二章 * ジジイ二人よくしゃべる 前
昨晩更新した説明編に続き本編更新です。
タイトルそのままです、ジジイ二人のおしゃべり回です。
たぶんこの二人はそのうちまた『ジジイ二人~。』というタイトルで出てきそうです。
にわかに信じがたい話を、あのあとも食事と一緒に若い二人は楽しんでいた。フィオラは詳しく本人から聞かされているだろうと二人の会話からもよくわかったが、それでも
「は?」
とか
「それ聞いてないけど」
というフィオラによる返しはそれなりにあって、年老いて多少頭が凝り固まってきた男二人にはなぜこんな話を楽しそうにできるのか、全く理解できず食事は味を楽しむ余裕などなく、ただ気がつけば満腹になっていた。
「上皇があの痛みから開放的されたと聞いた時」
早々に風呂も済ませたリオンたちは迷惑をかけられないからと早朝の出発に寝坊しないように宿の部屋にさっさと籠ったようだ。ガイアとリュウシャは二人、籠るという様子ではないが宿の部屋で外で購入した酒を分け合いながら静かに時を過ごす。
「どんな魔力を使ったのかと。クロードは実際みれば分かると言ったが‥‥」
「お前の見立ては?」
リュウシャはグラスを腰かけている簡素なベッド横にある小さな物置に置いて前屈みになると膝に自分の肘を乗せた。
「今まで見たことがない。誰もなし得なかった痛みを取り除いたというのに、今のところリオンからはほぼ魔力を感じない。抑えているんじゃない、実際に無いように見えるんだ。何かに覆われているのかそれとも他の理由かも全く分からない」
「‥‥それに、クロードが言ってたな。上皇を痛みから解放したとき聖女とは違うが明らかに濃い魔力を感じたと」
「ああ。だが、そのあと一瞬でそれが消えて‥‥残ったのは、その魔力を隠すような覆い被さるような、弱い結界に似た魔力しか見えなくなったらしい。そもそもあの時だって私は王宮にいた、聖女ミオより濃い魔力を放っていたならわからないわけがない。なのに、感じなかった。意識しなければ感じられない魔力なんて今まで出会ったことがないんだよ」
彼の言ったことにガイアが呆れた様子でため息をついて、自分が座っているベッドから立ち上がり荷物をまとめて置いている衣装棚まで行くと、今日ずっと羽織っていたマントの内ポケットからリオンに貰った琥珀を取り出した。
「ちなみに、これにかけられた魔力もお目にかかったことがない、と言っていたな」
ガイアは自分の荷物の上に腰かける。
「俺はお前のように魔力を判別したりできない。出来れば詳しく説明して欲しかったんだがな」
「じゃあ、それについてまず説明しようか。正確に言えば、出来なくはないさ。ただ、今まで本当に見たことがないからな、半分信じられない気持ちがまだある。この琥珀、あのフィオラが気がつかなかったということに驚いたのさ。聖女お墨付きの将来の魔導院最高議長候補のあのフィオラがだぞ。‥‥特殊な身守りの結界でな」
「おいおい」
呆れ笑いでガイアが首をふる。
「勘弁してくれ、身守りの結界を物にかけられるというだけで相当の魔力を持ってる。で? 特殊だと? その時点で俺の常識を逸脱している。話についていけるか?」
「まあ、聞いてくれ」
リュウシャもポケットに入れていた琥珀を手に取るとじっと見つめる。
「身守りの結界は、かなり微弱なんだ。琥珀が割れないようにというのは本当だろう」
「お前は同じ事を出来るのか」
「出来る。だが、こんなに微弱な施術はしない、する意味もない。私の纏うローブにもかけてある。それなりの魔導師ならば、自分の身に付けるものに防御として機能するなんらかの施術はやっているだろう。不必要に強固にしてしまうと魔導師として長けていると憶測されて注目される原因になるからな、戦場以外ではあまり身につけない」
「まぁ、そうだな。」
「武器も防具も魔導師による鍛治と施術で魔力が込められれば物理攻撃や魔法攻撃による衝撃を緩和してくれるし、その物の質を高めて強度をあげられるだろ? ただし‥‥所詮は物だ、使用を重ねれば破損するし魔力は自然と抜けていく。壊れないようにするためには、それなりの魔力を込めてやらなくてはならない。この琥珀のように、魔力がこれほどまで弱ければ普通は身守りの役目など果たさず、効果もあっという間に消えると思うぞ、一週間ももたないさ」
「この琥珀は‥‥」
「物理的な衝撃から守られるようそれなりの身守りの術が効いているのに、なのに消えてしまいそうなほど微弱な魔力が非常に安定してかけられているというこだ」
「‥‥すごいな。あのビートというやつは」
「すごいどころではない、恐いぞ」
急にリュウシャが鼻で笑った。
「フィオラが気がつかなかったのはなぜだと思う? ヒントは私とフィオラの決定的な違い、と言えばわかるかな」
少し考えて、ガイアが自信なさげに答える。
「攻撃型と支援型か?」
魔導師には大きくわけて二種に分類される。
「そう。私の基礎が支援型、そしてフィオラは攻撃型だということだ」
支援型は治癒、再生、蘇生、ほかに結界によって侵入を防いだり、動きを鈍らせたり停止させるなどの直接の攻撃とならない魔法全般をさす。割合としては魔導師の三割ほどが該当し、数が少ないことからどの国でも重宝される。
「それがどう関係してるんだ」
攻撃型はその表現通りで、戦闘などで攻撃を得意とする魔力をさす。火や水、風などの自然を操ることで攻撃するのがおもな力だ。ちなみにその種類や方法などは様々でそれらを解説する本はこの世で最も分厚い、とまで言われている。
「あくまでも私の勝手な見解だが、本質が攻撃型である魔導師は気付きにくいよう、身守りの術の下に気づかれないよう、さらになにか複雑に複数の魔法を施術している可能性がある。この身守りの術を解いてみないことには断言できないが」
リュウシャは特に魔力が強く、あらゆる支援型を使いこなす。さらには攻撃型も大半は使え、まさにティルバの魔導院を牽引してきた一人として人々から尊敬されている。それでも、元々が支援型だ、ほとんど彼は攻撃型として活躍することはなかった。なぜなら、やはり質の違いでその精度は落ちてしまうのだから。使いたい力の強弱のコントロールが不安定になってしまえば戦場では命取りになることは明白だ。
そういう意味ではフィオラは典型的な例と言えるかもしれない。
『フィオラは完成された攻撃型なのよね、よくも悪くも』
と、ミオが彼女の事を説明した事がある。攻撃型としての魔力は将来、ティルバで攻撃型として名の知られている他の魔導師数人をあと数年もあれば超えると断言されているだけの潜在能力がある。彼女は自然の力を操るどころか、それを自分の力に転換し跳ねたり走ったり剣を握り振る力に変えてしまうことも可能らしい。ミオの推薦があったとは言え、議会が満場一致で彼女をミオ付きの魔導師になることを許可したのは彼女一人で魔導師10人分の護衛は出来るだろうと判断されたからだ。そう考えると正直怖い女でもある。
だが彼女には欠点がある。支援型の魔力を操れないのだ。普通は強力な魔導師なら自分の質ではない方の魔力もある程度使いこなす。なのに彼女は皆無に等しい。いま出来るのは軽い怪我を治す、しかも自分のだけ、というなんともお粗末な力しかない。(本人も開き直って支援型の魔力の鍛練をやめてしまっている)
「危害を加える可能性がある魔力を持つものには、分からないということだよ」
「!!」
「攻撃型としてだけでなく結界や魔力の見極めが飛び抜けて優れているフィオラが、手にとって集中してようやくわかった原因はそれだと私は思うがね」
しばらく黙り込んでしまった。リュウシャが棚に置いたグラスを手にとって一口酒を飲んだことが沈黙を破るきっかけになった。
「その考えをより正解に近づけたのは、お前の反応もあるよ。気がつかなかっただろ? この琥珀に魔力があると」
「‥‥ああ」
「お前は〔能力持ち〕にたまにいる騎士と魔導師どちらも使いこなせる能力者だ。しかもその魔力は完全に攻撃型だ」
ガイアが壁に寄りかかって棚に肘をつき、頭を抱えた。
「クロードや聖女はどこまで知ってるんだ?」
「さぁな。おおかた把握はしてるだろう。上皇がリオンに付いて行くよう私を選んだのもその辺が関係しているのかもしれない。クロードがあの男を非常に気にしていたのがここに来てわかったよ。あの男は魔導院にいたら間違いなく次期最高議長の候補の一人になっていた」
つくづく、若い女の子の登場が少ない話になってるなぁと、執筆しながら思う今日この頃です。




