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一章 * 出会う人々 4

入れる予定のなかった客間でのやりとりです。

リオンの力についてちょっとだけ分かります。

 アルファロス公爵家はまさに大豪邸だった。

 いや、大豪邸というかそもそもこれは家なのか?と三人が疑問に思うような敷地と建物で、正門前に立った時は三人が揃って呆気に取られていた。

 そんな屋敷に案内されて落ち着かないまま客間に通された瞬間、リオンが急に立ち止まって後ろを歩いていたジェナがそんな彼女に思いっきりぶつかり、その勢いで二人揃って前のめりによろけてしまう。

「ちょっとリオン?」

「あ、ごめん」

「なに?」

「どうした?」

 ビートが振り向きリオンを見ると、彼女の視線は何故か彼女の左側向こうにある壁に向けられている。

 セリードとアクレスもその方向に視線を向けたが意味がわからない。そこには壁しかないのだ。

 答えを出したのはミオだ。

「おじ様が屋敷に入ったあなたたちの気配を探っているのよ。そのずっと向こう側に書斎があるの、知らない人間の気配だと気づいたから見ているのね。立場上どこに何人いるか探るのが癖になっているの、許してね」


 近くに人がいるかどうか、何人いるか、そういう気配を探ることが出来る人はわりといるもので、魔導師という職業でそれなりに働けている者なら大半が出来るし、魔導師に並ぶ《能力持ち》である騎士でも二割程度がその能力を持っている。一般人の中にも気配を感じるだけなら出来るというのはよく聞く話だ。

 だが、()()()()()()という気配を感じることはほぼ不可能と言われている。

 ほぼ、というのは限られた人なら出来るという事ではあるのだが、その限られた人に該当する人物が今ここにいる。

 ミオだ。

 ティルバには独立した地位がいくつかあり、ミオはその地位を得ている。それが《聖女もしくは聖人》という地位だ。

 数十年に一人の逸材で、幼い頃から魔力が極端に多いこと、あらゆる魔法を扱えることなど厳しい条件を満たした者がなる職業といえる。

 とくに重要視されるのは先見や予見と言われる未来を視る力だ。これがなければどんなに強力な魔導師でも決してその地位につくことはできない。


 そして今現在、ティルバの聖女の地位にいるのがこのミオであるが、そのミオは気配を探られている事をいつでも感じ取れる。彼女の次に魔力を有する魔導師が数人この国にいて、その人たちも可能である。しかし、そんな彼らに認められ将来を期待されている数十人の魔導師の中ではそれが出来るのは今のところたった六人しかいない。

 つまり、国単位で見ても出来る人はその程度なのだから、ほぼ不可能という表現は大袈裟なことではない。

「あ、この人がジェスター様‥‥」

 セリードたちが驚くそばで、リオンは一人特異な能力を発揮している事を理解していない様子で、その気配に納得したような、そんな顔をしていた。


 リオンの呟きと視線に、セリードとアクレスは瞬時に彼女の能力がどれだけのものか、大まかとはいっても把握出来た。

(凄いな、さすがはミオの力をはね除けるだけのことはあるか)

 しかし感心したような、そんな顔をしたセリードは次のビートの言葉に首を傾げる。

「なんだ、今日はえらく調子いいな。いつもならとっくに切れてるだろ」


 調子いい? 切れてる? なんだそれ、である。


「ん? そうかも。でも多分この後切れるわ、これ。最近その感覚はわかってきたのよね」

「あー、じゃあまたしばらくはおさらばか」

「なんのこと?」

 ミオが問いかけると、リオンは悲観した様子は一切ないが情けなさそうに、困ったように、顔を歪ませる。

「普段は魔力がほとんどないんですよ」

「え?」

「ごく稀に今日のように魔力が出るというか。しかも前触れもないし、不定期なので、治癒とか再生とか出来るんですけど魔導師として役に立たない状況で。一応ほかにも出来ることはあるんですけど、魔導師として登録出来るものじゃないんですよねぇ」

「ちょっと待って?」

「はい?」

「蘇生も出来そうな魔力があって、探られているこをとを感じ取れる程の感覚を持っているのに、普段は使えない?」

「使えないです。全く」

「抑え込んでいるのではなく?」

「抑え込むなんて高等技術知りません。勝手に出て来て、ある瞬間プッツンと切れるように勝手に使えなくなります」

「そんなばかな。それほどの魔力を無意識で制御しているというの?」

「‥‥制御、なんですかね? これ自分ではホントにどうにも出来ないんですよ」

 リオンがへらっと笑った。ミオは額に指をあてがい、セリードとアクレスは訳が分からず固まっている。

「では、私の魔力が抑え込まれたのもあなたの魔力が勝手に出ていてあなたは分からずにそうしていた、ということ?」

「抑え込こまれてたんですか?!」

「ええ。かなり不安定な状況でまともに魔力が扱えなくて。しかも何度試してもあなたの魔力に跳ね返されるのよ。ここ数日続いているわ」

 ここ数日、の単語にリオンは目を見開いてから明らかに気まずそうな反応を見せた。

「あ、それ私ではないですね」

「え?」

「私の魔力が出てるのはせいぜい数時間で、今日みたいに半日持つのは珍しいんです」

「えっ? でも、あなたよリオン、たしかに。魔力が急激に上がったのを感じたの、延命の魔法を使ったわよね?その時ずっと探していた人物のかすかな気配からわかっていた魔力は間違いなくあなただったのよ」

 そしてリオンは少しだけ困ったような表情に笑顔を乗せる。

「私ではないです。でも、私のことを探していて跳ね返された、というなら、思い当たることは‥‥あります」


(なんだ、あれ)

 父を呼んでくるついでに着替えてくるから寛いでいてくれと客間を出たセリードは扉を閉めて歩き出して数歩で立ち止まると、緊張から解放された時にするように息を吐き出した。

(規格外、というかなんというか)

 そして再び歩き出して、今度はため息をつく。

(蘇生も出来そうな魔力を持ってるのに、普段は使えない? ミオの力を跳ね返したのは自分じゃなさそうなことも‥‥)

 騎士ではあるが幼い頃から従姉妹であるミオと過ごしたおかげでそれなりに魔力についての知識があると自負していたセリードは常識を覆されることを喜んでいいのかどうか、迷っている。

それでも。

 ミオは確かに彼女は《魔物》による今のこの危機的状況を打開する存在だと言った。

その事だけは、自分の期待や希望を込めて信じてみようと思えている彼がいる。

(一つはっきりしてることはある)

「顔、割りと可愛い」

 真顔で声に出して、彼女を信じるための要素としては不必要な事で一人勝手に納得しつつ、セリードは父の予定を把握している執事の元へと向かった。


セリードがリオンに興味を持ちはじめました。

この男、私的には取り扱い注意の物件になる予感があります。

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