正をしている人間が残り続ければまた同じ過ちを犯す可能性だってある。そういうのを排除するのも我々の仕事と思ってくれるかな。‥‥あとは」
レオンは相変わらずの口調に感じた。
「この話は聞かなかったことにしてくれ。後で君たちがむやみに追及されるのは望むところじゃないんだよ、君たちはただ、私の寄付金を受けとるだけでいい。派閥とか騒がれても放って置けばいい、そんなことにかまってる暇なんて騎士団団長にはないだろうしね」
レオンの申し出に、二人は再び固まってそれぞれが何か考えているようだ。
「‥‥時間をもらえませんか」
「いいぜ、俺は」
「バノン!」
「その代わり、知りたいことがあるんで、教えてもらうのが条件ですがね」
バノンの目が、ジェスターに向けられた。
「俺の親父の死んだ本当の理由を教えてくれませんか」
レオンは、その事を知っているのだろう。微動だにせず真っ直ぐ前を見ているジェスターをチラッとだけ横目で見た後で、近くにいなければわからないほど小さな小さな鼻でのため息をついた。
迷いなのか、躊躇いなのか、ジェスターは目を閉じて自分の右目のまぶたを指でそっと撫でる仕草をした。
「本当の、理由か‥‥」
「話してやったらいいんじゃないか?」
「レオン‥‥」
「彼も大人だ、ちゃんと現実を受け止められると思うけどね」
レオンは複雑な憂いを含んだ笑顔になる。
「知っておくといいよ、私には理解できない世界だけれど、騎士ならば、理解できるんじゃないのかな? なにが起こったのか、騎士団団長として知っておくことは、今後自分の身を守る手段にもなるはずだし」
「‥‥それならば、ジル、君も一緒に聞きなさい。興味はあるだろう?話は長くなる」
「じゃあ、軽く何か用意させよう」
メルティオス家の応接間。突然そのときがやってきた。
《23年前の出来事》が語られる。
あの日生き残れた男から生き残れなかった男の息子に、あの日なにがあったのか。
主人公、出てこないー。
次‥‥あ、次もでてこない。
こんな感じにもうしばらくお付き合いください。




