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一章 * 出会う人々 2

まだ話が見えてきません、ごめんなさい。


今後は登場人物や物語の世界観などを捕捉する説明の投稿もしていきます。

 ミオが急に立ちあがった。

「見つけた!!」

 普段おっとりとしている彼女がすぐ隣で腕を掴んできてそう声を荒げたのでセリードはビクッと反応してしまったし、一緒に護衛として行動している騎士数人もつい固まったり「うおっ」と声を上げたものもいた。

「この先で騒ぎか起きてる。そこにいるわ。間違いない、行って!女性よ、若い女性。金髪をひとつにまとめてる、血の匂いがするわ、何かに巻き込まれた可能性があるわ」

 彼女の少し興奮している様にセリードは珍しいものが見れたと内心思いつつ、すぐ頷いて腰かけていた茶屋の椅子から軽やかに立ち上がり歩き出す。

「先に行く。アクレス、ミオと一緒に来てくれ。皆もだ、ミオのことを頼む」

 一度振り向きそう言い放ち、セリードは茶屋の前に並べて待たせていた馬達の中から自分の愛馬を素早く誘導し、勢いよくその背に乗って手綱をにぎった。


 ミオの外出許可はすんなり受け入れられ、彼女のことを警護しつつ『その人』を探すというところまではよかった。

 しかし部下たちを伴いミオと共に王都をあてもなく移動するだけというのも三日目に突入すると流石にセリードも気が滅入って、朝目覚めた時にはため息が出たほどだ。しかも肝心のミオは意識を常にその人を探すことに向けているため会話すらないし、時々休憩を挟むのも苦痛でしかなかった。なぜならやっぱり一切会話はなくただ隣に座っているだけなのだ。

 しかも部下とちょっと雑談すると

「ちょっとうるさいわよ」

 とか

「黙ってて」

 とか、だったら周りの雑音や行き交う人の声はどうなんだよ? と文句を言いたくなるようなことで度々会話を強制終了させられていたのだから、ストレスがたまる一方だった。

 それが今ようやく終わったのだ。セリードの愛馬の手綱に込める手の力がいつになく強くなっても仕方ない、従姉妹と過ごすなんとも言えない居心地の悪い、気分が悪くなるような時間から解放されたのだから。そして何よりセリードの中に生まれた微かな希望。


 《(いにしえ)から続く問題》の解決への一歩。


 それが彼を突き動かしている。

 それがたとえ些細(ささい)なことでも、きっと何かが変わるかもしれないのだから。


「あそこか」

 立ち去る人もいればあえて駆け寄る人の姿もある。賑やかというより騒然としている昼間から酒が飲める食堂前の道で、セリードは愛馬を操り、ゆっくりとそのまま進む。人々が「セリード様だ」「団長様だぞ!」と声をあげ驚きながら進行方向を空けてくれるのに任せて進んでたどり着いたそこにある光景に驚き愛馬から飛び降りた。


 みぞおちあたりにナイフらしきものが刺さり、おびただしい量の血を流しながら地面に仰向けになっている男が「はっ、はっ」といまにもその弱々しい息づかいを終えようとしていた。そしてその男の頭をひざに乗せ、女がその男の手を握っている。

「一体何事だ」

「静かに」

 落ち着きのある声が男に触れようとしていたセリードを制止させた。

 きっちりと一本も落ちていないと思わせるくらい髪を頭の上でひっつめている。おそらく、それなりの長さと豊かな量があるだろうなかなかの大きさの髪の毛の塊。こぼれ落ちないようにするためかご丁寧に纏め(まとめ)あげた付け根あたりには布まで巻かれているし、ピンも至る所についている。その色気のない髪型が不釣り合いな、金髪だが色素が薄めの、艶やかな輝きが印象的だ。


 直感だった。その人だと。


「大丈夫、助けます」

 もはや指を動かすことも出来ず血の気が引いた、息が途切れそうな男の手を握ったまま穏やかで優しい微笑みを真っ直ぐ向けた女。血まみれの手を躊躇(ためら)わず(ひる)まず握り続ける。


 真っ直ぐ男を見つめる使命感に満ちた目が惹き付けた。

 深い、濃い青い瞳はまさしくサファイアブルーという表現にふさわしい。

 その瞳に相応しい強い意思が溢れているように見えるのは彼女が本来もつ性質なのかもしれない。

 絶対に助けると伺える表情に期待以上の何かを感じ、セリードは高揚感のようなものが自分の中に生まれたことを知る。

(これは‥‥)

 そして今目の前で解放された女の魔力。


 この力をセリードは知っている。手首から指先まで包むように、空気の澄んだ朝の太陽の光を思わせる白く輝かしい色を放つ魔力はごく限られた者しか使えないものだ。

 周りは「あのこ魔導師だったのか」なんて嬉々として歓声をあげたけれどそんな()()なものではない。魔導師ならば血を止めたり痛みを軽減させ回復を促す治癒という魔力、そして治癒より速く回復を促し、元に戻せたりある程度の病気からも回復させるという再生と言われる魔力を持つ者はこの王都でも少数とはいえ存在するが、今目の前のこの魔力はそんな話で済まされない。

 この女は、傷の再生どころではない。騎士の経験からして男の傷は致命傷なのはその(おびただ)しく流れた血と息づかい、そして顔色から一目で判断できるものだった。なのに女は消え行くはずの命を留めている、肉体の再生の影で、命そのものを。

(聖女やそれに近い魔力持ちの者だけが使える‥‥違うか? いや、しかしこれは。それに匹敵しないか?)

 全く同じというわけではないが明らかにこの魔力は治癒や再生という範囲を超えている。


 延命と蘇生。


「これで大丈夫。もう、こんなことはしてはダメですよ」

 治癒ならそもそも魔力の色が違い、暖炉の暖かな赤みを帯びた色を放つ。治癒自体そうそうお目にかかることはない魔力だから、ここにいる人々は誰も気づいてはいないし、延命と蘇生の魔力の色味や放たれる魔力の質を知る者もいないだろう。

 けれどセリードはミオが以前一度だけその魔力を知っておくべきだと見せてくれていたからどんなものなのか理解している。

「おみごと。いい腕をしている」

 そう声をかけると女はちょっとだけ優しい笑みを溢す。

「あ、いえ、そんな。時間ばかりかかってしまって。上手な人ならもっと早くできますよ」

「それでも消えかけた命を救ったんだ、その事実はかわらないだろう? そう簡単にお目にかかれるものじゃない」

 しゃがみ、膝をついて女に代わって息が落ち着き脱力したままの男の上半身を抱えたセリードの言葉に女はハッとして目を見開いた。その時初めて互いの顔を、姿をはっきり認識した瞬間でもあった。


  女の顔には明らかに動揺が見てとれて隠すことが出来なくなっているのは当然だろう。自分が何をしたか、その稀少性を理解している人はまずいないと女も確信めいた考えゆえの行動だったろうから。

 セリードはそんな女がこれ以上動揺し逃げ出さないように安心させるために穏やかに微笑み、唇に指を当てて「内緒だろ?」と合図を周りに気付かれぬように送ってみる。するとそれをちゃんと理解したようで、女は表情を緩めてほうっととても小さく、静かに、息をついた。

 周りが騒然としたままのその場の中心で、女は急にセリードから目をそらすと勢いよく立ち上がり振り向いた。

「ミオ様だ!!」

 人々のワッと沸き上がるような歓声に驚く様子もなく、女は肩の力を抜いてカクリとうなだれ僅か(わずか)に屈めた膝に両方の掌を乗せて、はあっと大きく安堵の息をもらした。そして数秒その体勢を維持したあとに上体を一気に起こして真っ直ぐ前を見つめて満面の笑みをたたえた。

「やっと、会えたぁ。聖女様」


  彼女が急に見せた人懐っこそうな明るく柔らかな雰囲気にセリードはつられて何故か自分も笑みを浮かべたことに気がついて、誤魔化すように、周りには気がつかれないように、目をそらしながら小さく咳払いをしていた。


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