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二章 * ジジイ二人よくしゃべる 後

 その後もビートが魔力を込めた琥珀の話をリュウシャがあくまで自分の見解として、を強調して続けた。

 これほど特殊な状態にして施術をするには相当の訓練が必要で、そのために他の能力の部分が何かしらの影響を受けてしまうだろうということと、それがわかっていてやっていること、なによりそれでもビートが突出して強力な魔導師であるため可能なことなど、ミオやクロードがジェスターと話したであろう、主にビートが話題の中心だったが、ガイアがその琥珀をリオンが聖獣にあったら渡してほしいと自分達に一つずつ渡してきた事に触れると、そこからようやく本題でもあるリオンの話に切り替わる。


「本当に不思議な娘だな」

「ああ。さっきも話したが本来魔力は微力、なのに治癒や蘇生の魔力は桁外れの効果を発揮して聖女すら超える精度らしい。セリードがリオンに初めて会った日に彼女が行っていたのは明らかに延命と蘇生の術だったし聖女もその魔力のお陰で位置を特定できたらしいからな、間違いない。‥‥おまけに聖女が取り除けなかった上皇たちの痛みを取り除くなんて規格外の魔力を持っている。いや、それは魔力かどうか怪しいからな、特殊な技術というべきか」

 リュウシャはちょっとだけ笑みを浮かべる。

「これからどう化けるか、だな」

「それは危険ではないのか?」

 ガイアが静かに問いかけた。

「俺は、少し恐いな」

「ほう? お前にも、恐いものが」

 からかい混じりの軽い声のリュウシャを、声は押さえているが制するように遮った。

「聖獣と深い関わりがあるだけならいい。だが、彼女は魔物に襲われないんだろう? そしてもしそれが本当だとして、その魔物と聖獣に我々がまだ知らない深い繋がりがあるなら、魔物とリオンの間にも誰も手が出せない、繋がりがあるんじゃないのか?」

「それは‥‥。」

「危険だろう。どう考えても」

 険しい表情で、ガイアは続ける。

「彼女は聖獣と魂を共有する存在で、聖獣が彼女を特別な存在として扱っている、それは今日の会話でも垣間見えたさ。だが彼女が言うようにもし本当に魔物と化した聖獣が存在して、その人間の脅威でしかない聖獣でさえ彼女と魂を共有しているとしたら危険ではないのか?」

 リュウシャは黙り込んでしまう。

「上皇たちを瀕死にまで追い込んだという《シン》は我々は見たことが無くても魔物にしか思えないではないか。太刀打ちできない圧倒的で暴力的な魔物でしかないんだぞ。なのに、リオンはそうは捉えていない。あくまでも、魔物とは全く違うものとして見ているようにしか思えない。元は聖獣だとしても、我々には恐怖の存在でしかないのに、リオンは違う」

「確かにそうだな。‥‥だがな、ガイア。彼女がどんな理由でも我々を裏切ったりはしないと思うぞ」

「そういうことじゃない」

「何が言いたいんだ」

「お前は一瞬も思わなかったか? ‥‥リオンの意思とは無関係にあちら側に彼女が引きずられ人間の味方ではなくなったら、と。敵になる、とは思えないがそれでも、人間である彼女が人間と距離を置いたらどうなる?」


 一口、また一口と沈黙の時間を誤魔化すようにガイアは酒をわずかな量だけ口に含んではゆっくりと飲み込む。

 リュウシャは微動だにせず黙り混んでしまった。たぶんガイアの懸念は、彼の脳裏を過ったことがあったのだろう。

「ここで我々が議論することではなかったな」

 沈黙はガイアが破った。リュウシャはずっと手元を見つめていた目を閉じ、体の力を抜いて深呼吸をしてようやく体を動かした。

「どんなことがあっても我々がリオンを信じて護衛することにはかわらない」

「当然だ」

「これから、少しずつあらゆることを知ってゆくことで、魔物に対しての解決策も回避の方法も分かってくる。ここで今の不安を議論する必要は、たしかになさそうだ。この話は、いずれ彼女がもう少し自分がどういう人間なのか理解したときにでも本人を交えて話すべきだな。あの子なら、ちゃんとその疑問に真摯に向き合ってくれるはずだ、な」

 リュウシャは複雑な笑みを浮かべそう語ったけれど、やはり心はその笑みが現すように納得はしていない。

「‥‥本当に、リオンは一体何者だと思う?」

 結局は、()()に行き着くのだ。

「出生自体は問題なかったんだろう?」

「らしいな。セリード隊の副長、アクレス氏の調べでは、地方の多少裕福な家の生まれで母親と姉が魔導師らしいが能力もごく平凡、特別注目するような家族ではないと。例のビートという養父が遠縁にあたるがその一族だってビート以外は特筆すべき能力持ちはいないらしい」

 そこまで言ってまたリュウシャは黙り込む。

「どうした」

「ただ、予定日よりかなり早く生まれたと」

「リオンが?」

「予定より一ヵ月以上早く。付け加えれば、生まれる二日前にあれだ」

「なんだ?」

「《二十三年前の出来事》が起きた」

「偶然‥‥だろうか?」

 リュウシャのように、ガイアも黙り込んで宿のその一室は静まり返った。


 男二人はそれぞれ口にはしないがリオンの事を考えていた。

 謎が多いうえに未知の力を持つ。聖獣と魔物との関係性は未だ本人すら正確に理解していないという不安要素を抱えている。

「彼女に接触する人物を制限するよう進言するべきかな」

 ぼそりとリュウシャが呟く。

「お前の言う通り、危険な要素がありすぎる。議員には浅はかな発言が多いものや私利私欲のことしか考えないものもいる。それに‥‥口出しされると扱いに困る者もいる。今のところリオンについては伏せられていることが多いがフィオラのお付きとして今後も王宮に頻繁に入るだろうし魔物について対策が見つかり、直接リオンが関わって来るならば隠しようがなくなる。利用しようとする輩は爆発的に増える」

「その点はあまり気にしなくてもいいだろう。アルファロス家が全面的にリオンを支援する。聖女もいるし大丈夫だろう。ただ、たしかに厄介なのはいるな。王家にな」

 ガイアの最後の一言に迷いもなく、当然のようにリュウシャは大袈裟なくらい何度も頷いて幸せが根こそぎ抜け落ちそうなため息をついた。

「同じ環境で育ち、同じ教育を受け、何より聡明な両親から生まれたことも同じだというのになぜああも違うんだ?王子は」

「王子は公務につくようになり既に三年、王女も社交界にデビューし、本来ならお二人とも皇太子のように陛下の名の元、王族として視察や行事の主宰を務める立場だというのに。‥‥王子は公務は自分の側近に丸投げ、慈善活動の主宰を務めることもないからいざ他国の王族と会話となるとなにも知識も話題もなく。王女は王女でお茶会だ晩餐会だとパーティーばかりを開くし、基礎教育は学んだから政治経済はその都度勉強すれば大丈夫といいながら議会の今の審議内容などは一つも理解していない。私も何度か魔力についての講義を請け負ったが酷いものだ、二人とも私は王族なのだからそういうことは魔導師が勉強し理解してサポートすればよいと言って講義に来なくなった」


 リュウシャは言いきって嫌そうな顔を隠しもせず、チラリとガイアに目を向けた。

「口出し、してくるだろうな?特に王子。してこないにしても何かしら問題は起こす」

 そしてガイアもシラケた呆れ顔で首をコクコクと軽く曲げるように頷きグラスに残っていた酒と共にため息を飲み込んだ。

「そしてそれに便乗するやつらも出てくる。上皇やクロードはもちろん‥‥ジェスターにもその辺りの壁になってもらうしか、ないだろうな」

 ガイアは結局ため息をつく。

「王子も王女も、担がれたら気づかず調子に乗る性格、皇太子と陛下の邪魔をすることにならなければいいが。特に、王子だかな」

 王族の者をこんな風に言っていいものではない、しかし彼らはその身近な人物に長い間仕えているゆえに悩みの種を知っていて、それが王家でも問題視されつつあることを十分理解している。

「いっそのこと魔物問題とは無関係なことで大問題でも起こしてくれればいいんだ。堂々と審議会にかけられる。色々噂があるしな? 一発で謹慎になりそこらか一気に追い詰められる」

「おい」

「そしたら王子と王女の無駄遣いを止められるし、うまくいけば監視付き別城送りにできる。王位継承権の剥奪も夢ではない」

「いい加減にしろ」

「監視は私がやってやろう、ついでにあの性格も叩き直してやる」

「‥‥おい」

「問題を起こしやすいように根回ししてやろうかな?」

「お前、酔ってるな?」

「酔ってませーん。いつでも正気だ!!」

「あぁ‥‥酔ってる」

 会話する気が一気に失せたガイアに対してリュウシャはこの後一人ガイアの相づち一つすらないのにしゃべり続け、その五月蝿さにガイアはリュウシャの頭をひっぱたいていた。




この二人、作者としては大変使い勝手のよいキャラクターなので困ったときに沢山出てもらおうと思ってます。

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