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一章 * 出会う人々 3

「挨拶はあとにしよう、とりあえず場所を変えないか」

 セリードは会った途端互いに何か感じるものがあるらしい、見つめ合う女二人、リオンとミオに向けて咳払い付きでちょっとだけ大きな声をかけた。

「そうね」

 リオンが聖女と呼んだ女、ミオは騎士団団長の一人であるセリードの隊の副長が手綱を握る馬の上で賛同すると指を揃えた右手をスッと上げた。

「えっ?」

 思わずリオンは上ずった声を出す。

 駆けつけた王都の治安維持組織である守護隊の隊員に、まだ体を起こせない男を預けて立ち上がっていたすぐ側にいるセリードはもちろん、非常に高貴な身分と分かる服装をしたミオが乗る馬の手綱を握る男、そして左右と後ろで馬に乗っていた男たちが、ミオの手が上がるのがある種の決まり事の合図なのだろう、すぐさま馬から降りるとリオンに向かって深々と礼をしたのだ。

 そしてミオの手が下がる。

「まずはこの場でこの国の国民として感謝を申し上げます。あなたの慈悲によりその者は無事家族の元に帰れることでしょう。本当にありがとう」

「あ、いえ」

 あまりにも優しくそして(みやび)なミオの笑顔にリオンはだらしなく口をあけてポカンとして微笑み返すことも忘れてしまった。

「そして申し訳なくも思います、あなたのお召しになっている服が血に染まってしまったことに。そのままでは帰るにもどこへ行くにも不便でしょう、ですからこちらで代わりを用意します、よろしいですね?」

「はぁ」

「では、参りましょうか」

「あ、は? はい」

 リオンのなんとも間抜けな返事も柔らかな笑顔で受け止めるミオ。

 そしてクルっと振り向いてやはり優しく雅な笑顔が向けられた先にはビートとジェナ。

「お連れ様もどうぞ一緒に」

 息を潜めて事の成り行きを見ていた二人はなぜ気がついたのかと、流石にびっくりした様子ではあったがすぐにリオンに駆け寄ると、まだだらしない顔をして高貴な雰囲気が滲み出るミオをじいっと見つめているリオンの頬をビートが軽く叩く。

「その顔、何とかしろお前」

「へっ? あ、はっ? あ、ごめん。だって初めてみたから。凄いよねぇ? 会えば分かるってホントだったじゃない? さすが《シン》はよくわかってる。」

 だらしない顔が急に笑顔になり、目を輝かせながら急に口が滑らかに動き出したところで、ジェナが勢い任せに手でリオンの口どころか鼻まで塞ぐ。

「はい、余計なことは口にしない」

「……」

 うんうんと大きく頷いてようやく手を下ろしてもらうと今度は苦笑い。

 そのやり取りに少し気を取られそうになりつつも、セリードは守護隊に騒ぎの当事者たちとその場を任せて素早く人だかりから三人を連れ出した。


「君たちは馬に乗れる?」

「はい、大丈夫です」

 するとすぐさま騎士団団員三人が自分の馬をそれぞれリオンたちに譲ってくれた。初めは遠慮しますと断ったものの、《聖女様》がいると知った人々が次々と集まり出していて、ここに留まるのは危険だからと強く促され少々強引に流されるまま手綱を受けとった。


「こんな形での自己紹介もなかなか経験しないんじゃないかしら。でも一応ね、簡単にしておかないと」

 リオンたちは自分達がどこへ向かっているのか聞かされることはなかったが、馬を歩かせ始めてすぐにミオが軽やかな口調で切り出した。

 リオンたちはミオがこの国で最重要人物と言ってもいい強大な魔力を持って国を支える《聖女》ということに驚くことはなかった。彼女のことを探していて、そして会うこともままならないそんな彼女に取り次いでくれそうな人を何とか探しだすか、()()()()()()()()こちらを探してくれるか一か八かに賭けていたことをビートが自己紹介で簡単に話した。

 その代わり、セリードがこの国の超名門公爵家の次男であると聞いた時はリオンたちが妙な驚きを見せて、何か言いたげな顔をする。ミオとセリードは言葉にはしなかったが互いにアイコンタクトで何かあると合図しあう。

 

とりあえずの、自己紹介をするには向かない状態でなんとか全員が挨拶を済ませると、間を置くことなくミオは前を行くセリードに向かって声をかける。

「セリード、行き先を変えるわ」

「急だな、なぜ?」

「私の館に来客だわ、今の段階ではまだリオンたちを不特定多数に会わせるわけにはいかないもの」

「‥‥うちにするか? 今日は両親がそろっているがオレの行動については知ってるし。王宮のお前の宮よりはいいんじゃないか? 確か今日は‥‥来客予定もないはずだし部屋だけは余るほどあるしな」

「そうね、そうしましょうか」

 ミオはその類い稀なる魔力により特定の場所と人物の気配を察知することは呼吸をするように簡単なことだし知っている人物はもちろん、初見であっても性別とおよその年齢、そして背格好まで判別できる。今のちょっと困ったような表情を滲ませた笑みをするときはほば確実に招かれざる客であることを、セリードとミオの乗る馬の手綱を任せられている騎士団副長のアクレスは知っていてこのときもすぐに察したのだろう。特に慌てる様子もなくそんなやり取りをしてすぐだった。

「あの」

「うん?」

「ご両親、ということはつまり、ジェスター・アルファロス公爵、ですよね? 今自宅にいるんですか?」

「いるよ。気にしなくていいよ、互いの来客に干渉するような人じゃないから」

 頷いたリオンは微妙な顔だった。

 不思議に思いほんの少しセリードが頚を傾げる。

「えっと、突然ですが、会えますか?」

 リオンの問いにセリードはもちろんミオも団員達もさすがに困惑している。セリードは少し返答に困り黙ってしまう。

「‥‥んーと? 父に? ってこと?」

「駄目ですか?」

「それは、まぁ、本人に聞いてみるよ。今回のことは父も関心をもっているし。ただ、なんというか‥‥父、か。一応公爵なんて肩書き持ってるから急な客に簡単に会うようなことはあまりしないんだよ」

 ここで返事をするものではないなと判断して、うやむやにしようとしたセリードに、きっぱりと言い切った声。

 ビートだった。


「会ったほうがいい。


 《23年前の出来事》


 のことだ。

 騎士団団長してるくらいなら聞かされてるだろう。あのとき、生還出来た君の父上と、ほかの二人はリオンに会わなきゃダメだ」


 言葉を失い困惑し、それを誤魔化すかのようにセリードは髪をかきあげた。

 雅な笑顔がこわばり、なぜ()()()()が知られているのか戸惑いミオは周りに伝わらぬよう動揺を押さえ込むよう息を吐いた。


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