二章 * 火種
あ、またオジサンばっかりになってます。
主人公どこにいった?と思わず読んで頂けたら幸いです。
4月21日修正いたしました。
伯爵の名前 ブルーノ・ジーク → マーチマス です。
バイエン・ビスタは微動だにせず二人の言葉を聞き取るだけだった。
なぜこんなことになったのか、今こうして議論している内容が本来の議論すべきものから離れ始めたのは何故かを一応考える。
何回ため息が出そうになったかな? なんて事まで考える始末で目の前の噛み合わない二人にわざとあくびをして会話をぶった切るタイミングまで見計らっている自分に呆れつつ、会話を聞くことに専念する。
「議員権があるだけで決定権もないお前がここで進言することは法令違反だぞ! 決定は私とバイエン様、クロード様、そして陛下のすることではないか? 全く、法も忘れたのか」
一度は引退し、残りの人生を念願の古文書の解読などにあてはじめていたが、周囲の強い希望で一年前に政経院の最高議長職に復帰したバイエンは、面倒なときに復帰してしまったと、多少の後悔がため息をつかせる日々を過ごしていた。そして彼は突然クロードがただならぬ雰囲気でアルファロス公爵の要請による王家による審議会を開くと政務室に乗り込んで来て言い出した時にはため息を連発してしまいたくなるこの言い争いらしきものの予感はあったので驚きも動揺も彼には起こっていない。
「では言わせてもらうが、ネグルマへの騎士団討伐派遣にあれほど難色を示したのに今回はなぜそんなにビス市への討伐派遣を推し進めた?」
「ビス市での被害が大きいからだ。そんなことも知らないで口を出したのか」
「ネグルマはビスより早く被害が報告されている、死人の数も増えているばかりだ。その理由をさっきから聞いているのになぜ答えない? あの地域は荒涼とした大地が大半を占め、人が住む地域は広範囲に点在している、それゆえ大規模な守護隊がなく、守護隊は疲弊し、周辺の市町村では対応できなくなる限界に近づいている。しかしビスは報告にあったようにある程度の対策を取っていたし、死人はほとんどなく市政も未だ機能しているし財政も安定している。聖女の言葉に従い魔物討伐ではなく魔物対策と調査、市の再建を中心とし、人命優先の支援を行いつつ市民の不安を取り除くのが優先。それが国民の安息につながると予見したのだ。それを無視すると?」
全くバカな男だ、とバイエンはジェスターの前にいる男に言ってやりたい気分だ。
「そして、魔物について詳しく知る者がいることを君も知っているだろう。その者が手を出してはいけないと断言したんだぞ、我々よりも遥かに知識を持つものがそう言ったのを無視できるのか」
「私はまだその者に会っていないのでね。信用するには早すぎる。君こそ騙されているんじゃないのか? 昔は冷静沈着、〔ティルバの剣〕とまで称えられた君が地位も名声もない片田舎の女を信用するとは。聖女もまだまだ経験不足、先見ではなく予見では心許ない。ああ、失礼? 君の姪を侮辱したりしないよ、彼女はこの国の大切な聖女だ。役に立つかどうかは別だがね。しかし、まぁ‥‥君も大分落ちぶれたものだ、国の仕組みも忘れたのか? そんな男が議員権を復権して立場を利用してずかずかと神聖なる最高審議会に口出しなど」
「話をそらさないでくれるか、ブライン」
毅然とした態度でジェスターは領有院最高議長のブラインの言葉をさえぎった。
「さっきから大切な審議内容から逸脱してばかりいる。今すべきことは何か? を話し合っているのだ、罰ならばあとでいくらでも受けよう。だからつまらぬことで審議を遅らせるんじゃない、領有院の最高議長ならば議長らしくしろ。視野が狭くて勤まる地位ではない。出来ないならさっさと他に席を譲れ、若い議員には有能な者も多いんだ、立派に議長を勤め上げてくれるだろう」
ジェスターが騎士になり、騎士団団長にならなければ、この男ブライン・ディーマインは間違いなく最高議長に『絶対なっていなかった』。
もう一人、この国の公爵、レオン・メルティオス公爵は
『ジェスターがいない領有院に興味はない。権力争いに血眼になっている議員ばかりの議会がおもしろいわけがない、税金の無駄遣いばかりを考える議員と同列に見られるなど不愉快だ』
と、議会に多数ある議員席からたったひとつの最高議長の椅子に移り座ることを断固拒否し続け今に至っている。
どちらも長きに渡る公爵家であり、絶対的な忠誠心で王家に仕え、領地を守り続ける才能と財力を維持し、度々領有院の最高議長を当主たちが務めてきた。それがある種の暗黙の了解であり、なにより、領有院の安定的な結束にも繋がっていた。
そんな男二人に、今の領有院最高議長が肩を並べられるか?
バイエンの答えは『否』である。
「陛下のご英断を。先日の騎士団派遣で騎士団ひとつが未だ機能していません。それについてはなるべく早期に解散もしくは新騎士団団長の選出で再結成することを提案します。保留のままでは所属する騎士と魔導師も行き場がなく公人としての義務も果たせず不安でしょう。そして騎士団派遣についてですが、ルブルデンへすでに全十三隊のうち五隊を派遣させる決定までされていますが、隣接する町での目撃情報と田畑の荒らしがあったこと以外、実害はルブルデンに出ていません、よってルブルデンへの遠征の組織図を今一度お考え下さい。もちろんビスへの派遣は賛成です、早急な対応が求められるのですから。しかし今後の対策と国民の安全を第一に。討伐名目ではなく防衛と市の復興こそがビスの早い立ち直りと周辺経済の安定に一役買うはずです。先に出向したマリオ隊に続く明後日出立予定のジル隊、バノン隊には討伐遠征から支援遠征への変更証明を持たせ三隊協力体制にてビスでの支援活動を命じるべきです。ルブルデン行きは二もしくは三隊へ変更、減隊では納得しない議員もいるでしょうが状況から三隊が限度です。万が一他で緊急要請が出た場合、王都を守るに必要な待機騎士団の最低数四隊を下回る可能性も考慮しなくてはならないはずです。総合的判断を下したあと、改めて全体の再編後にネグルマへ。これも討伐ではなく、調査と対策を優先させ人命優先の活動を徹底すべきです。ネグルマ遠征についてはマーチマス伯爵が自身の領地内にある屋敷を解放し騎士団を受け入れ支援する準備があると書簡が届いています。魔物の凶暴化と増加に尽力してくれる騎士団への支援は惜しまないとのことです。これらを全て踏まえ、陛下の下される決断であれば私はこれ以上口はださず早急に王宮から下がるつもりです。それと、ブラインの言うように最高決議の席に押し掛ける形になったことへの謝罪を申し上げます、いかなる厳罰も覚悟の上で同席を致しました。偏った情報と意見のみが陛下のお耳に入ることは懸念すべきことと思っての私の言動です、そして私の言動は長きに渡り、この王家に忠誠を誓い仕えるアルファロス一族の総意であることもお忘れなきよう。我々はいつでも王家に仕える血族であり、その王家が道を誤らぬよう諌めるのも使命です」
長々と、難しい話が嫌いな人間が聞いたら吐くか倒れるかするんじゃないか? と言ってやりたくなるようなジェスターの言葉は、どう見ても聞いてもたかが一議員の声と雰囲気ではないのはご愛敬くらいに思わなければ、誰であろうと完全に気圧されるにちがいない。
この男が領有院の最高議長になることを誰も疑わなかった。心のなかではよく思っていない奴等でさえそれが慣例みたいなものだった。
彼が辞退したそのときから少しずつ領有院で名前を広げていったのがブラインであり、いろんな噂が時折真しやかに流れるようになったが、その噂の中心とされるのもブラインであり、いつしか領有院の中では漠然とした不安をかかえ、それを密かに魔導院や政経院の親しい議員に漏らし始めている者もいる。
そして、騎士団から退団し、二十年以上公爵として事業に専念し政治の表舞台に殆ど姿を見せなかったこの男は戻ってきた。
(さて、話が進みそうかな)
詳細は何一つ分からないが〔二十三年前の出来事〕の呪縛から解放されたと言う。生涯をかけてやることが出来たと、その辺の獣や魔物より鋭く刺すような目つきをする男が言ったのだ。
(どうする? ブライン、このままでは、お前の居場所は減るばかりだ)
バイエンはようやく、重い腰をあげた。
(全く、復帰するならさっさとしてくればいいものを)
ジェスターにそう恨み言の一つでも後で言ってやろうと、バイエンは決め込んだ。
ブラインはジェスターの『議長らしくしろ』という言葉に動揺したのか、何も言い返すことが出来ないでいる。
(さて‥‥ブラインを大人しくさせて話し合いを円滑にするには今後どうするのかも考えなくてはならないだろう、忙しいことだ)
バイエンは、やっぱりため息が出そうだった。
執筆していて気がついた。
次の幕も主人公出てこない‥‥。
そのうち出て来ます、必ず。主人公ですので。頑張って出てもらいます。




